"春雨に消えた妻" 第1話
1992の、神奈川県横浜の港ニュータウンでは、しい町がしずつ形をえ始めていた。
発の埃はまだ完全には収まっておらず、舗装されたばかりのアスファルトのを、子どもたちの自転が軽い音をてて通り過ぎていった。築マンションの窓にはいカーテンが揺れ、駅にはまだしい板の匂いが残っていた。
その町に、鈴順子という女性がんでいた。
当42歳。卒業、23歳で結婚し、神奈川県内を転々とした、夫・幸の職にわせて港ニュータウンへ引っ越してきて2目になるだった。
順子は背がく、目ちのはっきりした女性だった。度笑うと、周囲までるくなるとよく言われていた。けれど所の々は、ここしばらくの彼女のまなざしに、何か言いせない疲労のをじていた。
順子の1は、いつも決まっていた。
朝に起きて夫の弁当を作り、義母・静の薬を用し、洗濯物を干してからのをえる。午になるとマンションの壇の周りをし歩き、夕方にはまた台所にった。
頼れる実はなかった。両親は順子が30代半の頃にすでにくなっており、兄が1いたが、ずっとから連絡は途絶えていた。つらいに話を1本かける所もない女性だった。
義母との関係も、決して順調ではなかった。
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70代半の静は、結婚して19が経っても子どものいない嫁に対して、直接責めることはなかった。けれど、どこか空っぽの表で順子を見つめることがあった。
所にむ佐藤という女性は、にこう証言している。
「順子さんが、1度だけ廊で1、くを見つめていたことがあったんです。丈夫かと尋ねたら、ただ『し休みたい』と言っていました。それだけでした」
そんなのある、卒業20周のクラス会の案内はがきが届いた。
順子は郵便受けからそのはがきを取りすと、玄関先でしばらくち止まった。表面にかれた懐かしい母の名と、幹事の名を見つめるうちに、指先にし力が入った。
その夜、夫の幸が帰宅すると、順子ははがきを見せた。
「のクラス会ですって。20ぶりなの」
声は控えめだったが、その目には久しぶりにるいが差していた。
幸はその表を見て、し驚いた。事と介護に追われる毎ので、順子がそんな顔を見せることは、ここ最ほとんどなかったからだ。
「あんなに嬉しそうな表を久しぶりに見ました。胸を踊らせているようでした」
幸はに、そう語っている。
その顔が、彼が最に見た妻のるい顔になるとは、そのはまだ誰もっていなかった。
クラス会は1992418、曜の夜にかれることになっていた。
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所は港ニュータウンのセンター駅くにある華料理の2階だった。卒業20周を迎え、12の同級が集まる予定だった。
そのの夕方、順子は黒系のジャケットに袖を通し、鏡ので真珠のイヤリングをつけた。派ではなかったが、いつもの着とは違う、しだけ華やいだ姿だった。
幸は玄関で靴を履く妻を見ていた。
「遅くなるなら、無理しないで話してくれ」
「ええ。久しぶりだから、しだけ楽しんでくるわ」
順子はそう言って微笑んだ。
マンションの入りまで見送った幸は、妻のろ姿がなぜかいつまでも目に焼きついたと語っている。めのヒールの黒い靴が、夜の歩にさな音をててざかっていった。
そのクラス会の席に、健という男がいた。
当43歳。順子の代の同級で、港ニュータウンで建築資材関連の事業を営んでいた。体格がよく、で話すことに慣れており、集まりではいつもにつ男だった。
座を盛りげるのがく、同級のでは豪に笑った。けれど親しくしていた者のには、その笑顔の裏に計算い面があることをじ取っていた者もいた。
事件、幸は順子の帳を引きしの奥から見つけた。
分量はくなかったが、そこには捜査記録にも引用されることになる文が残されていた。
「何度も話がかかってくる。たくないのに、切るとまたかかってくる」
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