みかん小説
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"父の残した翼" 第9話

 

眠れるはずもなかった。夫の寝息が聞こえるたびに、背たい汗が流れた。

翌朝、私はいつも通り朝の準備をし、いつも通りの笑顔で直さんを見送った。

「今はお母さんを連れてし気分転換に公園でも散歩してこようとうの」

私がそう言うと、直さんは瞬だけ軽な顔をしたが、すぐに「ああ、それはいい考えだ。でもあまり無理はしないようにね」と優しく微笑んだ。 その笑顔が今はひどく悪辣なものに見えた。

彼を送りした、私は母の佐藤け子に話しかけた。 「お父さんの古いお友達に会いにきましょう。丈夫、私がそばにいるから」

母は何も聞かず、ただ黙って頷いた。 その目には、微かな希望のが宿っているように見えた。

介護タクシーを呼び、本先の事務所へと向かう。 通りに面したビルの階にある本法律事務所のドアをけると、品な配の女性が穏やかに迎えてくれた。 奥の応接に通されると、そこには髪を綺麗にえた穏やかな雰囲気の男性が座って待っていた。だった。

父の写真で何度も見ていたその顔は、記憶のよりもし皺が刻まれていたが、の鋭さはしも変わっていなかった。

「ゆみさん、よく来てくれたね。お母様も変だったでしょう」 本先子に座る母のに、そっと自分のねた。

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その温かい差しに、母の緊張した体の力がしだけ抜けたように見えた。

私は呼吸をすると USB メモリをテーブルのに置いた。 そしてこので起こった全ての来事を、ありのままに話した。 結婚の夫が毎晩母の部から汗だくでてくること、消えたご祝儀と彼の嘘、そして昨夜、この目で見た隠しカメラの映像の内容。

私の話がむにつれ、本先の穏やかだった表は見る見るうちに険しくなっていった。 そして私が USB メモリをノートパソコンに差し込み映像を再し始めると、その表は静かなりへと変わった。

映像のが母のをひねりげ、酷な言葉で脅迫する面。母が苦痛に顔を歪め、うめき声を漏らす面。

本先は眉の皺をくし、く唇を結んだまま、い入るように画面を見つめていた。 隣に座る母は、その景を再び見るのが辛いのだろう。俯いてきつく目を閉じ、カタカタと震えていた。 私はその震える背を黙ってさすることしかできなかった。

映像が終わると、部にはい沈黙が流れた。 やがて本先はゆっくりと顔をげ、静かだが鋼のような志を込めた声で言った。

「健が命がけで守ろうとした君たち親子に、なんという仕打ちを彼は……」

がると、斎の奥にあるきな庫をけ、から通の厳に封をされた分い封筒を取りしてきた。

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「ゆみさん、これは君のお父さん、健から預かっていたものだ」 テーブルのに置かれた封筒には、「女 佐藤ゆみ」「父 佐藤健」と、見慣れた父の力跡でかれていた。

「これは正式な遺言だ。君のお父さんはくなるに、私のいのもとでこれを作成した。そしてこのことは、君が本当に困った状況になるまで誰にもかすなと、私に固く止めしていたんだ」

遺言。映像ので母がにしていた言葉が、現実のものとして目のに現れた。 本先は続けた。

「健はね、自分の期を悟っていたのかもしれない。そして彼が配していたのが、ゆみ、君のことだった。あの子はが良すぎる。俺がいなくなったら、悪い奴に騙されてしまうんじゃないかと、いつも言っていたよ」

の言葉に胸が詰まった。 父はくなったまで、私のことを配してくれていたのだ。

「君たちが今んでいるあの、そして普通の貯とは別に、君にだけ相続させたい特別な遺産があるともいてある。 健経営してきたの利益の部を、君の名義である所にずっと蓄えていたんだ。それはのような卑劣な男に、簡単には奪うことのできない形でね」

本先はもうつ別の引きしから枚のさな鍵を取りした。

「これはとあるの貸庫の鍵だ。遺言にはその所とけ方が記されている。おそらく君のお父さんが言っていた特別な遺産は、そのにあるはずだ」

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