"木の墓の少女" 第1話
20211016、名古の私治に通う5は、消えゆく本の農遺産を記録する学プロジェクトのため、岐阜県のへ向かっていた。
目は、すでに廃墟となった古い農建築だった。
朝く、5は徒の1の親から借りたミニバンに乗り込み、名古を発した。暮れには戻る予定だった。彼らにとっては、しのののようなものだった。
そのの気温は15度ほどで、空気はひんやりとしていた。の斜面には、や赤に染まった楓の葉が広がっていた。観客ならわず写真に収めたくなるような、岐阜県のらしい景だった。
グループは男子3、女子2で構成されていた。全員が名古の私治の2だった。
最の松田健は18歳で、落ち着いた性格の徒だった。今回の調査では、彼が元の郷史から教えてもらったGPS座標を頼りに、仲を現まで案内する役目を引き受けていた。
目は、郡と美濃のにあるあいの古い農だった。かつてはの入りがあり、周辺のさな集落を支えていた所だったが、今では森にゆっくりとみ込まれつつある廃敷になっていた。
農は最寄りの舗装から約2kmれた所にあった。で直接入ることはできず、やがい茂ったのを歩くしかなかった。
広告
徒たちはの麓にミニバンを止めた。荷物を確認し、カメラやスマートフォン、メモ帳を持って、狭い森のを登り始めた。
元には湿った落ち葉がなり、そのには根や滑りやすいが隠れていた。1歩むたびに、靴底ので枯れ葉が乾いた音をてた。
「ったよりが悪いな」
誰かが息を吐きながら言った。
健はGPSの画面を見て、む方向を確認した。
「あとしだとう。座標はこの先になってる」
5とも体力はあった。途で何度かち止まり、をみながら、約40分かけてを登った。
やがて々がしけ、界の先に古い建物が見えてきた。
そこにた瞬、5のは自然と止まった。
かつて農があった敷は、ものしい空気に包まれていた。
い瓦根を持つ、伝統な本。その母は部分に崩れ落ちていた。梁は沈み、壁は傾き、窓はガラスを失って黒い空洞をさらしていた。
隣にはいくつかの付属建物が残っていた。具や収穫物を保管していたらしい倉庫、さな作業。どれも傷みが激しく、根や壁の部が崩れていた。
自然は、かつてが使っていた所を、静かに取り戻していた。
蔦が壁をい、苔が根を覆い、若い々が基礎の割れ目から伸びていた。
健はカメラを構え、く息を吸った。
「ここ、すごいな。
広告
ちゃんと記録しよう」
5は頷き、それぞれの役割に分かれた。
この点では、誰もまだらなかった。
この廃農の奥につ1本のが、20に消えた若い女性の秘密を、静かに抱え続けていたことを。
徒たちは約2かけて、建物をあらゆる角度から撮した。
母の正面、傾いた柱、彫刻が施された製の梁、の台、倉庫の隅で錆びている古い農具。どれも、消えつつある農の記録として価値があるものに見えた。
画担当の徒は、ゆっくりとカメラをかしながら、廃の内部と観を撮していた。健はノートに位置や建物の状態をき込んでいた。
女子徒の1、17歳の田由は植物にい興を持っていた。彼女は建物そのものよりも、敷を覆う植物に目を向けていた。
「野のブドウもある。も入り込んでるし、シダもいね」
由はそう言いながら、しゃがみ込んで植物を撮した。苔に覆われた、柱に巻きついた蔦、根のまで伸びた。それらは、いをかけての痕跡を隠していったように見えた。
正午を過ぎた頃だった。
写真の良いアングルを探して敷の周囲を歩いていた最の佐藤輝が、母から約30mれた所につ1本のに気づいた。
それは杉だった。
岐阜の林では珍しくもない、ごく普通に見られるだった。
けれど、そのだけはらかに形がおかしかった。
輝はを止め、首をかしげた。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
214号室の沈黙
1999年、名古屋の古いホテルで夜勤をしていた客室係・高橋ゆり子が、勤務終了前に忽然と姿を消した。 私物は更衣室に残されたまま。清掃カートも廊下に置かれたまま。警察は周辺の公園や空き地、廃墟まで捜索したが、彼女の行方は分からなかった。 最後に映っていたのは、2階の廊下で同僚の設備係と短く言葉を交わす姿。 その後、ゆり子は214号室へ向かい、二度とカメラに映ることはなかった。 やがてホテルでは、ある部屋に泊まった客から奇妙な苦情が相次ぐ。シャワーを浴びた後、皮膚に異変が出るというのだ。 水道の異常を調べるうち、配管業者がたどり着いたのは、屋上にある古い貯水槽だった。 水槽の底に残されていた青い布、髪の毛、そして小さな痕跡。 誰も探そうとしなかった場所に、失踪した清掃婦の最後の真実が沈んでいた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 1 -
完結第9話
壁の中の合唱団
1991年、川崎市の市民文化会館で、合唱団に所属する3人の女性が練習後に忽然と姿を消した。 通帳も財布も身分証も残されたまま。家族を置いて消える理由など、誰にも思い当たらなかった。だが、手がかりは見つからず、事件はやがて「自発的失踪」として片づけられていく。 それから20年後。 老朽化した文化会館の解体工事中、作業員が地下の図面にないコンクリート壁を発見する。そこだけ不自然に塞がれた壁。ハンマーで崩した先にあったのは、20年間誰にも見つからなかった暗闇だった。 なぜ3人は消えたのか。 誰がその壁を作ったのか。 そして、合唱団の歌声が響いていた会館の地下で、本当は何が眠っていたのか――。ミステリー|行方不明1.4萬字5 0 -
完結第11話
新潟校十二年の悪闇
1992年、新潟県小学校女教師失踪事件|12年後、校長の醜悪な裏顔がついに暴かれた 1992年、新潟の田舎町小学校で、一人の30代女性教師が忽然と姿を消した。 通学路、自宅、学校施設、周辺の山林……警察が徹底的に捜索したものの、彼女の痕跡は一つも見つからなかった。 当時、失踪は「自発的な家出」「遠方への転居」と断定され、事件は迷宮入り。 誰もがこの謎を忘れかけた12年間。 誰も信じなかった真実が、ついに白日の下に晒される。 穏やかで人格者と慕われていた校長先生。 その裏に隠された、人間性を失った醜悪な素顔。 女教師が二度と帰らなかった本当の理由、閉ざされた学校の闇、隠蔽された12年の悪事―― 全ての真相が今、明かされる。因果応報|裡の顔|遺體発見|行方不明1.7萬字5 305 -
完結第6話
7時15分の黒い日記
昭和56年、浜松市で29歳の銀行員・吉田道子が忽然と姿を消した。 毎朝7時15分、同じ停留所から同じバスに乗り、銀行へ向かっていた道子。真面目で几帳面な彼女は、ある日から家の前に残る見慣れない吸い殻と、背後からの視線に怯えるようになる。 「誰かに見られている気がする」 そう夫に訴えても、気のせいだと片づけられた。 そして11月の夜、親睦会の帰りに乗ったはずのバスを最後に、道子は家までわずか300mの場所で消息を絶つ。 事件は未解決のまま7年が過ぎた。 昭和63年、1人のバス運転手の遺品から十数冊の日記が見つかる。そこに記されていたのは、道子を3年間見つめ続けた男の、あまりにも歪んだ記録だった――。ミステリー|行方不明9.4千字5 239 -
完結第6話
43番の帰還
9年前、京都の住宅街で小学2年生の少女・彩佳が忽然と姿を消した。 公園で遊んでいたはずの娘は、夕方になっても家に戻らなかった。警察も住民も必死に捜索したが、目撃者も手がかりもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていく。 そして9年後のある朝。 1人の少女が、古びた行方不明者のチラシを手に警察署へ現れる。彼女は受付で静かに告げた。 「私は……彩佳です」 戻ってきた少女の手には、「43」と刻まれた小さな真鍮のタグがあった。さらに彼女は、自分が名前ではなく番号で呼ばれていたこと、他にも“42”や“44”がいたことを語り始める。 単なる誘拐ではなかった。 家族の家に隠されていた地下室、壁に刻まれた迷路、死んだはずの男の名前、そして母が隠していた「クレア」という過去。 9年間消えていた少女は、なぜ今になって戻ってきたのか。 そして彼女が最後まで忘れなかった「消さないで」という声の正体とは――。因果応報|人生逆転|行方不明9.0千字5 1076 -
完結第10話
白いドレスの告白
昭和57年、東京のホテルで行われた一つの結婚式。 純白のドレスに身を包んだ花嫁・田中京子は、幸せの絶頂にいるはずだった。だが披露宴の途中、高校時代の同級生たちが口にしたある名前を聞いた瞬間、彼女の表情は凍りつく。 佐藤美智子。 8年前、昭和49年の伊豆旅行中に忽然と姿を消した、京子の親友だった。 「美智子ちゃん、ごめんなさい……」 化粧室で泣き崩れる花嫁の声を、偶然聞いてしまった同級生。その一言をきっかけに、未解決のまま眠っていた失踪事件が再び動き出す。 親友との再会、伊豆の夜、月明かりの展望台。 8年間、誰にも言えなかった嫉妬と罪が、花嫁の白いドレスの下から静かにこぼれ落ちていく――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 603