"消された両親の席" 第10話
「ごめん……母さん、本当にごめん」
健太郎は湯呑みを両で包み、肩を震わせました。
私はその姿を見ながら、胸の奥が痛むのをじました。
許すというのは、すべてをなかったことにすることではありません。
傷つけられた事実は消えません。
あの、息子が私たちを恥だと言ったこと。
席を用しなかったこと。
勢ので帰れと言ったこと。
それらは、簡単には消えない傷です。
けれど、目ので泣いている息子を見て、私はいました。
この子はようやく、自分の過ちを自分の痛みとして受け止め始めたのだと。
貴が静かにをきました。
「健太郎」
「はい」
健太郎は顔をげました。
「は違える。だが、違えたあとにどうきるかで、そのの価値が決まる」
健太郎は涙を拭いながら頷きました。
「はい」
「私たちは、おを見捨てたわけではない。ただ、もう度同じことを繰り返すなら、そのは本当に距を置く」
「分かっています」
健太郎はくをげました。
その、健太郎はい、私たちのにいました。
麗華さんとの結婚はになったこと。
自分が会社の役職や肩きに目がくらんでいたこと。
今は仕事もまいも見直し、もう度自分のでつつもりでいること。
私たちは黙って聞きました。
が暮れる頃、健太郎は玄関で靴を履きながら、もう度私たちにをげました。
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「また、来てもいいですか」
私は夫を見ました。
夫は静かに頷きました。
「本当に話したいことがあるなら、来なさい」
健太郎は涙をこらえるように唇を結びました。
「ありがとう」
その背を見送りながら、私はそっと胸にを当てました。
親子の関係は、まだ元通りではありません。
けれど、完全に終わったわけでもありませんでした。
それから私たちの暮らしは、また静かに続いています。
私はでに向かい、貴は庭で本を読み、々仕事の相談を受けています。
健太郎は、以のように頻繁に話をしてくることはなくなりました。けれど、に度ほど、いを送ってくるようになりました。
そこには、仕事でじたことや、自分が今考えていることが、飾らない言葉でかれていました。
「今は取引先で、父さんの言葉をいしました」
「を肩きで見ないように気をつけています」
「母さんの茶碗でお茶をむと、し落ち着きます」
私はそのを、のさな引きしにしまっています。
すべてを許したわけではありません。
けれど、もう度向きう余は残しておきたい。
それが、今の私たち夫婦の答えでした。
あるの午、私はしい茶碗を窯からしました。
焼きがったばかりの器は、し歪んでいました。
完璧な形ではありません。
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けれど、に取ると議としっくり馴染みました。
私はその茶碗を見つめながら、健太郎のことをいました。
も器も、最初から完璧には作れません。
に歪み、に割れ、に度壊れてしまうこともあります。
けれど、そこから何を学び、どう作り直すかで、また違う美しさがまれることもあるのです。
夕方、貴がに顔をしました。
「いい器だな」
「し歪んでいますけど」
「そこがいい」
夫はそう言って微笑みました。
私は茶碗を両で包みながら、さく笑いました。
息子の結婚式で席がなかったあの。
私たちは、親としてく傷つきました。
けれど同に、息子にとっても、私たちにとっても、切なものを見つめ直すになりました。
おや位や肩き。
それらは確かに、のを支える力になることがあります。
けれど、それだけではは幸せになれません。
本当にを支えるのは、見返りを求めないであり、相を尊するであり、違えたに向きう勇気なのだといます。
夜になると、庭に静かなが吹きました。
私は縁側に座り、貴とでお茶をみました。
元の茶碗から、湯気がゆっくりとちっていました。
くで虫の声が聞こえます。
「あなた」
「ん?」
「健太郎、しずつ変わっていけるでしょうか」
貴は庭を見つめながら答えました。
「変わるかどうかは、あの子次第だ。だが、変わろうとしているなら、私たちは見守ればいい」
私は静かに頷きました。
あの、止になった結婚式は、息子にとってきな挫折だったでしょう。
けれど、もしかするとそれは、健太郎が本当のでを始めるための、別のだったのかもしれません。
私は茶碗を元へ運びました。
温かいお茶が、ゆっくりと体に染みていきます。
私たちは今も、静かに暮らしています。
派ではないけれど、誰かを見す必も、誰かに見栄を張る必もない暮らしです。
そのにこそ、私たちが守ってきた本当の豊かさがありました。
いつか健太郎がそれに気づき、自分自ので切なものを取り戻せるが来るなら。
そのは、また温かいお茶を淹れて迎えようといます。
親子の傷は、すぐには消えません。
けれど、をかけて向きえば、歪んだ器にも、また別の美しさが宿ることがあります。
私はそう信じています。
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