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"半纏に縫われた遺言" 第7話

の広い背が廊の向こうへとざかっていくとき、私は息子のろ姿を、界から消えるまで最まで見つめ続けていた。 度でいい、度でもいいから、振り返って私の様子を気にしてくれれば、まだ彼の胸のに、母親へのがほんの筋でも残っているのだといたかった。

ガチャン、と苦しい音をてて、ロビーのガラスの自ドアが閉まった。 裕は、最まで度も振り返ることはなかった。 ガラス窓の向こう側のたいで、黒いセダンの赤いテールランプが、の彼方へと消えていくのを見つめながら、私は唇を噛み締めた。 く噛み締めすぎたのか、に鉄のがじわりと広がっていった。

若い介護士の男が、私の古びた荷物カバンを持って廊を歩きした。 私はそのしだけち止まり、施設の暗い庭を眺めた。 たいが、静かに面を濡らしている。 私は半纏ののポケットにを入れ、夫の実印がある所に、そっとのひらを当てた。 え切ったの檻で、私はで、き夫に向かって静かに話しかけた。 (……あなたの言う通りだったよ。あの子の目は、私のらないくらいたくなってしまっていたよ。から、あなたの遺してくれたこの台ので、私もを鬼にして戦うよ)

案内された202号の病は、狭く、そして酷く暗かった。

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窓には、内側から頑丈な鉄格子のついた網戸がはめ込まれており、の空が、格子状に角く切り取られて見えた。 部に入った瞬、酸っぱい尿の匂いがを突き、4つ並んだベッドのうち3つには、すでに気を失った老が横たわっていた。 1井の点を見げたまま瞬きもせず、もう1は毛布をまですっぽりとかぶって、微だにしなかった。

私に割り当てられたのは、入りのドアからい、部の隅にあるベッドだった。横たわると、古いスプリングがギィと苦しく軋んだ。 マットレスの真ん自然にくぼんでおり、枕からは、見らぬの油の匂いが染み付いていた。 荷物をベッドの横に置くと、先ほどの若い介護士がづいてきて、私の黒い半纏を力任せに脱がせようとしてきた。 「ここでは、所持品検査をしなければならない決まりなんだ。その着を脱ぎなさい」と言って、の襟元にを伸ばしてきた。

その介護士のが、半纏の裏に触れようとした、まさにその瞬だった。 私の全に、気を流されたかのような激しい衝撃がり、体が直した。 (このを、今ここで奪われたらすべてが終わりだ。夫が命がけで遺してくれた実印も、信託契約の原本も、すべて連に奪われてしまう……!)

私はその瞬目を剥き、から自然に泡を吹いて、ベッドのからのけぞるようにしてへと転がり落ちた。

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40、浅の仕事で、気難しい数え切れないほどのお客ので笑顔を売りながら磨きげてきた職の演技力を、私は今、自分の命を守るために初めて本格に解き放ったのだ。 「こ、この半纏はねえ……! うちのんだが作ってくれた、私のに装束なんだよぉ! 脱がせたら、おたちも、私も、みんな呪い殺されてぬんだぁぁぁ!」

声が完全に枯れるほどの、狂気じみた声を病に響かせた。 をめちゃくちゃにバタつかせる私を見て、若い介護士は驚いてろへとがり、その顔を激しく歪めた。 狂った老が叫ぶ「に装束」という吉な言葉に、縁起が悪いというい嫌悪が、彼の表にはっきりと浮かびがっていた。 「チッ、わかりましたよ! 分かったから、そのまま着ていてください!」 介護士は忌々しそうにを振りながら、に病った。

バタンとドアが閉まり、病に再び苦しい静寂が訪れた。 私はで、きしむ体をゆっくりと起こしてベッドの縁に腰掛け、く、く息を吐きした。 臓が破裂しそうなほど激しく脈打ち、両刻みに震えていた。 しかし、私は自分のである、この半纏を守することに成功したのだ。 窓の鉄格子の隙から、がコンクリートの壁を伝って、黒い筋を描きながら流れ落ちていた。

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