"三輪山に消えた家族" 第3話
彼女は、を嗜んでおり、でも流麗な達でられていたからだ。
しかし、全体のバランスは性をじさせるものの、よく見ると所々でペン先に力が入りすぎたかのようにインクがく滲み、線全体がかすかに震えている。裕は便箋を広げ、かれた内容に目をらせた。その瞬、彼の表はみるみるうちに困惑へと変わっていった。
そこに綴られていたのは、族へのや楽しかったい、あるいは失踪の理由を説するような般な言葉ではなかった。
『巳のにあの所へ』 『柿の葉に真実を包む』 『泣く子供は鬼にさらわれる』 『を向いてはいけない、決して』
それはというよりは、むしろな指示か、あるいは誰にも解読されることを望まない暗号の羅列のようだった。 裕は便箋を握りしめ、首を傾げた。「巳の」とは、この域に古くから伝わるの蛇伝説にちなんだだろうか。「柿の叶」はこのの名産である柿の葉寿司を連させるが、それに真実を包むとは体どういうなのか。
「泣く子供」の文に至っては、まるで古い童のようで気ですらあった。これは精神を病んだが、混乱のでき殴った妄なのだろうか。
裕は便箋の文字をもう度凝した。いや、この理然とした全体の配置、そして震えを宿しながらも正確に紡がれた跡は、錯乱したのものとは到底えなかった。
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むしろ、極度の緊張と凄まじい恐怖ので、必に理性を保ちながら、誰かに何かを伝えようとしている。そんな切迫した志が、文字の端々からにみていた。
裕は線を落とし、箱の横に置いた歪な族写真へと再び目をやった。恐怖に張った笑顔を見せる千代子と、謎めいた暗号をき残した千代子。2つの像が、どうしてもので結びつかない。
そして、あののに映る気な。 「神隠しだよ」と、誰もが単純なオカルトの物語で片付けようとした25のあの失踪劇の裏側には、像もつかないほどく暗い秘密が隠されている。裕はそう確信せざるを得なかった。このは、母方の縁である千代子が、25のを超えて自分に託した、解かねばならない謎なのだ。
にしたと写真が、単なる遺品ではなく、解かれるべき確な謎であると確信した裕のはかった。翌、彼は25の失踪について何かる者はいないか、の集落を歩いて回ることにした。
の麓に点する古い集落は、都会とは異なり、がゆっくりと流れている。田んぼの畦でしゃがみ込んでをむしる老婆や、柿のので枝の入れをする老の姿を見つけ、裕は歩み寄った。彼は子を脱ぎ、当たり障りのない候の挨拶から話を切りした。
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「こんにちは。ちょっとお伺いしたいのですが、私は波野の者ですが……し昔のお話を」
しかし、裕が「波野」という失踪したの姓をにした途端、それまで穏やかだったたちの表が瞬で凍りつくのを、彼ははっきりとじ取った。 老たちは作業のをピタリと止め、い警戒の差しで裕の顔をじっと見つめた。その目には、余所者に対する好奇ではなく、あからさまな拒絶のが浮かんでいた。
ある者は「さあ、昔のことは分からんねえ」とく突き放してにそのをちり、またある者は「触れてはならんこともあるんや」とい声で呟き、頑なにを閉ざした。彼らの見せる拒絶の背は、裕に対して見えない巨な壁を築いているようだった。
その壁は、単なる過への無関ではない。底れぬ恐怖、そしてもしかしたら、隠し通してきた罪悪のようなものが混じりった、くたい壁だった。さらに彼らが様にまとっている、く染みついた線のりが、このに根付く者への畏敬と同に、何か都な真実を固く封じ込めておきたいというい志の現れのようにもじられた。
(孤無援だ。この全体が、あの事件の巨な沈黙の共犯者なのだ……) そう悟った裕が、畦の真んで途方に暮れかけたそのだった。
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