"志摩の海に沈んだ母" 第4話
錆びて黒ずんでいたが、鑑定するとの指輪の部だった。
女仲の川辺は、その指輪を覚えていた。
「梅野さんは細いの指輪をはめていました。くなったご主にもらったものだと言っていました。内側に名が刻んであるとも」
森は正斗にその事実を突きつけた。
「お母さんの指輪は、失踪したにはめていたはずですね。では、どうしてのかまどから溶けた指輪のかけらがてきたんですか」
正斗の顔はこわばった。
「分かりません」
森はさらに迫った。
「お母さんの女の着物は、庭に干されていました。では、お母さんは何を着てへったんですか」
正斗は答えられなかった。
正斗は、追い詰められると突然、兄たちの名をした。
「兄たちです。男と次男がやったんです」
20101025、3兄弟は別々の取調に入れられた。
正斗は、714の夜に兄たちが島へ戻ってきたと主張した。だが、それを裏付ける証拠はなかった。
健はりを隠せずに言った。
「とんでもない。私は京にいました。正斗が嘘をついているんです」
信夫も同じように首を振った。
「正斗が犯です。母をにかけて、財産を抜き取ったんです」
3は互いを責めった。森はその様子を見ながら、まだ何かを見落としているとじていた。
その夜、彼は1994の捜査記録を何度も読み直した。
広告
そして、ある文でを止めた。
被害者宅の奥ののタンスからの登記簿謄本を発見。
森は目を細めた。
「タンスのを、もう度調べる必がある」
20101027午6。捜査班は再び梅野のへ入った。夜けの空気はたく湿っていた。
「引きしを全部抜きせ」
捜査員たちは古いタンスの引きしを1つずつ取りした。1つ目、2つ目、3つ目。最の引きしまで抜いた、1の捜査員が奥を照らして声をげた。
「警部補、おかしいです。奥に隙があります」
そこには、浅い隠しがあった。
を入れると、古い封筒が1つてきた。埃をかぶり、は黄ばんでいた。封筒の表には、震えのない跡でこうかれていた。
「が息子たちへ」
森は袋をはめ、慎に封筒をけた。
には便箋が2枚入っていた。丁寧な文字で、びっしりとかれていた。
付は1994714。
失踪のだった。
それは、梅野の遺言だった。
の3は、健、信夫、正斗の3で同じように分けること。
郊の畑は、島に残っている正斗が持つこと。
そして、貯めていたは正斗に渡すこと。
「あの子が番苦しく暮らしているから」
そこには、母として末の息子を案じる言葉が残されていた。
さらに、梅野は翌朝へき、正斗のために2000万円を入れた通帳を作るつもりだといていた。
森は便箋を持つに力を込めた。
広告
梅野は、正斗を見捨てようとしていたのではない。
助けようとしていたのだ。
跡鑑定の結果、遺言は梅野本のものと確認された。1994当にかれたもので違いなかった。
さらにの記録を調べると、1994715にしい座を設しようとした記録が残っていた。ただし、本が来なかったため、続きは取り消されていた。
森は正斗を再び呼びした。
取調で遺言の写しを見た瞬、正斗の顔から血の気が引いた。
「これは、お母さんが失踪する1にいた遺言です」
正斗のが震えた。
「どこで……」
「お母さんののタンスに隠されていました。あなたは、このをっていましたね」
正斗は答えられなかった。
森は静かに続けた。
「お母さんはあなたを助けようとしていた。翌朝、2000万円の通帳を作るつもりだった。なのに、そのに失踪した」
い沈黙が流れた。
森は待った。
10分ほど過ぎた頃、正斗が震える声でをいた。
「あの晩、私が母のへきました」
「何ですか」
「9過ぎだったといます」
「なぜったんですか」
「借です。の連が、翌までに返さなければにをつけると言ったんです」
正斗の声はかすれていた。
「母に頼みました。を1つだけ売って、借を返させてくれと」
「お母さんは何と言いましたか」
「だめだと言いました。
あのは兄たちの分もあるから、勝には売れないと」
正斗は涙を流した。
「そのあと母は、へって通帳を作ってやる、2000万円あるからそれで借を返しなさいと言いました。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 213 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 535 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 392 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 216 -
完結第10話
白木蓮の偽証
2003年、東京大学法学部を卒業し、都内で弁護士として働いていた藤代優一が、長野の実家へ帰省した後に姿を消した。 継母・沢子は「東京へ帰ると言って家を出ました」と涙ながらに証言し、防犯カメラにも優一らしき男の姿が映っていた。携帯電話の記録も長野から東京へ移動しており、警察は彼が東京へ向かった後に何かに巻き込まれたと考えた。 しかし17年後、空き家となった藤代家の解体工事中、庭の白木蓮の根元から一体の人骨が見つかる。 それは、東京へ帰ったはずの優一だった。 当時の捜査で継母の涙を信じた元刑事・黒瀬は、再び事件と向き合うことになる。防犯カメラに映った男は誰だったのか。なぜ携帯電話は東京まで移動していたのか。そして沢子は、何を守るために嘘をついたのか。 白木蓮の下に17年間埋められていたのは、遺体だけではなかった。ミステリー|行方不明1.5萬字5 134 -
完結第11話
ガジュマルの根が暴いた夜
2008年夏、京都郊外の古寺で、台風によって1本のガジュマルの老木が倒れた。 むき出しになった根の下から見つかったのは、大人2人と幼い女の子の人骨。そばには、色褪せたピンクのワンピースと、腐食したビジネスバッグが残されていた。 それは15年前、一夜にして姿を消した北村家3人のものだった。 当時、夫の健二は勤務先の建設会社で、不自然な金の流れに気づいていた。だが警察へ告発しようとした直後、妻と幼い娘もろとも消息を絶つ。 なぜ3人は、寺の木の下に埋められていたのか。 バッグの中に残されたフィルム、少女の服に縫われた小さな梅の花、そして15年間沈黙していた男の証言。 刑事・田中恵美が古い証拠を追うにつれ、慈善家として知られる大物会長の仮面が少しずつ崩れていく。 しかし、ガジュマルの根が暴いた真実は、まだ終わりではなかった。 北村家が消された夜、その奥には、誰も触れてはならないさらに深い闇が隠されていた――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 835 -
完結第10話
Night072の夏
2019年7月、大阪。 16歳の高校生・瀬名ほのかは、学校を出たあと家に帰らなかった。普段なら遅くなる時は必ず連絡を入れる娘。だがその夜、何度電話をかけても、返ってくるのは留守番電話だけだった。 捜査が始まる中、親友の証言から、ほのかがSNSで知り合った謎の人物と会う約束をしていたことが分かる。 相手の名は「Night072」。 優しい言葉でほのかの悩みに寄り添い、「君を理解している」と語り続けたその人物は、本名も顔も分からないまま、巧妙に正体を隠していた。 やがて、大和川で発見された黒い袋が、事件を最悪の方向へ動かしていく。 医学知識を持つ人物。消された通信記録。空き家に残された痕跡。そして、画面の向こうで優しく語りかけていた「Night072」の本当の姿。 ほのかはなぜ狙われたのか。 そして、彼女が最後に信じた相手は、何者だったのか――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 465 -
完結第12話
井戸に沈んだ制服
1992年10月、宮城県の山あいの村で、68歳の天野越子が突然姿を消した。 越子はその日、いつものように籠に米と果物、庭の菊を入れ、村外れの寺へ向かった。自宅から寺まではわずか600m。何百回も歩いてきた道で、迷うはずなどなかった。 しかし、越子は寺には着いていなかった。 警察犬は自宅から約100m進んだ場所で、彼女の匂いを見失う。財布も通帳も家に残されたまま、争った跡も、倒れた痕跡もない。まるで、その短い道の途中で忽然と消えたかのようだった。 そして7ヶ月後。 村の古井戸から見つかったのは、40年近く前の女子学生服に包まれた、越子のものと思われる一部の骨だった。 なぜ、寺へ向かっただけの老女が消えたのか。 なぜ、古い制服に包まれていたのか。 捜査線上に浮かんだのは、越子の若い頃を知る一人の元教師だった。 彼の家の地下室で警察が見たものは、この村が長年信じてきた“平穏”を根底から壊すものだった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 293 -
完結第13話
嘘を握った右手
2014年、群馬県の山間部で山わさび畑を営む田中健二が突然姿を消した。 宿舎には通帳も現金も残され、畑の給水設備は止まったまま。几帳面だった健二が、何も告げずに山を離れるはずがなかった。 数日後、農業廃棄物の下から見つかったのは、遮光幕に包まれた健二の姿。右手には、最後まで離さなかった数本の髪が握られていた。 地主の女社長、解雇された若い作業員、秘密の携帯電話、108回の通話記録。 山奥の乾燥倉庫で、あの夜いったい何が起きたのか。 嘘と欲望にまみれた不倫関係が、やがて誰にも消せない証拠を地上へ呼び戻していく――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 238 -
完結第11話
五人目の白い靴
2003年夏、琵琶湖のほとりでキャンプをしていた伊藤一家4人が、忽然と姿を消した。 車もテントも荷物もそのまま。財布や鍵、子どもの持ち物まで残されていたのに、家族だけがどこにもいない。唯一、テントの中にあったのは、伊藤家のものではない片方だけの白い運動靴だった。 靴の内側には、消えかけた名前。さらに、長い年月を経て判明した血の痕跡。 捜査は難航し、事件は未解決のまま5年が過ぎる。だが、再鑑定によって白い靴が語り始めたのは、伊藤一家だけではない、もう一人の少女の存在だった。 なぜ、その靴は琵琶湖のテントにあったのか。 そして、5年前から誰にも届かなかった少女の名前とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 339