"母は沖縄へ消えた" 第4話
これまで必に繋ぎ止めようとしてきた族の絆が、瞬で崩壊していくのが分かった。私はく、く息を吸い込み、そして極めて静に声を響かせた。
「……わかりました。ていきます」
拓也とりさんは、らかに驚いた表を見せ、お互いに顔を見わせた。もっと泣き叫んで抵抗されるとでもっていたのだろう。
「え、本当に? 母さん、とあっさりしてるね」
2の顔に、気に堵の表が広がった。りさんは、これまでに見たこともないようなるい、醜い笑顔を浮かべて私にすり寄ってきた。
「お母さん、理解していただいて本当にありがとうございます!」 「じゃあ、援助の件も……」 「その件についてはお話しします。まず私は、引っ越しの準備をしなければなりませんから」
私は静かにちがり、2のしきった背をじながら、自分の部へと戻った。そして、鍵を閉めるとすぐにを始した。
38の員活で培った略と脈が、まさかこのような形で役につとはわなかった。私はすぐに、スマートフォンを握りしめ、信頼できる弁護士の友へと話をかけた。
「ひさ子さん、久しぶり。どうしたの?」 「実は、相談があるの。息子夫婦のことで……」
私がこれまでの事をすべて説すると、話の向こうの友は激しく憤慨した。
『ひどい話ね! でも、ひさ子さんは懸命よ。
広告
これまでの援助の記録はちゃんと残してある?』 「ええ。員の習慣で、すべての銭援助の記録、領収、通帳のコピーはすべて保管してあるわ」 『素らしいわ。それがあれば、いざというの最の切り札になる。これからのきは、私の指示に従って』
弁護士のアドバイスをメモしながら、私は着々と計画を練りげた。次に、産業界にいる元同僚へと連絡を入れた。
「ひさ子さん、急にどうしたんですか?」 「実は、しいまいを探しているの。できれば、温で静かな所がいいわ」 『温な所ですか。それなら沖縄はどうですか? 最、シニアの移がとても増えているんですよ。覇内に、が見える本当に素敵なマンションがあるんです。ちょうど売りにたばかりで』
沖縄。その美しい響きが、私の傷ついたにく染み渡った。
「詳しく教えてくれる?」
物件の説を聞きながら、私は自分のしいの扉が、静かにいていく音を聞いた。
翌から、私は息子夫婦に切気づかれないよう、粛々と準備をめた。まずはへ向かい、息子夫婦と共していた座、そして私が管理していた息子名義の定期預をすべて解約した。
「桜井様、本当に解約されるのですか?」
窓の顔馴染みの員が配そうに尋ねてきた。私は穏やかに微笑んだ。
「ええ。
広告
しい活を始めるために、必なことなの」
解約した総額は3000万円を超えていた。これは、私が38コツコツと働いて貯めてきた、私自のおだ。次に、命保険の受け取り変更の続きをった。これまで拓也にしていた受け取りを、すべて信頼できる慈善団体へと変更した。
「さ子さん、息子さんから変更されるのですか?」 「ええ。これからは、自分のためにきようとって」
保険会社の担当者は驚いていたが、私の決が揺らぐことはなかった。に戻ると、息子夫婦は何もらずにリビングでテレビを見て笑いしていた。
「母さん、今はかけてたの?」 「ええ、引っ越しの準備よ」 「そっか、頑張ってね」
拓也は画面から目をさず、興なさそうに答えた。私は自に入ると、クローゼットから本当に切なものだけを選びし、処分するものと仕分けた。き夫とのいの品々は、丁寧に箱へと詰めた。
夜、静まり返った部で、沖縄の産会社とオンラインで最終な打ちわせをった。
『桜井様、内見はいつにいたしますか?』 「来週、お願いいたします」 『かしこまりました。空港までお迎えにがります』
画面に映しされる青いとい砂浜が、私の荒んだを優しく癒してくれた。ここで、全くしいを始める。そのいは、にに固なものとなっていった。
週末、私はな類をすべての貸庫へと移した。の権利、価証券、貴品。
広告
おすすめ作品
-
完結第4話
リンゴ畑の骨
1987年、青森県津軽地方のりんご農園で、若い嫁・高橋じ子が突然姿を消した。 荷物も持たず、実家にも戻らず、まるで最初から存在しなかったかのように消えた彼女。村人たちは「嫁いびりに耐えられず逃げたのだろう」と噂し、警察も家出として処理しようとする。 しかし、兄の哲也だけは妹の失踪を信じなかった。 失踪前、じ子から届いていた一通の手紙。そこには「最近とても辛いの。もっと恐ろしいことが起きた時に必ず話すね」と書かれていた。 やがて捜査が進むにつれ、村人たちがひた隠しにする一人の男の存在が浮かび上がる。 村の区長・渡辺茂夫。 表向きは頼れる長老。だが、彼の名前が出た瞬間、村人たちは一斉に口を閉ざした。 そして12年後、りんご畑の土の下から見つかった人骨と、小さな金のイヤリング。 残された日記、消えた証拠、夜中に畑で揺れていた小さな光。 長く沈黙していた村の闇が、赤く実るりんごの木の下から、ついに掘り起こされる――。行方不明6.4千字5 0 -
完結第17話
壁の中の妻
2006年、長野県松本市で主婦・田中洋子が忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、夫との夜9時の電話。財布も荷物も家に残され、外へ出た形跡もない。夫の健一は東京勤務を辞め、妻がいつか帰ってくると信じて、10年間その家で待ち続けた。 しかし2016年、家のリフォーム工事中、作業員がリビングの壁に奇妙な違和感を覚える。 他の壁よりも厚い、二重構造の壁。 壊されたその奥から出てきたのは、白骨化した人骨と、古びた財布だった。 遺骨の身元は、10年前に失踪した洋子本人。つまり彼女は、夫が毎日座っていたリビングのすぐそばで、ずっと眠っていたことになる。 誰が、なぜ、彼女を壁の中に隠したのか。 捜査線上に浮かんだのは、夫を10年間支え続けた“親切な友人”だった。 妻を探し続けた夫。 善人の仮面をかぶった男。 そして、死の直前に残された一冊の日記。 10年もの間、壁の向こうに封じられていた真実が、ついに崩れ落ちる――。行方不明2.6萬字5 2 -
完結第6話
十七年目の「ただいま」
1974年12月、雪に覆われた金沢で、11歳の少女・水島静香が学校帰りに姿を消した。 川の近くで見つかったのは、泥に濡れた通学カバンだけ。 そこには、母へ向けて書きかけた一文が残されていた。 「お母さん、今日、私、お母さんに一つ言うことがあるの」 三週間後、川岸で少女と似た小さな遺体が発見される。 周囲は静香だと決めつけたが、母・柿江だけは首を横に振った。 「この子は、うちの静香ではありません」 しかし誰も母の言葉を信じなかった。 夫にも町にも「現実を受け入れられない母」と見なされ、柿江はやがて家を追われるように孤独な年月を過ごすことになる。 それでも彼女は、毎年娘へ手紙を書き続けた。 静香はきっと生きている。 その確信だけを胸に抱いて。 そして17年後、柿江のもとへ一通の手紙が届く。 そこに書かれていたのは、誰よりも忘れられなかった娘の文字だった。 「お母さん。私は幽霊じゃないよ」 雪の日に止まった母の時間が、沈黙を破るその一文から再び動き出す――。真実|真相|行方不明8.8千字5 1 -
完結第7話
消えた子役の日記帳
昭和60年、京都郊外の人気時代劇撮影所で、7歳の子役・中村翔太が突然姿を消した。 撮影直前、「トイレに行ってくるね」と母の手を離れた翔太。だが数分後、トイレ前に残されていたのは、片方だけの白いズック靴だった。大勢のスタッフや俳優がいる撮影所の中で、子どもは煙のように消えた。 母・道子は息子の名を叫び続けたが、翔太は見つからない。現場では人気監督の黒木が誰よりも熱心に捜索を指揮し、世間からは“子役を思う温かい監督”として称賛された。 しかし、撮影所の片隅では、いくつもの小さな違和感が残されていた。 倉庫の方へ向かう黒木監督の姿。子どもの泣き声を聞いた新人照明係。夜中に土のついた作業着とスコップを隠す監督を見た警備員。 けれど証言は消され、関係者は口を閉ざし、事件は単なる失踪として扱われていく。 それから15年後。 亡き母の遺品整理中に見つかった、翔太の小さな絵日記帳。最後のページには、7歳の子どもが震える手で残した“ある一文”が書かれていた。 その日記帳が、15年間コンクリートの下に埋められていた真実を、ついに世の中へ引きずり出す――。ミステリー|行方不明10.0千字5 0 -
完結第4話
40人前の逆襲
年末の親族会。 佐々木はるみは、四十人もの親族が見守る前で、息子夫婦から突然「出て行ってくれ」と告げられる。 長年、息子の事業資金、孫の学費、マイホーム購入費まで支えてきたはるみ。だが嫁の真奈美は、偽造された診断書や金銭トラブルの書類を並べ、はるみを“迷惑な母親”に仕立て上げていた。 親族たちの冷たい視線。 息子の非情な言葉。 追い詰められたはるみは、泣き崩れることなく静かに立ち上がる。 「わかりました。では、お望み通りに出て行きます」 誰もが、彼女が全てを失ったと思っていた。 しかし三日後、息子夫婦のもとに弁護士から一通の通知が届く。そこに記されていたのは、家の名義、過去の援助金、そして二人が隠していた嘘をすべて覆す決定的な事実だった。 親族四十人の前で追放された母が、静かに取り戻したものとは――。行方不明6.5千字5 0 -
完結第5話
崖下で眠っていた三年
1992年、群馬県の山奥にあるペンションで、2組の夫婦が夏休みを過ごしていた。 台風の豪雨が山道を塞ぎ、外界から切り離された夜。 酒を飲み、笑い合い、何事もなく眠ったはずの4人だったが、翌朝、妻・ユミと友人の夫・ケンジだけが姿を消していた。 残された夫・たかしと、ケンジの妻・稽古。 部屋には争った跡もなく、財布や荷物の一部も消えていたことから、警察は2人が不倫関係の末に駆け落ちした可能性を疑う。 世間の噂に傷つきながら、残された2人は“裏切られた被害者”として3年間を過ごした。 しかし1995年、ペンションから4キロ離れた崖の下で、錆びついた車が発見される。 車内には白骨化した2人の遺体。 さらにギアはニュートラル、エンジンは切られ、頭蓋骨には鈍器で殴られた痕跡が残っていた。 逃避行ではなかった。 2人は、あの台風の夜に殺されていた。 豪雨がすべてを隠したペンションで、本当は何が起きていたのか――。遺體発見|行方不明7.9千字5 5 -
完結第7話
奥日光の白い菊
1995年秋、東京の女子大学に通う4人の女子大生が、紅葉を見るため奥日光へ向かった。 中禅寺湖で笑い合い、民宿で一夜を過ごし、翌朝「竜頭ノ滝へ行く」と言って出発した4人。だがその後、彼女たちは誰一人として戻らなかった。 駐車場に残された車。岩の隙間に落ちていた片方のスニーカー。そして使い捨てカメラの最後の写真に写り込んでいた、ぼやけた男の影。 警察は捜索を続けるが、4人の行方も、写真に写った男の正体も分からないまま、事件は迷宮入りしていく。 しかし4年後、渓谷に白い菊を供えた一人の女性が、警察署を訪れる。 彼女は言った。 「私は、あの日失踪した4人のうちの1人です」 紅葉の山で何が起きたのか。 なぜ彼女だけが生き残ったのか。 そして、彼女たちの背後にいた男は何者だったのか。 30年経っても消えない、奥日光の渓谷に残された沈黙の真実。ミステリー|真相|行方不明1.0萬字5 0 -
完結第6話
水亀の下に消えた嫁
1993年春、東京・杉並の古い瓦屋根の家で、東京大学出身の若い嫁・斉藤さゆりが突然姿を消した。 妊娠中だった彼女のコートも財布も靴も、家には残されたまま。夫が出張から戻ると、姑のふみは静かにこう告げた。 「昨日の夜、荷物をまとめて出て行った」 だが、さゆりが家出をする理由はどこにもなかった。実家の母は「娘は絶対に自分から消えたりしない」と訴え、友人の手元には、さゆりが失踪前に残した不穏な手紙があった。 そこに書かれていたのは、妊娠をきっかけに変わっていった姑の態度、赤ん坊への異常な執着、そして「何かあったら」という言葉。 それでも決定的な証拠は見つからず、事件は長い間、失踪として処理されてしまう。 しかし13年後、杉並警察署に差出人不明の手紙が届く。 「古い水亀の下を掘ってみてください」 すでに取り壊された家の跡地。かつて庭だった場所から掘り起こされたものが、13年間隠されてきた家族の嘘を暴き出す。 嫁は本当に家を出たのか。 姑は何を守ろうとしたのか。 そして、匿名の手紙を送った人物は誰だったのか。 春の庭に埋められていたのは、遺骨だけではなかった――。行方不明8.6千字5 0 -
完結第7話
味噌かめの下に眠った七年
1997年、埼玉県川越市の高級住宅街で、不動産資産家の老人・鈴木製造が忽然と姿を消した。 家族は「認知症が悪化し、遠方の介護施設に入った」と説明し、警察も事件性は低いとして失踪処理を行った。 しかし、それから7年後。 川越税務署の職員が、ある不可解な記録に気づく。 失踪宣告を受けたはずの老人名義の固定資産税が、毎年きっちり納付されていたのだ。 しかも支払っていたのは、老人の嫁・両子。 さらに調べると、老人が失踪した後の日付で、不動産の名義変更書類に本人の実印が押されていた。 再捜査に動いた警察がたどり着いたのは、かつて鈴木家の庭に置かれていた不気味な味噌かめ。 その下から掘り起こされたものが、7年間守られてきた嫁の嘘を一瞬で崩していく。 財産、世間体、15年分の恨み。 静かな高級住宅街の塀の内側で、本当は何が起きていたのか――。行方不明|孤獨|第二の人生9.9千字5 1 -
完結第6話
90件の着信とハワイの海
68歳の長沼クミは、息子夫婦に頼まれて始めた同居生活の中で、10年間、家事も育児も支え続けてきた。 孫の世話、食事の支度、掃除、洗濯。感謝されることは少なくなっても、「家族のため」と思い、黙って尽くしてきた。だがある夜、夕食後のリビングで息子夫婦は静かに告げる。 「これまで10年間、お疲れ様でした」 そして、来月末までに家を出てほしいと言い渡された。 息子夫婦は知らなかった。クミがすでに3年前から、自分が邪魔者扱いされていることに気づいていたことを。そして、その日のために密かに準備を進めていたことを。 翌朝、家に現れたのは引っ越し業者。驚く息子夫婦を前に、クミはわずかな荷物だけを運び出し、何も求めず、何も残さず、家を去っていく。 行き先は、誰にも教えなかった。 それから1ヶ月後。 青い海を望むハワイで新しい人生を楽しむクミのスマートフォンに、息子からの着信が鳴り続ける。 その数、90件。 家事も育児も仕事も回らなくなった息子夫婦が、ようやく気づいたものとは何だったのか。 そしてクミが最後に告げた、静かな決別の言葉とは――。行方不明9.4千字5 3