"虎姑と賢い嫁" 第1話
戸の町のでも、瓦根の派な武敷が並ぶ角に、の音よりも鋭い鳴り声が塀を越えて聞こえてくる敷がございました。
その敷の奥を取り仕切っていたのは、お兼ばあさんという女主でございます。のように激しい気性と、鷹のように鋭い目を持つことでられ、所の者たちは、お兼ばあさんが度咳払いをすれば泣く子も黙り、通りすがりの烏さえ驚いてびると噂しておりました。
お兼ばあさんは、代々旗本を務める名の奥方として、の名誉を何よりんじていました。けれど、その基準はあまりにもく、使用はもちろん、族でさえ彼女のでは息を潜め、鼠のようにしくしていなければなりませんでした。
お兼ばあさんの名が戸にれ渡っていたのは、気性が激しいからだけではありません。なんと、これまで3の嫁を追いしたという、代未聞の経歴があったのでございます。
最初の嫁は、姑の目つきが恐ろしいと言って半で実へ帰りました。2番目の嫁は、1続く言にを病んでりました。3番目の嫁は、膳の席で箸の置き方を違えたというだけで追いされたと、まことしやかに囁かれておりました。
そのため、々はお兼ばあさんの息子が嫁をもらうという話を聞くたびに、「今度はどのれな娘が虎の穴へ入っていくのか」
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と、ため息交じりに配したものでございます。
そんなある晩のことでした。
庭に落ちた枯葉の音にもが驚くような静かな夜、お兼ばあさんの息子が祝言を挙げるという噂が、に乗って町に広まりました。
今度の嫁は、戸の商の娘ではありません。はるかく信濃の里で、学問のある浪の娘として育った、おという名の娘でした。
噂によれば、顔ちはふっくらと柔らかく、性格は素直で、まるで虫もたたぬほど角のない娘だそうでございます。
所の女将たちは、田舎から来た純な娘が、戸番恐ろしい姑との暮らしにどう耐えるのかと、今から掛けの紐を握りしめて案じておりました。
やがて祝言の、おを乗せた駕籠がお兼ばあさんの敷ののに到着しました。
敷の空気は、氷のを歩くようにたく張り詰めておりました。がき、駕籠からりたおは、きらびやかな絹の着物ではなく、清潔な綿の着物をにつけていました。顔には恐れのはなく、ほのかな笑みを浮かべています。
広の座に座るお兼ばあさんは、今にもを落としそうな目でしい嫁を見ろしておりました。けれど、おはその線を避けませんでした。静かに畳へをつき、くをげました。
「本より、このの嫁としてお仕えいたします。
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どうぞよろしくお願い申しげます」
お兼ばあさんはで笑い、着物の裾から先まで舐めるように見回しました。
「ふん。どこの田舎から転がり込んできたのやら。何もつか、見ものだね」
普通の嫁なら、この言で顔を青くして震えるところです。けれど、おはを受ける柳のように、ただ静かにをげておりました。
お兼ばあさんはのでいました。
これは見かけだけのしさか。それとも鈍いだけか。
そううと、元にたい笑みを浮かべました。
嫁の柱をへし折る準備は、すでに始まっていたのでございます。
翌朝、まだ鶏も鳴かぬ暗い刻限に、おは眠い目をこすることもなく起きしました。
はえ込み、障子の隙から入り込むが元を刺します。それでもおはすぐに支度をえ、台所へ向かいました。姑が起きるに、洗顔の湯、朝茶、朝餉の支度をえねばならなかったからです。
台所では、老いた婆やが配そうな顔でかまどにを起こしておりました。婆やはおを見るなり、そっとづき、両を取って声で言いました。
「若奥様、奥様のご気性は並抵ではございません。どうか答えなさらず、ただんだように、はいはいと従ってくださいませ」
おはその言葉を聞くと、にっこり笑いました。
「ご配ありがとうございます。けれど、何事もを込めれば、きっと伝わります」
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