"壁の中の合唱団" 第1話
1991の、神奈川県川崎は、まだの煙突からちのぼる煙とともに目を覚ます町でした。
埋にはが並び、夜遅くまで械の音が鳴り続けていました。全国各から仕事を求めてが集まり、から、州から、い奥のから、20歳をし過ぎたばかりの若者たちが、ボストンバッグ1つをにこの町へやって来ました。
昼はで汗を流し、夜は狭いアパートの部で故郷をう。そんな々にとって、民文化会館はもう1つの居所でした。
曜の夜になると、その会館のホールには唱団の声が響きました。帰りの若者、庭を持つ主婦、仕事を終えた会社員たちが集まり、同じ楽譜を見つめながら声をわせるのです。
その唱団のに、特に仲の良い3の女性がいました。
裕子、39歳。唱団では者で、会計を任されていました。几帳面な性格で、集袋のの数字が1円でもわなければ、夜を徹してでも計算をやり直すようなでした。夫と2の子どもを持つ、真面目な主婦でもありました。
田美、23歳。方から京し、子部品ので働いていました。さな部品を1見つめ続ける仕事で、目も肩も限界まで疲れる過酷な毎でした。それでも曜の練習だけは休みませんでした。唱団でっているだけは、の疲れが消えるからです。
広告
佐藤恵里、20歳。母親と2暮らしの若い娘でした。ソプラノを担当し、そのい声は澄みきって、どこまでも伸びていきました。恵里がい始めると、団員たちはわず目を閉じて聞き入るほどでした。
齢はれていましたが、3は本当の姉妹のようでした。裕子が2の妹分を世話し、美と恵里は女のように裕子を慕っていました。練習が終わると、3は並んで会館をて、くの台で温かいおでんをべてから別れるのが習慣でした。
裕子はいつも2の分までおを払いました。
「裕子さんだって余裕ないのに」
美が慮してを振ると、裕子はただ優しく笑いました。恵里はその横で、末っ子らしく無邪気に笑っていました。
3は折、互いの苦しい活も語りいました。美はの残業が終わると指がぱんぱんに腫れがると言いました。それでも、来の母親の還暦祝いに送るおを貯めるのが楽しみだと話しました。恵里は母親の薬代の配をよくにしました。
裕子はその話を聞くたび、2のをぎゅっと握りました。
「丈夫。しずつ、良くしていけばいいのよ」
そうして3は、川崎の町で作ったもう1つの族になっていました。
あのも、そんな平凡な曜でした。
199110の夜。の民音楽祭をに、唱団の練習はいつもよりし引いていました。
広告
ハーモニーがなかなかわず、何度も同じ節を繰り返しました。
「もう1回だけわせて終わりにしましょう」
裕子が団員たちを励ますと、ホールには再び澄んだ声が響きました。ではが事現の仮囲いを揺らし、バタバタと乾いた音をてていました。
夜9を過ぎ、ようやく練習が終わりました。の団員たちは次々に帰っていきました。最まで残ったのは、裕子、美、恵里の3でした。
ホールの気を消し、戸締まりをするのは、いつも者である裕子の役目でした。
会館の管理は、そのの3の最の姿を覚えていました。3がホールの気を消し、事現の仮囲いの横を通って、暗い正の方へ歩いていくのを見たのです。
管理が何気なく声をかけました。
「さん、もう遅いですから気をつけて」
裕子は振り返り、笑って答えました。
「管理さん、お先にどうぞ。私たちが鍵を閉めていきますから」
それが、きている3を見た最の瞬でした。
その夜を境に、裕子、美、恵里は、川崎の町から忽然と姿を消しました。
翌朝、最初に異変に気づいたのは、美が勤めるでした。
いつも始業よりく現に入り、黙々と作業の準備をしていた美が、そのだけ勤してこなかったのです。これまで1度も無断欠勤をしたことのない彼女でした。
班は首をかしげ、すぐにアパートへを向かわせました。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
214号室の沈黙
1999年、名古屋の古いホテルで夜勤をしていた客室係・高橋ゆり子が、勤務終了前に忽然と姿を消した。 私物は更衣室に残されたまま。清掃カートも廊下に置かれたまま。警察は周辺の公園や空き地、廃墟まで捜索したが、彼女の行方は分からなかった。 最後に映っていたのは、2階の廊下で同僚の設備係と短く言葉を交わす姿。 その後、ゆり子は214号室へ向かい、二度とカメラに映ることはなかった。 やがてホテルでは、ある部屋に泊まった客から奇妙な苦情が相次ぐ。シャワーを浴びた後、皮膚に異変が出るというのだ。 水道の異常を調べるうち、配管業者がたどり着いたのは、屋上にある古い貯水槽だった。 水槽の底に残されていた青い布、髪の毛、そして小さな痕跡。 誰も探そうとしなかった場所に、失踪した清掃婦の最後の真実が沈んでいた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 0 -
完結第7話
木の墓の少女
2021年秋、名古屋の高校生5人は、廃れた農村建築を記録する学校プロジェクトのため、岐阜県の山中にある古い廃農場を訪れた。 崩れかけた母屋、苔むした倉庫、森に飲み込まれた敷地。そこで彼らが見つけたのは、まるで人の形をしたように歪んだ一本の杉の木だった。 不気味なこぶの中央には、小さな裂け目があった。 ライトを当てた瞬間、木の奥に見えたのは、自然のものとは思えない白い影。警察の調査によって、その木の内部から、人間の骨格が発見される。 遺骨の身元は、20年前に「東京へ行った」とされ、行方不明になっていた22歳の女性・南沙織。 彼女は本当に自分の意思で農場を去ったのか。なぜ遺体は木の中に飲み込まれていたのか。そして、当時農場にいた父子は何を隠していたのか。 20年間、年輪の奥に閉じ込められていた少女の秘密が、一本の木によって静かに語られ始める――。ミステリー|行方不明1.0萬字5 0 -
完結第11話
新潟校十二年の悪闇
1992年、新潟県小学校女教師失踪事件|12年後、校長の醜悪な裏顔がついに暴かれた 1992年、新潟の田舎町小学校で、一人の30代女性教師が忽然と姿を消した。 通学路、自宅、学校施設、周辺の山林……警察が徹底的に捜索したものの、彼女の痕跡は一つも見つからなかった。 当時、失踪は「自発的な家出」「遠方への転居」と断定され、事件は迷宮入り。 誰もがこの謎を忘れかけた12年間。 誰も信じなかった真実が、ついに白日の下に晒される。 穏やかで人格者と慕われていた校長先生。 その裏に隠された、人間性を失った醜悪な素顔。 女教師が二度と帰らなかった本当の理由、閉ざされた学校の闇、隠蔽された12年の悪事―― 全ての真相が今、明かされる。因果応報|裡の顔|遺體発見|行方不明1.7萬字5 295 -
完結第6話
7時15分の黒い日記
昭和56年、浜松市で29歳の銀行員・吉田道子が忽然と姿を消した。 毎朝7時15分、同じ停留所から同じバスに乗り、銀行へ向かっていた道子。真面目で几帳面な彼女は、ある日から家の前に残る見慣れない吸い殻と、背後からの視線に怯えるようになる。 「誰かに見られている気がする」 そう夫に訴えても、気のせいだと片づけられた。 そして11月の夜、親睦会の帰りに乗ったはずのバスを最後に、道子は家までわずか300mの場所で消息を絶つ。 事件は未解決のまま7年が過ぎた。 昭和63年、1人のバス運転手の遺品から十数冊の日記が見つかる。そこに記されていたのは、道子を3年間見つめ続けた男の、あまりにも歪んだ記録だった――。ミステリー|行方不明9.4千字5 238 -
完結第6話
43番の帰還
9年前、京都の住宅街で小学2年生の少女・彩佳が忽然と姿を消した。 公園で遊んでいたはずの娘は、夕方になっても家に戻らなかった。警察も住民も必死に捜索したが、目撃者も手がかりもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていく。 そして9年後のある朝。 1人の少女が、古びた行方不明者のチラシを手に警察署へ現れる。彼女は受付で静かに告げた。 「私は……彩佳です」 戻ってきた少女の手には、「43」と刻まれた小さな真鍮のタグがあった。さらに彼女は、自分が名前ではなく番号で呼ばれていたこと、他にも“42”や“44”がいたことを語り始める。 単なる誘拐ではなかった。 家族の家に隠されていた地下室、壁に刻まれた迷路、死んだはずの男の名前、そして母が隠していた「クレア」という過去。 9年間消えていた少女は、なぜ今になって戻ってきたのか。 そして彼女が最後まで忘れなかった「消さないで」という声の正体とは――。因果応報|人生逆転|行方不明9.0千字5 1013 -
完結第10話
白いドレスの告白
昭和57年、東京のホテルで行われた一つの結婚式。 純白のドレスに身を包んだ花嫁・田中京子は、幸せの絶頂にいるはずだった。だが披露宴の途中、高校時代の同級生たちが口にしたある名前を聞いた瞬間、彼女の表情は凍りつく。 佐藤美智子。 8年前、昭和49年の伊豆旅行中に忽然と姿を消した、京子の親友だった。 「美智子ちゃん、ごめんなさい……」 化粧室で泣き崩れる花嫁の声を、偶然聞いてしまった同級生。その一言をきっかけに、未解決のまま眠っていた失踪事件が再び動き出す。 親友との再会、伊豆の夜、月明かりの展望台。 8年間、誰にも言えなかった嫉妬と罪が、花嫁の白いドレスの下から静かにこぼれ落ちていく――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 589