"半纏に縫われた遺言" 第16話
曜の決戦のまで、あと4。 決定な証拠品である記録媒体を鉄男のへと無事に渡した、私はただ、そのが来るのをじっと待ち続けた。 待つこと以に、私にできることは何も残されていなかった。 3週かけて周囲の職員たちに植え付けてきた「何も分からないボケ老」の演技を、ここでしでも崩すわけにはいかない。 私は11を、これまでと全く同じように、狂を装って過ごし続けた。
朝はピンクの薬を舌のに隠してトイレに吐き捨て、昼はっぽい根の汁物をスプーンでこぼしながら啜り、午は子に座って、主のいなくなった壊れたラジオのボタンをカチカチと押し続けた。 記録媒体が引き抜かれたラジオは、今や本当にただのかないガラクタだったが、習慣のようにボタンを鳴らすことだけは辞められなかった。 「カチッ」と音が響くたびに、まるで暗の向こう側でき夫と対話しているかのような、議なに包まれたからだ。
の世界と完全に断絶されたまま、結果を待つは、鉄格子のついた狭い部に閉じ込められていることよりも、遥かに息苦しく、私の胸を締め付けた。 毎晩、鉄格子の隙から差し込むたいかりを見つめながら、私はので、の世界の景を鮮に像し続けていた。
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(鉄男が、夜を徹してトラックを運転し、京の浅へ向かう姿……。霞が関のビルの片隅にある、田健弁護士の事務所のいドアを叩く姿……。渡された記録媒体の音声を再し、驚愕してメガネをす田健の顔……)
田健に最に会ったのは、3の夫の葬儀のだった。 今から15、まだ27歳だった、貧しい司法試験受験だった頃の田健は、おがなく、毎浅の仕ての作業台の片隅で、夫が用してやった温かい定を涙を流しながらべて、司法試験に格した青だった。 の寒い夜には、仕事の油ストーブのすぐそばで、分い法全をいて夜をかし、私はけ方に目を覚ますと、その机に向かう青の肩に、「邪をひくんじゃないよ」と言って、静かに毛布をかけてやったものだった。 事代を払おうとして財布を取りす田健に対し、夫はいつも、彼のを叩いてこう言ったのだ。 『事代なんてものはねえ、試験に受かっての弁護士になってから払えばいいんだよ。それまでは、全部俺へのツケにしておきなさい』
田健が司法試験に見事格した、浅の仕てので、夫と3でい焼酎の杯を交わしながら、ワンワンと声をげて泣いたあの夜の景が、今も目のに鮮に浮かぶ。
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その夜、田健は格通のを両で握り締め、夫のにくをげて、涙ながらに誓ったのだ。 『お父さん、お母さん。この御恩は、僕ののすべてを賭けて、絶対に忘れません』 夫の葬儀のも、田健は姿の私ので、のる面に1以もひざまずいたまま、遺を見つめて泣き続けていた。 あの実直な青が、ラジオの内部の記録媒体に納められた、私の裕たちの犯罪の音声を聴いた瞬、じっとしているはずがなかった。 その夫が遺してくれた、絶対の信頼の糸が1本あるからこそ、私はこの鉄格子の檻ので、職員の暴力に耐え抜くことができたのだ。
決戦の曜を迎える、2の夜のことだった。 夜の11を回った頃、病の窓のの暗から、のいエンジン音が、ごくく、静かに響いてきた。 ドッドッドという、材トラック特のたいディーゼルエンジンの響きだった。 鉄男の運転するトラックと、全く同じ排気音だった。 は、施設のにある険しい叉の付で度だけし、ライトを消したまま、数分に静かにをりていったようだった。 音が完全に消えった、私は毛布ので、の拳をく握り締めた。 確信はなかったが、もし鉄男が、の警察や捜査官たちのために、この辺りの形や侵入ルートを事に確認しに来てくれたのだとすれば、の世界で、私を救うための巨な歯が、すでに確実にき始めているということだった。
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