"追い出された正月の一万円" 第1話
の始まりを告げるお正の朝、私はたいい息を吐きながら、誰も起きてこない暗い台所にぽつんとっていた。窓のはまだ暗く、しんしんとり積もるが全体の音を吸い込んでしまったかのように、気なほどの静寂が広がっている。コンロのにかけられたきな鍋からは、お雑煮の汁のばしく、どこか優しい匂いが、真っな湯気とともにゆっくりと広がっていた。
私はエプロンのポケットにそっとを入れ、あらかじめ用しておいたさなポチ袋を取りした。そして、ステンレスの調理台のに、傷をつけないよう枚ずつ丁寧に並べていった。縁の飾りが施されたその美しい袋の表面を見つめながら、私はこれから起きてくるであろう孫たちの無邪気な笑顔や、「おばあちゃん、あけましておめでとう!」と元気よく駆け寄ってくる姿をい浮かべ、胸を弾ませていた。
これまでの、私は毎同じように、このポチ袋に札の万円をきれいに包んで孫たちに渡してきた。それは私にとって、れて暮らす血の繋がった族への、ささやかではあるが精杯のの証だった。しかし、今の正は、私にとってこれまでのとは全く違う、特別なを持っていた。
ほんのヶ、私は連れ添い、私ののすべてを支えてくれた最の夫に先たれた。
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それからというもの、灯りの消えた古い自宅で、きりの底えするような寂しさにじっと耐え続ける々が続いていた。孤独に押しつぶされそうになりながらも、「私にはまだ、息子たちがいる。孫たちがいる」というその縷の希望だけを胸に、族の温もりを求めて、はるばるこの息子のまでやってきたのだ。何より、夫がくなってから、息子の孝之ので迎える初めての正だった。ここへ来れば、あの凍りついたような孤独から救われるのだと、私はの底から信じて疑わなかった。
朝のを回った頃、ようやくリビングのいドアがき、パタパタというスリッパの音が聞こえてきた。お雑煮を丁寧にお椀に盛り付け、お盆に載せて居へと運び入れると、そこにはすでに息子の嫁が座っていた。しかし、私と目がった瞬の彼女の表には、の挨拶を交わすようなれやかさは切なく、隠しきれないらかなたさと、苛ちのが混じっていた。嫁は私が運んできたお椀の元を、値踏みするような鋭い目でじっと見つめ、歓迎のなど微もじられない、くめ切った声を放った。
「お義母さん、もう準備できました? 随分と朝くからバタバタくのね」
その言葉の端々には、どこか私を煙たがるような棘のある鋭い響きが含まれており、私はその徹な空気に気圧されながらも、さくうなずくことしかできなかった。
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胸の奥にたいが吹き込んだような気がしたが、私はすぐに自分を納得させた。「きっと、朝くから義理の母親が台所にっているのが気まずいだけなのだ」と。
その直、奥の部から「おばあちゃん!」という元気な声とともに、孫たちが無邪気に部へと駆け回ってきた。彼らは私を見るなり笑顔を浮かべ、狭い居を楽しそうにり始めた。私はそのらしい姿を目で追いながら、先ほど嫁の言葉によってえ切ってしまったが、しだけむのをじていた。やはり、ここへ来て違いではなかったのだと、自分に言い聞かせるように温かいお茶をすすった。
朝を終え、いよいよ私が最も待ち望んでいた、お玉を渡す瞬がやってきた。私は着物の袖が汚れないよう丁寧にえ、背筋を伸ばして正座をし、列に並んだ孫たちへ、調理台ので何度も確認したあのポチ袋を枚ずつ渡した。子供たちは「わあ!」と声をげ、嬉しそうに袋を受け取ってくれた。
だが、その様子をろから黙って見ていた嫁の顔が、渡した瞬、見るに堪えないほどに醜く歪んでいくのを、私は見逃さなかった。嫁はソファからゆっくりとちがると、私を威圧するように歩歩詰め寄ってきた。そして、私の目を真っ直ぐに睨みつけ、居に響き渡るような酷な声を吐き捨てたのだ。
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