"消された両親の席" 第2話
責任者の男性は、さらに申し訳なさそうにをげました。
「郎様からの指示で、ご両親様のお席はご用しておりません」
夫は静かに目を伏せました。
私は責任者の男性を責める気にはなれませんでした。
「それは、どういうでしょうか」
私が静かに尋ねると、男性は言葉を濁しました。
その、健太郎の友らしき若い男性がくを通りかかりました。彼は私たちに気づくと、はっとしたようにを止めました。
「あ……健太郎のお父さん、お母さん……」
彼は気まずそうに周囲を見回し、声を落として言いました。
「麗華さんのご両親が……方から来る親族は呼ばないでって……」
胸の奥が、しだけ痛みました。
それでも、りは湧いてきませんでした。
ただ、静かなしみだけが、いのようにのへ広がっていきました。
私たちは、息子のれのを祝うために来ました。
けれど息子は、私たちをこのにふさわしくないものとして、最初からしていたのです。
夫は私の隣で、変わらず静かにっていました。
その横顔を見て、私はさく息を吸いました。
「きましょうか」
夫はそう言いませんでした。
ただ、ほんのわずかにうなずいただけでした。
その、ロビーの奥から、華やかなドレス姿の女性がこちらに歩いてくるのが見えました。
麗華さんのお母様でした。
広告
彼女は私たちを見つけると、はっきりと嫌そうな顔をしました。
そして、ゆっくりとづいてきたのです。
麗華さんのお母様は、私たちのでを止めました。
品なのりが、ふわりとづいてきました。着物姿の私をからまで見るその目には、隠しきれない嫌悪が浮かんでいました。
「あら。いらしていたんですか」
声だけは柔らかいものでした。
けれど、その奥にはらかな拒絶がありました。
「健太郎さんからは、ご欠席と伺っておりましたけれど」
私はにしていたバッグを軽く握り直し、穏やかに答えました。
「招待状をいただきましたので、参りました」
麗華さんのお母様は、わずかに眉をげました。
「でも、お席がないのでしたら、お帰りになった方がよろしいのではありませんか。今は麗華のれ台ですもの」
その言葉を聞いた瞬、周囲の空気がしえたようにじました。
「違いな方がいらっしゃると、困りますわ」
違い。
その言が、胸に静かに刺さりました。
夫の貴が、落ち着いた声で尋ねました。
「違い、ですか」
麗華さんのお母様は、当然だと言わんばかりに微笑みました。
「ええ。ご覧になればお分かりでしょう。本のゲストは皆、それなりの方々ばかりですのよ。方の……そのご職業の方では、会話もいませんでしょうし」
広告
周囲の線が私たちに集まっていくのが分かりました。
ざわざわとした声が、ロビーの空気にく広がります。
その、息子の健太郎が現れました。
タキシードを着た息子は、派に見えました。幼い頃、だらけでり回っていたあの子とは、まるで別のようでした。
けれど、私たちの姿を見た健太郎の顔に浮かんだのは、びでも驚きでもありませんでした。
迷惑。
それが、はっきりと見えました。
「父さん、母さん……どうして来たんだよ」
健太郎は声をくしました。
「困るよ。来ないでって言ったよね」
私は静かに首を横に振りました。
「いいえ。私たちは招待状をいただきました」
「あれは形だけだろ」
健太郎は苛ったように言いました。
「麗華の両親が、招待状はすべきだって言うから送っただけで……でも、実際には来ないでって話で言ったはずだよ」
夫が静かに答えました。
「そのような連絡は受けていない」
健太郎は唇を噛み、苛ちを隠そうともしませんでした。
「とにかく、今は麗華とその族のためのなんだ。正直、方の両親がいると恥ずかしいんだよ」
恥ずかしい。
その言葉を、私は静かにので繰り返しました。
息子のからた言葉とはえませんでした。
「麗華のゲストは、流企業のたちや資産ばかりなんだ。父さんたちがいたら、話もわないし、空気もおかしくなる」
私は息子の顔を見つめました。
「私たちは、あなたにとって恥ずかしいなのね」
健太郎は線を逸らしました。
広告
おすすめ作品
-
完結第4話
孫放置の報い
67歳の介護福祉士・日高恵子は、ある日、息子夫婦の家を訪ねて凍りつく。 玄関の隅にいたのは、5歳の孫・蓮。パジャマ姿のまま震え、涙で顔を濡らしていた。 「パパとママ……海外旅行に行くって」 家の中は散らかり、冷蔵庫はほとんど空。食べ物もなく、鍵も開いたまま。蓮は前日の夜から、たった一人で放置されていた。 これまで恵子は、息子夫婦のために家の頭金や車代、育児支援として合計900万円もの援助をしてきた。孫の面倒も頼まれるままに見てきた。 だが、息子夫婦が選んだのは、幼い我が子ではなく海外旅行だった。 怒りに震えながらも、恵子は感情だけでは動かなかった。介護現場で培った経験をもとに、家の状態、孫の証言、近隣住民の話、通院記録、そしてSNSの投稿を一つずつ証拠として残していく。 一週間後、豪華な旅行から笑顔で帰国した息子夫婦。 しかし玄関の向こうで待っていたのは、祖父母だけではなかった。 警察、児童相談所、弁護士、そして逃げ場のない証拠の数々。 「親だから許される」 そう思い込んでいた二人に、母として、祖母として、恵子が下した決断とは――。親不孝6.2千字5 0 -
完結第5話
消えた一人分の席
親族の食事会に招かれたはずの北川理香子は、テーブルに並ぶ豪華な料理を前に、静かに気づいた。 十人分の席。十人分の料理。十人分の取り皿。 けれど、自分の分だけがなかった。 「お母さんの分、数え間違えちゃって」 嫁・由香はそう笑ったが、それが偶然ではないことを理香子は悟る。介護士として三十三年間働き、息子を大学まで出し、結婚資金も住宅資金も援助してきた。さらに毎月十五万円を送り続けてきたにもかかわらず、食卓で彼女を待っていたのは、冷めた残り物と「お荷物はいりません」という言葉だった。 その場で怒鳴ることも、泣き崩れることもしなかった理香子は、夫とともに静かに席を立つ。 しかし、嫁も息子もまだ知らなかった。 今住んでいる家の土地が誰の名義なのか。毎月の生活を支えていたお金がどこから来ていたのか。そして、理香子がすでに弁護士と準備を進めていたことを。 その夜、家族を見下した嫁の前に、一枚の登記簿が差し出される。 食事会で外された母が、静かに取り戻したものとは――。因果応報|親不孝|絶縁7.7千字5 0 -
完結第9話
母を逃がした電話
深夜3時、75歳の田中節子の家に一本の電話が鳴った。 受話器の向こうから聞こえてきたのは、半年間まともに話せなかった息子・優一の声だった。 「母さん、今すぐ家を出て。玄関じゃなく、勝手口から」 夫を亡くした節子は、世田谷の家で静かに暮らしていた。ところが、息子の嫁・美香とその両親が同居を始めてから、生活は少しずつ奪われていく。 台所、電話、外出、友人との連絡。 やがて節子は「認知症」と決めつけられ、自分の家にいながら監視される日々を送ることになる。 しかしある夜、壁の向こうから聞こえてきた会話で、節子はすべてを知った。 狙われていたのは、夫が残した世田谷の家と、預貯金を含む三億近い財産だった。 逃げ場を失った老母は、下着の内側に小さな記録を隠し続ける。 そして海の向こうで異変に気づいた息子が、亡き父の顧問弁護士とともに動き出す。 深夜3時の電話は、救出の合図だった。 認知症に仕立てられた母。 財産を奪おうとした嫁一家。 そして、亡き夫が生前に残していた最後の仕掛け。 閉じ込められた家の中で、節子が本当に守り抜いたものとは――。親不孝1.4萬字5 0 -
完結第8話
十年介護を捨てた日
10年間、義母の介護を一人で背負ってきた68歳の静江。 助産師として働き続けた人生を早期退職で終え、義母のおむつ交換、食事介助、入浴介助、夜中の体位交換まで、すべてを引き受けてきた。夫・勝から感謝されることはなく、生活費も介護費用も押しつけられ、それでも「家族だから」と耐え続けていた。 しかしある夜、介護を終えた静江に、勝は突然こう告げる。 「離婚してくれ。老後の面倒まで見るのは、もう無理だ」 さらに勝の口から語られたのは、若い女性との不倫、妊娠、そして静江を“無料の介護士”として利用していたという残酷な本音だった。 その瞬間、静江の中で何かが静かに切れる。 翌朝、彼女は荷物をまとめ、介護業者への契約を解約し、夫の連絡先をすべて変更した。そして、二度と戻らない覚悟で家を出る。 10年間、何もしなかった夫が、たった数時間で知ることになった介護の現実。 捨てられたはずの妻が自由を取り戻した時、夫の人生は静かに崩れ始める――。親不孝|介護1.1萬字5 1 -
完結第5話
椿の家を守った母
夫を亡くして2年。62歳の片桐義恵は、静かな老後を送るため、世田谷に100坪の一軒家を購入した。 ところが、それを知った長男夫婦は当然のように言い放つ。 「今日から俺たちも住むから」 「逆らうなら、介護は一切しませんから」 長男という立場と、老後の介護を盾にすれば、母親は従うと思っていた二人。だが義恵は、すでに夫が残した“ある準備”を知っていた。 夫の葬儀で「長男」と書かれた名刺を配っていた息子。親孝行を口にしながら、狙っていたのは母の家と財産だった。 しかし、亡き夫が本当に守ろうとしていたものは、長男夫婦の想像をはるかに超えていた。 3時間後、嫁から届いた50件の着信。 その時すでに、すべては手遅れだった――。因果応報|親不孝6.9千字5 0 -
完結第4話
更地にした二千万の家
68歳の上原かずよは、亡き夫と34年間守ってきたパン屋を続けながら、ひとり静かに暮らしていた。 そんなある日、息子夫婦から「一緒に住む家を建てよう」と持ちかけられる。孫の世話もできる、老後も寂しくない――そう信じたかずよは、夫の保険金と老後資金を合わせた二千万円を、新築費用として差し出した。 しかし、完成した家で待っていたのは、信じがたい裏切りだった。 「住むのは、私の両親ですよ」 嫁のマリはそう言い放ち、かずよにはアパート暮らしを勧める。息子の高幸も母をかばうどころか、パン屋を「体裁が悪い」とまで言い捨てた。 家族だと思っていた相手から、「もう関係ない人」と突き放されたかずよ。 だがその夜、仏壇の前で涙を流した彼女は、金庫の中から一枚の書類を取り出す。 新築の登記簿謄本。 そこに記されていた名義人は、息子でも嫁でもなかった。 二千万円を奪い、母を追い出そうとした息子夫婦。 そして、嫁の両親を住まわせるはずだった新築の家。 裏切られた母が下した決断は、彼らの未来を根元から崩すものだった――。親不孝5.7千字5 0 -
完結第7話
実家ホテル終了の日
「ホテル代が浮くから、実家に泊まることにしたから」 67歳の秋山道子は、息子・直人からの一方的な電話に言葉を失った。しかも泊まりに来るのは息子家族だけではなく、嫁の両親まで含めた6人。布団、食事、送迎、車の貸し出しまで、すべて当然のように要求される。 さらに直人は、母にこう告げた。 「昼間は家を空けてくれる? 家族だけでゆっくりしたいから」 自分たちの家でありながら、まるで無料ホテルの従業員のように扱われる道子と夫。長年、息子のために尽くしてきた母の心は、ついに静かに限界を迎える。 旅行前日、道子は玄関の鍵を替えた。 そして息子たちが北海道に到着した夜、待っていたのは、開かない玄関と鳴り続ける電話だった――。 家族だから許されると思い込んだ息子に、母が突きつけた“本当の境界線”とは。親不孝1.1萬字5 0 -
完結第5話
追い出された正月の一万円
正月の朝、最愛の夫を亡くしたばかりの私は、家族の温もりを求めて息子夫婦の家を訪れた。 孫たちに渡すため、心を込めて用意したお年玉は一人一万円。けれど、嫁はそれを見た瞬間、冷たい声で言い放った。 「そんな小銭で、偉そうにしないでください」 さらに実の息子まで、私を邪魔者のように罵り、正月の家から追い出した。 雪の中、私は一人で帰るしかなかった。もう家族にすがるのはやめよう。そう決めた夜、玄関のチャイムが鳴る。 そこに立っていたのは、昼間に別れたはずの幼い孫だった。 息子夫婦の冷たい言葉、孫の小さな優しさ、そして私が静かに下した最後の決断。 「喜んで帰ります」 その一言の本当の意味を、息子夫婦はまだ知らなかった――。親不孝6.8千字5 0 -
完結第9話
午前三時の逃走
深夜3時、75歳の田中節子のもとに、海外出張中の息子・優一から一本の電話がかかってきた。 「母さん、今すぐ逃げて」 半年間まともに連絡が取れなかった息子の声は、切迫していた。玄関ではなく勝手口から出ること。荷物は持たないこと。絶対に振り返らないこと。 夫が遺した世田谷の家で、節子はいつの間にか孤立していた。嫁の美香とその両親は、優しい顔で家に入り込み、台所を奪い、電話を取り上げ、外出を制限し、節子を“認知症の老人”に仕立て上げようとしていた。 そしてある夜、節子は壁の向こうから聞いてしまう。 「実印さえ手に入れば、いつでも動ける」 狙われていたのは、亡き夫が節子のために残した家と財産だった。 息子の電話を信じ、節子は深夜の家を抜け出す。だが、逃げた先で待っていたのは、さらに大きな真実だった。 夫は生前、すべてを見越していたのか。 閉じ込められた老女が、失われかけた人生を取り戻すために立ち上がる、静かな逆転の物語。因果応報|親不孝|介護1.4萬字5 1 -
完結第7話
年金六万円の母
68歳の北川若子は、夫の遺産1500万円を息子の会社設立のためにすべて差し出した。 「必ず恩返しする」 そう涙ながらに感謝していた息子・翔平。けれど数年後、若子が息子夫婦の家で暮らすようになると、態度は少しずつ冷たく変わっていった。 月6万円の年金は家賃と食費として全額取られ、食卓に並ぶのは家族の残り物。孫の誕生日会からも外され、手編みの贈り物さえ捨てられた。 そしてある日、若子は息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「年金暮らしなのに、うちで一体何を食べるの?」 さらに翔平は、母を施設へ入れる計画まで進めていた。 すべてを失ったように思えた夜、若子は40年ぶりに高校時代の親友へ電話をかける。 その相手こそ、翔平の会社の運命を握る大企業グループの会長だった。 3日後、息子の会社に届いた一通の通知書。 そこから、若子を見下してきた息子夫婦の人生は大きく崩れ始める――。因果応報|人生逆転|親不孝1.1萬字5 0