"半纏に縫われた遺言" 第12話
入所して3週目を迎えた、あるの午だった。 昼の直、廊の突き当たりにある非常階段のドアの向こうから、聞き覚えのあるい話し声が聞こえてきた。 美の声だった。 彼女がつけている、あのを突く級の匂いが、施設の烈な消毒薬の匂いを突き抜けて、非常階段の方から漂ってきた。 私はすかさず、廊の掃除用に置いてあった汚れた雑巾をに取り、腰をく曲げて、非常階段の方へとゆっくり、よろよろと歩いていった。 ボケた老が、雑巾を引きずって廊を徘徊していることなど、すれ違う介護士たちは誰も気に留めなかった。
3週、毎同じ徘徊のを職員たちので繰り返してきたおかげで、介護士たちは私が雑巾を持って廊をうろつく姿を、完全に「常の景」として見過ごすようになっていたのだ。 階段の踊りのから覗き込むと、美と院が、お互いに向きって密かにっていた。 私は階段のの暗がりの隅に静かにしゃがみ込み、汚れた雑巾を持ったまま、彼らの方を向いて「へへへ、えへへ」とヘラヘラした笑みを浮かべてみせた。 美は私を瞥し、ひどく汚いものを見るような目を向けたが、そのまま無してカバンからい封筒を取りし、院のへと差しした。
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封筒のみから見て、には1万円札がかなりの枚数入っているのが分かった。
「院先、いよいよ来週の曜、夫が偽の委任状を使って、産業者と浅のの最終な売買契約を交わしますの。から親族に訴えられたりして問題が起きないよう、母が『完全に認能である』という確定診断を、裁判所や役所向けに確実に提しておいてくださいね」 「ククク、ご配なく、奥様。毎週の薬の投与記録も、類はすべて完璧に辻褄をわせておきましたからな」 院は汚い笑みを浮かべて封筒を受け取ると、スーツの内ポケットへとくねじ込んだ。
院へと戻る、美が酷な声を付け加えた。 「もし、あのクソババアがの職員に何かブツブツ言ってきても、絶対にまともに取りわないでくださいね。ただの度の妄症なんですから」 私は、膝のに置いていたラジオの音量ダイヤルを、半纏の袖のからそっと、静かに引っ張った。 カチッ。 「曜」という具体な契約の付と、「の売買契約」という決定な犯罪の証拠が、内部の記録媒体へと、はっきりと刻み込まれたことだろう。 美のヒールの靴音が、階段をりてざかっていくまで、私はそのにしゃがみ込んだまま、じろぎつしなかった。 臓が太鼓のように激しく鳴っていたが、私の指先は、決して震えてはいなかった。
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(曜……。ついに、すべてのが決まったねえ)
昼の配膳のになった。 プラスチックのお盆のには、ベタついたたい量の米に、っぽい根の汁物、そして塩辛い根の漬物が3切れ並んでいた。 私はその粗末なお盆を受け取り、堂の隅にある番目たないテーブルに、で静かに腰掛けた。 汁物のに浮いている具材といえば、っぺらい根の切れ端が2つ、3つあるだけで、米は分がすぎて、プラスチックのスプーンからボロボロとにこぼれ落ちた。 「なない程度にかしておけ」と言った、あの院の酷な言葉が、この目ののお盆のに、そのまま惨めに具現化されていた。
私はスプーンの先で、ご飯粒を1つずつに落として数える「ボケ老」のふりをしながら、堂の入りのドアをじっと注し続けた。 3週、この所で観察し続けた結果、厨へ材を搬入するトラックは、毎週曜と曜の昼の11半ぴったりに入ってくることが分かっていた。 今が、その曜だった。 部の世界へと繋がる、唯の救いの通であるそのトラックを、私はこの3週、じっとを研ぎながら待ち続けていたのだ。
計の針が11半を回った頃だった。堂の裏のい搬入のドアがき、体格のガッシリとしたの男が、根が詰まったいプラスチックのケースを両で抱えて入ってきた。
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