"父の残した翼" 第8話
「ゆみにはこれからもずっと優しい夫を演じ続けますよ。あの子は単純だから、僕が優しくすれば何でも信じ込む。僕があなたをいじめているなんてにもわないでしょう。あなたがもしこのことをゆみに話したら、どうなるか分かりますよね」
その言葉は静かだったが、鋭い刃物のように母のを突き刺したはずだ。 娘の幸せを質に取られたら、母は何も言えなくなる。 「ゆみの幸せを壊したくなければ、黙って僕の言うことを聞くんです。さあ、遺言はどこですか?そしてはどこに隠したんですか?」
母はきな声をげて泣き始めた。 泣き叫びながら何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と、くなった父に謝っている。 その痛ましい姿に、私はもう画面を見ていられなかった。
パソコンを閉じ、そのに膝から崩れ落ちた。 うめき声が止まらない。に突っ伏し、声を殺して泣き続けた。
なんという男を、私はこのに招き入れてしまったのだろう。 彼は悪魔だ。優しい夫の仮面をかぶった酷な悪魔だ。 ご祝儀を盗んだのもきっと何かの借返済か、自分の遊ぶにでも使ったに違いない。 彼が私にづいたのも、父が残した財産が目当てだったのだ。 母の介護も同居も、全てはそのための計画だった。
友のかおりも悪はない。彼女もまた、彼の完璧な演技に騙された被害者なのだ。
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どれくらいのそうしていただろうか。 涙が枯れる代わりに、私のにたくりの塊がまれていた。 もう迷いはない。この男を絶対に許さない。 母を苦しめ、父のいを踏みにじり、私のをもてあそんだこの男に、必ず報いを受けさせなければならない。
私はゆっくりとちがると涙を拭い、顔を洗った。 鏡に映った自分の顔はひどくやつれていたが、その瞳には今までにないいが宿っていた。 もう泣かない。もう迷わない。私は戦う。 母とき父、そして私自の尊厳のために。
まずは証拠を固めなければならない。 この映像だけでは分かもしれない。 彼が何を言っても言い逃れできないよう、もっと決定な証拠を集めるのだ。 そして父が残したという遺言とお。それを先に見つけさなければならない。母はきっとその所をっているはずだ。
しかし今の精神状態の母に、それを聞きすのは酷だろう。私は別の方法を探ることにした。 のにの物の顔が浮かんだ。 父がとても親しくしていた、会社の顧問も務めていた古くからの友。
いつも父が、何か困ったことがあったらあのを頼れ、絶対に力になってくれるからと癖のように言っていただ。
私はスマートフォンをに取り、アドレス帳のからその名を探しした。
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本法律事務所 弁護士 本。
夜だということは分かっていたけれど、もう刻の猶予もなかった。 私は震える指で発信ボタンを押した。数回のコールの、眠たそうだが落ち着いた男性の声が話の向こうから聞こえてきた。
「はい、本です」
「遅くに申し訳ありません。私、佐藤健の娘のゆみと申します。本先でいらっしゃいますか?」 私の声は自分でも驚くほど静だった。
話の向こうで本先が息を呑んだ。 「ああ、健さんの娘さんか。どうかなさったのかね、こんなに何か変なことでも?」
その優しい声を聞いた瞬、抑えていたが再び溢れしそうになった。 私は唇をく噛みしめ、涙をこらえて話した。
「先、お願いがあります。父のこと、そして私の夫のことでご相談したいことがあるんです。刻くお会いすることはできませんでしょうか?」
話の向こうの本先は、私の切り詰まった声の調子から、ただ事ではないと察してくれたようだった。 「わかった、落ち着きなさい、ゆみさん。の朝番、に私の事務所へ来られるかね。所は分かるかな?旦さんには絶対に気づかれてはいけないよ」
その静で力い言葉に、私は「はい、必ず伺います」と答えるのが精杯だった。
話を切った、私はノートパソコンから映像データを USB メモリに移し、パソコンの閲覧履歴を完全に消した。
そして何事もなかったかのように寝へ戻り、悪魔の隣で息を殺して朝を待った。
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