75歳の高橋幸は、お盆の夜、廊下の向こうから聞こえてきた家族の会話に足を止めた。 「おばあちゃんが施設に行ったら、この家、私たちのものになるの?」 息子夫婦は、幸を介護施設へ入れ、そのマンションを売って自分たちのローンや教育費に充てる計画を立てていた。しかも、その話は一時の思いつきではなく、すでに何か月も前から進められていたものだった。 翌朝、息子と嫁は何事もなかったように優しい顔で接してくる。病院での認知症検査、施設リスト、マンション売却後の資金計画――幸は静かに証拠を集めながら、最後の決断を胸に秘める。 そして、息子一家が海外旅行へ出かけた日。 幸は長年暮らしたマンションを売り、誰にも告げず東京を離れた。 旅行から戻った家族を待っていたのは、もう開かないオートロックと、母が残した一通の手紙だった――。