"自由を返した春" 第7話
けれど、戻りたいとはわなかった。
その週の曜、美優が来た。
玄関をけると、美優はさな袋を差しした。
「はい。おばあちゃんに」
「何?」
「学で作ったの」
袋のには、折りで作ったさな束が入っていた。
赤、黄、ピンク。
し形は揃いだったが、つつ丁寧に折られていた。
「ありがとう」
紀子は束を両で受け取った。
美優はじっと紀子を見た。
「おばあちゃん、最なんか違う」
「どこが?」
美優はし首を傾げた。
「なんか、笑ってる」
紀子は驚いて、美優の顔を見た。
歳の子どもが、そんなことに気づく。
「そう?」
「うん。より笑ってる」
紀子はしばらく言葉を失った。
それから、ゆっくり微笑んだ。
「そうかもしれないね」
台所に並び、いつものように卵焼きを作った。
美優は卵を割る係だった。
黄がし崩れて「あっ」と声をげる。
「だよ」
「本当?」
「本当に」
昼ご飯をべ、絵本を読んだ。
美優はいつのにか紀子の肩にを乗せていた。
窓から午のが差し込んでいた。
夕方、美優が帰る、玄関で振り返った。
「また来るね、おばあちゃん」
「待ってるよ」
扉が閉まったあと、紀子は美優がくれた折りの束を棚のに飾った。
赤と黄とピンク。
そこにが当たっていた。
になった。
図館のの桜が、度に咲いた。
紀子は勤のたびに、そのを見げるようになった。
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も同じを歩いていた。
けれど、こんなふうに桜を見げる余裕はなかった。
ただ見ていなかっただけだった。
しい部に来て、かが経った。
朝はコーヒーを杯む。
窓から空を確認する。
それから自分のペースで支度をする。
誰かのにわせなくていい朝は、まだし議だった。
けれど、もう怖くはなかった。
ある朝、弓から話があった。
「お母さん、最ほんと悪くないよ」
「悪くないって何?」
「声がるくなった」
紀子はし笑った。
「そうかな」
「お父さんから連絡来た?」
「たまに」
「どうしてるって?」
「特に何も」
弓が話の向こうでさく笑った。
「お母さんらしい」
話を切ったあと、紀子はコートを羽織った。
桜のを歩きながら、ふとち止まる。
、この季節を何度過ごしただろう。
ご飯を作りながら。
洗濯をしながら。
窓のの桜をちらりと見て、また台所へ戻った。
今は、ちゃんと見ている。
びらがに乗って、ゆっくりった。
図館に着くと、田さんが声をかけてきた。
「紀子さん、曜の子ども読み聞かせ、担当してもらえますか?」
「私でいいんですか?」
「子どもたちに気なので」
紀子はし驚いたが、すぐに頷いた。
「分かりました」
以なら、のことがをよぎった。
今は何もなかった。
その曜、美優も読み聞かせに来た。
図館の子どもコーナーに、子どもたちが丸くなって座っている。
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紀子は子に腰かけ、絵本をいた。
美優が番で膝を抱えて座っていた。
紀子と目がうと、にっと笑った。
紀子は本を読み始めた。
子どもたちは静かに聞いていた。
美優も静かに聞いていた。
読み終えると、さな拍が起きた。
その音が、ののにやわらかく広がった。
美優が駆け寄ってくる。
「おばあちゃん、だった!」
「ありがとう」
「私にも読んで」
「でね」
帰り、は並んで歩いた。
美優は桜のびらを枚拾い、紀子に渡した。
「はい」
「ありがとう」
「びらって、すぐ落ちるね」
「そうだね」
「でも綺麗だね」
紀子はのひらのびらを見た。
落ちても綺麗だった。
が終わっても、自分はここにいる。
そうえた。
「おばあちゃん」
「うん?」
「また来週来ていい?」
「来ていいよ」
美優は満そうに頷いた。
桜並のを、で歩く。
が吹くと、びらがゆっくりった。
紀子は空を見げた。
青かった。
どこまでも青かった。
これまで誰かのためにきてきたが、無駄だったとはわない。
けれど、これからは自分のためにきてもいい。
そうった、紀子の胸の奥にあったいものが、のにほどけていくようだった。
美優のさなが、紀子のを握った。
紀子はその温かさをじながら、ゆっくり歩き続けた。
そこにあるのは、派な幸せではなかった。
けれど、確かに自分ので歩いているという実があった。
紀子のしいは、静かに、けれど確かに始まっていた。
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