みかん小説
本棚

"皿洗いと呼ばれた名料理人" 第2話

やがてボナールがわざとらしく笑った。

「まだ担当が決まっていない者はいるか?」

彼は冴子の方へ目を向けた。

「ああ、冴子は皿洗いと掃除だ。言うまでもないな」

厨のあちこちから、くすくすと笑い声ががった。

冴子はさくをげた。

「分かりました」

それから数、準備は順調にんだ。メニューは固まり、材の発注も終わり、当の流れも細かく決められていた。

しかし、事会の3、突然事態が変わった。

ホテルの支配が慌てた様子で厨に入ってきた。

「ボナール、し話がある」

その表は刻だった。

2は厨の隅で声を落として話し始めたが、その部が冴子のに届いた。

「政府の交担当者から特別な望があった」

「何でしょうか」

「参加者の1、ハサン閣からメニューのリクエストがあったそうだ」

ボナールの眉がいた。

「今さらですか? もうメニューも担当者も決まっています」

支配は困り果てた顔で続けた。

「閣は、ぜひ本料理をわいたいとおっしゃっている。特に本格なを」

その瞬、ボナールの顔が変わった。

「? それは無理です」

彼は額にを当てた。

「々はフランス料理のコースを準備しているんです。いきなり方向転換などできません」

「分かっている。だがハサン閣は、今回の会談で最もな決定権を持つ物だ。

広告

望を無するわけにはいかない」

支配は厨を見回した。

「なんとか1品だけでも、を用できないだろうか」

その言葉を残し、支配は厨をった。

厨は静かな混乱に包まれた。

「だって? どうすればいいんだ」

若いシェフの1がを抱えた。

「寿司でも作るのか?」

「魚をですなんて危険だろう」

「ぷらはどうだ? 油で揚げるだけじゃないのか?」

「そんな簡単なものじゃない。には独特の技術がいる」

見は次々にたが、誰も本格なを作った経験はなかった。

マリーがそうに言った。

「本料理からレシピを取り寄せて、見よう見まねで作るしかないのかしら」

「それを国際な事会にすのか? 失敗したらどうする」

議論は平線をたどった。

翌になっても、問題は解決しなかった。

ボナールは苛ちを隠せず、作業台を指で叩いていた。

「このままでは事会が台無しになる。何か良い案はないのか」

そのだった。

洗いのそばで黙っていた冴子が、静かにをいた。

「もしよろしければ」

全員の線が彼女に向けられた。

冴子は歩にた。

「私がを作りましょうか」

厨に瞬の静寂が落ちた。

そして次の瞬、笑い声が起こった。

「冴子が料理を?」

「皿洗いのが何を言っているんだ」

「って言っても、ネットで調べた庭料理じゃだめなのよ」

広告

マリーも苦笑いを浮かべていた。

ボナールは冴子をたく見た。

「いくら本だからといって、君のような雑用係が作った料理をにせるわけがない。の程をわきまえろ」

冴子はそれ以何も言わなかった。

ただ静かにをげ、洗いへ戻った。

しかしその夜、彼女は1で厨に残った。

洗い物を終え、誰もいなくなった厨で、冴子は蔵庫の材を確認した。魚、米、卵、季節の野菜。フランス料理のために用された材のにも、へつなげられるものはあった。

彼女はさなノートをき、使える材料とを考えながら、静かに試作の構をまとめた。

その帰り、冴子はさなアパートへ戻ると、古いアルバムを取りした。

ページをめくるが、1枚の写真ので止まった。

それは10ほど、本でかれた国との事会の写真だった。写真の隅には、系の男性が写っている。

説きには、ハサン文化臣と記されていた。

「そうだったのですね」

冴子はさく息を吐いた。

そののハサン閣は、旅の疲れと慣れない事で体調を崩していた。欲を失い、顔も悪かった。

その、冴子に特別な依頼があった。

体に優しく、が温まる料理を作ってほしい。

彼女は魚の煮付け、やさしいの茶碗蒸し、を込めて炊いたいご飯を用した。

料理をにしたハサン閣は、初めて笑顔を見せた。

「この料理で元気がました。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: