"三輪山に消えた家族" 第5話
(葉だ……。葉がの対の末に、波野をこのから引に追いしたんだ。方法は分からないが、彼が黒幕に違いない!)
しかし、裕はく息を吐きながらった。田所の話の節々に、奇妙な引っかかりが残る。まるで、葉のが「悪」だけでは説しきれない何かを含んでいるような、議な余韻。 力者が対相を方に追い詰めるにしては、そのやりはあまりにも隠密で、そして解だ。裕は膝ので固く拳を握りしめた。次はその葉という男に、直接会って確かめるしかない。
元駐の悔に満ちた証言は、裕のに「葉」という確な敵の姿を刻みつけた。の争い、での絶対な権力、そして失踪を引に夜逃げと断定させた傲な振るい。すべてが彼を犯だと指し示しているようにえた。
りに駆られ、今すぐ葉の敷に乗り込みたいというい衝に駆られる方で、裕のの片隅では、あの物置で見つけた解なの言葉が、たく響き続けていた。 「柿の葉に真実を包む」
もし葉がを方に破滅へと追い詰めたのだとしたら、母親の千代子はなぜ、このような謎めいた言葉をわざわざ桐箱に残したのだろうか。まるで、誰かとあらかじめ示しわせたかのような、秘密の図。
広告
そのを完全に解きかさない限り、本当の真実にはたどり着けない。裕は流る気持ちを必に抑え、まずはこのの言葉の謎を追うことに決めた。
桜井、そして奈良ので「柿の葉」といえば、誰もが郷料理である「柿の葉寿司」をい浮かべる。千代子が、このくで贔屓にしていたはなかったか、裕は田所に尋ねてみた。 田所は髪のをし捻って考えた、「あ、そういえば」と顔をげた。 「の当たり……の辺のの途に、さな古い茶がありますわ。あそこのおばあさんが作る柿の葉寿司が絶品でな、千代子さんもよう通っておられましたわ」
裕はく礼を言って田所のを辞し、古代から続く本最古の、の辺のへと向かった。 畳やのが入り混じり、端にはさな蔵や万葉集の碑が点している。の両脇には、初の太陽を浴びてタワワに実をつけ始めた柿のがどこまでも続き、が吹くたびに、葉の擦れう乾いた音がサワサワと裕のを撫てた。
イニシエの代から幾千、幾万のが歩いたであろう歴史あるを、の匂いをじながらんでいく。その静けさが、裕のく昂っていたをしずつ沈めていった。 やがて、い茂る々のから、茅葺き根の古びた軒の茶が見えてきた。
広告
軒先には「田」と染め抜かれたの簾が揺れている。
を覗くと、腰の曲がった老婆が1、静かに番をしていた。裕が簾をくぐってに入ると、老婆はゆっくりと顔をげ、「いらっしゃい」とく温かい声で迎えた。のには、汁の匂いと、ほんのりとしたお酢の甘酸っぱいりが漂っている。 「柿の葉寿司を、いただけますか」 裕がそう言うと、老婆はニサリと笑って「あいや」と応じ、奥の厨へと入っていった。
しばらくして、青々とした鮮な柿の葉に美しく包まれた寿司が、湯気のつ湯みと共に運ばれてきた。差しされたほうじ茶の温かさが、緊張に張っていた裕ののひらにじんわりと染み渡っていく。 「あの……しお伺いしたいのですが」 裕はを決して、物置の桐箱から取りしてきた千代子の族写真を、製のテーブルのにそっと置いた。 「この女性を、覚えていらっしゃいませんか?」
老婆は老鏡をかけ、テーブルの写真に目を落とした。その瞬、彼女のきがピタリと止まった。そのシワだらけの顔が驚きに見かれ、やがて、い昔をおしむような、切なげな表へと変わっていく。 「ああ……波野さんとこの、奥さんやないか……」 その声は、かすかに震えていた。
「忘れもしませんよ。あのがおらんくなる、ほんの数のことですわ」
老婆はい目をして、ゆっくりと語り始めた。 あの、千代子は1でこの茶へやってきて、「申し訳ないけれど、厨の所と具をしのだけ貸してもらえないか」
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 240 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 175 -
完結第16話
廃線駅に殘された最後の切符
昭和43年、廃線となった白沢駅で、老駅長・源吉は毎年3月12日になると、昭和25年の日付が入った東京行きの切符を机に置いていた。若い駅員の修一が調べると、その日は14歳の少年・健一が故郷を離れた日だった。 健一は別の少年を助けるために名前を貸し、故郷では東京へ就職したことになっていた。しかし本人は別の土地で働き、母へ送った手紙も届かないまま、帰る場所を失っていた。源吉は、東京へ行きたくない健一を時代の流れに任せて送り出したことを、長年悔やんでいた。 源吉の死後、白沢駅へ戻った健一に、修一は最後の切符を渡す。それは旅立ちを促すためではなく、「いつでも帰ってきてよい」と伝えるために残された一枚だった。健一は草に覆われた廃線跡を歩き、置き去りにした故郷との時間に向き合う。歴史|昭和|ミステリー2.4万字5 125 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 208 -
完結第11話
火曜日だけ「受取済」が増える町
昭和22年、大阪。配給日の火曜日になると、まだ米を受け取っていない家の通帳に、なぜか《受取済》の判が押されていた。 ある日、十六歳の俊夫の家も米を受け取れず、家族は一週間分の食料を失う。印影は母の判子と酷似し、配給所では叔父が帳簿を管理していた。 真相を確かめるため、俊夫は夜の配給所へ忍び込む。そこで見つけた裏名簿には、死亡者や未帰還兵の名義で今も米が支給されていた。 そして、その中には二年前に亡くなった父の名前もあった。 《高橋勇作 一人分》 《受取人 芳江》 母はなぜ、死んだ父の名で米を受け取り続けていたのか。さらに調べるうち、善意から始まった秘密の配給と、それを利用して本当に米を奪っていた人物の存在が浮かび上がってくる。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 138 -
完結第19話
廃線の駅で待ち続けた父
昭和37年、源吉は毎週金曜日、15年前に列車が来なくなった青谷駅のベンチで誰かを待っていた。駅員の中村が古い記録を調べると、源吉の息子・修一は終戦後の列車事故で消息を絶っていた。 しかし修一は、事故の直前に戦災孤児の健一を助けるため列車を降りていた。源吉が本当に待っていたのは息子ではなく、「修一さんに助けられた。いつか会いに行く」と手紙を送った健一だった。 中村は30歳になった健一を探し出す。修一の家族を苦しめることを恐れ、15年間会いに行けなかった健一は、最後の金曜日に青谷駅を訪れる。源吉はその顔へ震える手を伸ばし、「修一に似ている」と静かに告げた。歴史|昭和|ミステリー2.9万字5 237 -
完結第12話
消えた姉と18年後の手紙
昭和39年、19歳の佐和子は東京の洋裁店へ働きに出るため、柳行李を上野駅へ送った。しかし本人は店に現れず、上野に届いた荷物からは財布、印鑑、戸籍関係の書類だけが消えていた。家族は、佐和子の帰りを待ち続ける。 18年後、弟の浩二は父の遺品から、姉が乗るはずだった夜行列車とは別方向の列車に印を付けた時刻表と、失踪から2か月後に届いた姉の手紙を見つける。父は、佐和子が生きていることも、自ら家を離れたことも知りながら、家族へ隠していた。 横浜で姉を見つけた浩二は、佐和子が家族のために決められた人生から逃れ、自分の道を選んだと知る。やがて佐和子は弟と列車に乗り、母の墓がある故郷へ向かう。今度は誰かに決められた旅ではなく、自分の意思で選んだ帰郷だった。時代|歴史|昭和|ミステリー1.7万字5 206 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 499 -
完結第18話
消えた交換手と鳴らなかった電話
昭和49年の雪の夜、電話交換手の澄子が姿を消した。十三歳の娘・和枝は、母が家族を捨てたという噂を聞きながら育つ。十九年後、取り壊された交換局から届いた勤務簿には、失踪の夜、澄子が自宅へかけようとして《接続不能》になった通話が記されていた。 和枝が調べ始めると、家の電話線が刃物で切られていたこと、澄子が高齢者宅への灯油配達をめぐる不正を追っていたことが分かる。母は家族を守ろうと町を離れたが、その後も帰れなかった理由には、父の沈黙と、澄子自身のためらいが重なっていた。 ようやく母と再会した和枝は、生きていてくれた喜びと、置き去りにされた寂しさの両方を抱える。十九年を一度の会話で埋めることはできない。それでも二人は、次に話す日を自分たちで決める。雪の日につながらなかった電話が、今度は確かに母へ届く。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 1511