"偽りの夫婦と奇妙な夜の声" 第2話
「うあっ」
奇妙な声が聞こえた。
私はを止めた。
声は廊の突き当たりにある義母の寝から漏れていた。
「お母さん?」
私は息を潜めた。
義母はどこか具でも悪いのだろうか。
品で穏やかな義母の姿がに浮かび、私は配になってそっと部にづいた。
「違う、違う!」
と押し殺した叫び声が聞こえた。
それは昼の優しげな義母の声とは似ても似つかない、獣のようなく濁った声だった。
ドスドスという壁かを叩くような鈍い音も聞こえる。
私の臓が鐘のように打ち始めた。
何が起きているのか。
悪魔でも入ったのか?
それとも義母が急病で苦しんでいるのか?
私は震えるでしだけいていた襖の隙から部のを覗き込んだ。
そこには信じられない景が広がっていた。
暗い豆球のの、義母の佐子がに座り込んでいた。
綺麗に結われていた髪がボサボサに乱れ、目はうつろに見かれている。
そして彼女のには、なぜか私が結婚式で着ていたウェディングドレスの切れ端が散乱していた。
義母のにはきな裁ちバサミが握られている。
「こんな女、こんな女、私から健を奪う女なんて」
義母はハサミを振りろし、に置かれた何かを何度も突き刺していた。
それは私が健と撮った写真てに入った結婚写真だった。
広告
ガラスが割れ、私の顔の部分がズタズタに切り裂かれている。
私はわず息をんだ。
その背からすっとたいが私の肩を掴んだ。
「何をしているんだ?」
振り返るとそこには暗ので無表につ夫の健がいた。
「何をしているんだ?」
背から聞こえた健のくたい声に私はビクッと肩を震わせた。
暗の、健は表を変えずに私を見ろしている。
そのは私の肩を痛いくらいにく掴んでいた。
「健、健さん、あの、お母さんが……」
私は震える指でしだけいた襖の奥を指さした。
しかし健は部のを確認しようともせず私のを乱暴に払いのけた。
そして音をてないように静かに襖を閉めたのだ。
「見なかったことにしろ」
「え……」
「母さんは々ああなるんだ。気分障害みたいなものだよ。結婚式の準備で疲れてストレスが溜まっているだけだ。にはケロッとしている」
「でもあんなに写真を、それに私のドレスを……」
「いいからおは黙って自分の部に戻れ。絶対に母さんには言うなよ」
健の目はまるで厄介者を見るかのようにえ切っていた。
昼の結婚式で見せてくれたあの優しく温かい夫の姿はどこにもない。
私は言われるがまま逃げるように階の暗い空部へと戻った。
たい布団ので膝を抱え、朝が来るまでもすることができなかった。
広告
翌朝、い取りで階のキッチンへりるとそこには信じられない景があった。
「おはよう、ゆみさん。よく眠れた?」
エプロン姿の義母の佐子がを混じりでお湯を沸かしていたのだ。
その顔には昨夜の狂気など微もじられない、品で穏やかな笑みが浮かんでいる。
ふとリビングの棚を見ると、昨夜ハサミでズタズタに切り裂かれていたはずの結婚写真がしい写真てに入って何事もなかったかのように飾られていた。
「どうしたの?ぼーっとしてさ、朝ご飯の準備を伝ってちょうだい」
「はい……」
お母さん、私が昨夜見たものは全てだったのだろうか。
あまりにも完璧な義母の笑顔に、私ののにあった恐怖は奇妙な違へと変わっていった。
それでも私はこのから逃げすことはしなかった。
いや、できなかったのだ。
くに両親をなくして、私にとって族という言葉は眩しすぎるだった。
誰もいない真っ暗なアパートに帰り、でたいお弁当をべる毎。
をしても誰にも病をしてもらえない孤独。
あの寂しさに戻るくらいなら、し変わった義族でも私がすればいい。
そうっていた。
何より私には完璧だった婚約期の記憶があった。
交際していた頃、健はいつも私の歩幅にわせて歩き、「君の孤独は俺が全部埋めてあげる」
と抱きしめてくれた。
義母の佐子も休の旅に私を実に招いて料理を振るい、「ゆみさんがお嫁に来てくれたら本当の娘ができたみたいで嬉しいわ」と涙んでくれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第27話
中卒の兄、結婚式で覚醒す
弟が名医として結婚式を挙げた日。 学歴至上の親戚たちは、医者の弟を持ちながら中卒でトラック運転手の俺を見下し、笑いものにした。 「こんな底辺な兄がいるなんて、恥ずかしいわw」 「せっかく医者になったのに、身内が足を引っ張る」 義父である大病院の院長まで、俺を蔑み、権力で圧しつけてくる。 誰もが俺を惨めな負け組だと決めつけたその瞬間―― ずっと黙っていた弟が、冷めた声で義父に告げた。 「院長。あなたはまだ、兄の正体に気づかないんですか?」 たった一言で、豪華な結婚式会場は一瞬で凍りついた。 彼らが馬鹿にした中卒の底辺兄。 実は、年商数百億の企業社長で、弟の夢を全部支えてきた男だった。 続々と入る国税局捜査、崩壊する権力、覆される階級。 学歴と肩書きだけで人を見下すエリートたちの顔面が、地に落ちる―― 最強兄の無双逆転、最後まで必見!因果応報|人生逆転|怒り|兄弟姉妹|親子関係4.1萬字5 85 -
完結第21話
父の残した翼
結婚 1 週間後、夫は毎晩汗だくで私の母の部屋から出てくる。 あまりに不自然な様子に不安を抱いた私は、部屋に隠しカメラを仕掛けた。 録画映像を再生した瞬間、私は衝撃でその場に膝から崩れ落ちた…… 夫の優しい仮面の裏に隠された、金欲と脅迫の悪夢が、全て記録されていた。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|親子関係3.2萬字5 166 -
完結第6話
他人と言われた娘
5歳の娘・マリが、義実家のクリスマスパーティーで泣きながら尋ねた。 「おばあちゃん、マリのは?」 長男嫁の子どもたちにはプレゼントを渡した姑。けれどマリにだけは、冷たい言葉を浴びせた。 「低学歴の嫁から生まれた子なんて、うちの孫じゃない」 施設で育ち、大学には行けなかった美優。結婚当初から姑に見下され続けても、夫の母だからと我慢してきた。しかも美優は、姑が知らないところで、何年も仕送りを続けていた。 しかし、娘まで“他人”扱いされた瞬間、美優の中で何かが切れる。 「分かりました。今後は他人として接します」 翌月、姑は初めて知ることになる。 自分の生活を支えていた仕送りが、誰から届いていたのかを。 そして、他人だと笑った相手に頼っていた姑の暮らしは、静かに崩れ始める――。嫁姑|親子関係9.2千字5 4 -
完結第10話
母が家を消した日
75歳の高橋幸は、お盆の夜、廊下の向こうから聞こえてきた家族の会話に足を止めた。 「おばあちゃんが施設に行ったら、この家、私たちのものになるの?」 息子夫婦は、幸を介護施設へ入れ、そのマンションを売って自分たちのローンや教育費に充てる計画を立てていた。しかも、その話は一時の思いつきではなく、すでに何か月も前から進められていたものだった。 翌朝、息子と嫁は何事もなかったように優しい顔で接してくる。病院での認知症検査、施設リスト、マンション売却後の資金計画――幸は静かに証拠を集めながら、最後の決断を胸に秘める。 そして、息子一家が海外旅行へ出かけた日。 幸は長年暮らしたマンションを売り、誰にも告げず東京を離れた。 旅行から戻った家族を待っていたのは、もう開かないオートロックと、母が残した一通の手紙だった――。因果応報|絶縁|親子関係1.4萬字5 2 -
完結第7話
何もしない姑の居場所
68歳の絹江は、息子夫婦の家に5年間住み続けていた。 料理も掃除も洗濯もせず、昼はテレビを見ながらお菓子を食べ、嫁のリナが作り置きした食事を当然のように食べ尽くす毎日。リナは仕事と家事に追われ、限界を感じながらも、姑だからと黙って耐えていた。 そんなある日、仕事を辞めた娘・夏帆が家に戻ってくる。 何もしない姑と、社会に疲れて動けなくなった娘。家の中に増えた“何もしない人たち”に、リナの心はついに折れかける。 しかし深夜のリビングで、絹江と夏帆が交わしていた本音を聞いた時、リナは初めて知る。 姑は本当に怠けていただけなのか。 娘は本当に甘えていただけなのか。 壊れかけた家族が、不器用に変わろうとする物語。嫁姑|親子関係1.1萬字5 3