"青いハンカチの花嫁" 第8話
「ふざけるな……ふざけるなよ」
突然、健が獣のような唸り声をげた。
親族たちが驚いて構える。
健の憎悪に満ちた線は、由美でも正社でもなく、まっすぐ俺へ向けられていた。
「おさえ……おさえ来なければ、俺はすべてに入れられたんだ」
健はネクタイを乱暴に引き緩めながら、俺の方へ歩み寄ってきた。
その目には狂気のようなものが宿っていた。
親友を裏切った罪悪など微もなく、ただ自分の欲望を邪魔されたことへの逆みだけがあった。
「おみたいな子のゴミが、俺のを邪魔するな」
健が拳を振りげた。
「やめて!」
由美が鳴をげ、俺をかばおうとにる。
しかし俺は、由美を優しくで制した。
「いいんだ、由美さん。がっていてくれ」
俺は健から目をそらさず、静かに彼を見据えた。
健の拳は、俺の顔の数センチで止まった。
勢の目がある。
こので本当に殴れば、確実に警察汰になる。その程度の計算は、彼のにも残っていたのだろう。
だが健は拳をろす代わりに、元に気な笑みを浮かべた。
「そうかよ。おは本当に目障りなやつだな」
そして彼のが、俺の子のへ素く伸びた。
その、俺はまだ気づいていなかった。
追い詰められた健が、どれほど卑劣なにようとしているのかを。
広告
健のが伸びたのは、子のブレーキレバーだった。
「邪魔者は消えろ!」
カチャリ、という無質な属音が鳴った。
両輪のブレーキがされた直、俺の背にい衝撃がった。健が俺の子を背から力任せに突きばしたのだ。
俺の体は子ごと、披宴会の緩やかなスロープへ向かって押しされた。
その先には、きなウェディングケーキが置かれた段差がある。
由美の鳴が会に響き渡った。
親族たちが息を呑み、斉にちがる。
に力が入らない俺は、子の姿勢をて直すことができなかった。このまま段差にぶつかれば、惨めに転げ落ちるだけだ。
健は勢ので、俺の無力さをさらし者にして、しでも自分のプライドを保とうとしたのだろう。
どこまでも卑で、れな男だった。
しかし俺の子が段差に激突する直、力いがグリップをしっかり掴み、ぴたりときを止めた。
「そこまでにしておきなさい、健君」
静かで、よく通る声だった。
俺を助けてくれたのは、由美の親族席に座っていた初老の男性だった。縁の鏡をかけ、仕ての良いスーツを着たそのは、ゆっくり俺を全な所へ引き戻してくれた。
「怪はありませんか、浩司さん」
由美がウェディングドレスの裾を気にすることもなく駆け寄り、俺の無事を確認して涙ぐんだ。
広告
俺はさく頷き、助けてくれた男性を見げた。
「ありがとうございます。あの……」
「私は正社の顧問弁護士を務めている渡辺と申します」
渡辺と名乗った男性は、静かに礼した。
「正社から、今回の結婚について辺調査の依頼を受けていました。健君、あなたのを調べていたのは、興信所だけではありません」
弁護士の登に、健は慌ててずさった。
慶子も元をハンカチで押さえ、刻みに震えている。
「弁護士だと? 何の話だ。俺は何も悪いことなんてしていない」
健の裏返った声に、渡辺弁護士はやかな目を向けた。
「健君、あなたが由美さんを騙して財産を狙っていたことは、すでにです。しかしあなたの裏切りは、それだけではありません」
渡辺弁護士は内ポケットから茶い封筒を取りした。
「実は数、浩司さんから私の元へ直接連絡がありました。由美さんを守るために、どうしても調べてほしいことがあると」
由美が驚いて俺を見つめた。
俺は黙って子の肘かけを握りしめた。
俺はただ無策でこの会に来たわけではなかった。
披宴の控で健の本性をるから、俺のにはさな違と疑が積みなっていた。
たまに見いに来る健のぶり。
急ににつけ始めた級計。
由美への態度のたさ。
だからこそ俺は、由美の父である正社の会社を調べ、その顧問弁護士である渡辺先に密かに接触を図っていたのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
団地に残された17通
毎朝5時、誰よりも早く団地へ来て、廊下も階段もごみ集積所も黙って掃除してきた61歳の藤本志津江。 13年間続けてきた仕事は、ある日突然、31世帯の署名によって終わりを告げられる。理由は「住民の生活をのぞいている」「勤務時間外に声をかけすぎる」というものだった。 志津江は反論しながらも、自分の善意が誰かにとっては重荷になっていたことを知る。 そして契約終了が決まった直後、清掃用具庫から見つかったのは、長年誰にも届かなかった17通の手紙だった。 その中には、15年前に団地で起きた火災と、当時責任を負わされた元管理人、そして亡くなった女性が残したはずの言葉が含まれていた。 志津江は本当に住民を見張っていたのか。 17通の手紙は、なぜ用具庫に残されていたのか。 そして、団地が長年隠してきた火災の真相とは――。因果応報|人生逆転|真実1.8万字5 465 -
完結第8話
孫の一言で、三億円の家を売りました
72歳の和子は、7歳の孫が配達員に「お金を払ってるんだから、ありがとうって言わなくてもいい」と言うのを聞き、言葉を失った。さらに48歳の息子・健一まで「間違ってない」と笑う。健一一家が12年間家賃0円で暮らしている一戸建ては、和子が1億4800万円で購入した和子名義の家。今では査定額が約3億円になっていた。ところが健一は、その家を当然のように「自分の家」と呼び、「どうせ将来俺が相続するんだから、名義を変えてもいいだろ」と言い始める。息子の言葉を聞いた夜、和子は1人で不動産会社に電話をかけた。12年間「家族だから」と与え続けてきた母親が、初めて大きな決断を下そうとしていた。因果応報|親不孝|親子関係|金銭問題1.2万字5 929 -
完結第9話
捨てられた妻の逆転人生
30年間家族を支え続けた妻・美智子に、夫は突然「もうお前は必要ない」と離婚届を突きつけた。 専業主婦として何も生み出していないと思われていた美智子は、何も言い返さず家を去る。 しかし翌朝、夫が残された古いファイルを開いた瞬間、30年間隠されていた衝撃の真実が明らかになる。 会社を支えていた取引先、危機を救った技術、築き上げた成功――そのすべての裏側には、誰にも知られず夫を支え続けた美智子の存在があった。 「家政婦」と呼ばれた妻が、本当は誰よりも会社と家族を守っていた理由とは。 そして、すべてを失った夫が初めて気づいた、取り返せない30年間の後悔とは――。因果応報|夫婦|熟年離婚1.4万字5 2735 -
完結第11話
22年目の母席
7歳の時から、美緒を育ててきた高瀬京子。 血のつながりはなくても、熱を出した夜にそばにいたのも、弁当を作ったのも、卒業式や成人式に付き添ったのも、すべて京子だった。美緒もまた、いつしか彼女を「お母さん」と呼ぶようになっていた。 しかし結婚式を前に、22年間ほとんど姿を見せなかった実母・麗子が現れる。 実の母親という分かりやすい肩書。結婚祝いの200万円。そして、相手方の家族が求める“普通の形”。 やがて美緒は、京子に告げる。 「今回は、麗子さんにお願いしたい」 さらに結婚式当日だけは、自分を「京子さん」として扱ってほしいと頼まれた京子。22年間積み重ねてきた日々は、たった一言で母親の席から外されてしまう。 本当の母親とは、産んだ人なのか。それとも、そばに居続けた人なのか。 娘の結婚式を前に、京子が初めて自分の傷と向き合う、静かな家族の物語。因果応報|親子関係1.7万字5 1934 -
完結第10話
墓前の偽息子
夫の命日、文子は一人息子の誠と並んで墓前に手を合わせていた。 その時、文子の携帯に「誠」から電話がかかってくる。 しかし、本物の誠は今、すぐ隣で父の墓に手を合わせていた。 電話口の男は、息子のふりをして言った。 「母さん、仏間の金庫の暗証番号を教えてくれないか」 相手は、文子の家に金庫があることも、最近暗証番号を変えたことも知っていた。さらに電話の向こうから聞こえてきたのは、誠の妻・和子の声だった。 これはただの詐欺なのか。 それとも、家族の中に裏切り者がいるのか。 亡き夫が残した言葉を胸に、文子は慌てず、静かに確かめることを選ぶ。 そして家へ戻った母子が見たのは、想像もしなかった妻の本性だった――。因果応報|親子関係1.5万字5 2702 -
完結第12話
赤身を笑った女の末路
15年前、木村実乃里は“親友”を名乗る女・高子に夫を奪われた。 妊娠したと泣きながら告げてきた高子。沈黙する夫。幼い娘を連れ、実乃里はすべてを失ったような思いで家を出た。 それから15年。 実乃里は娘・由美香を育てながら、小さな店から会社を立ち上げ、ようやく穏やかな日々を手に入れていた。 そんなある日、社会人になった由美香が、初任給で母を回転寿司へ連れていく。ささやかで幸せな食事の席で、実乃里は15年ぶりに高子と再会する。 「相変わらず貧乏臭いわね」 「うちの子は国家公務員なの」 昔と変わらず人を見下し、勝ち誇る高子。 しかし次の瞬間、由美香が静かに言った。 「ママ、あの人クビにしたら?」 高子が働いている“高級ショップ”の本当の経営者。 15年前に壊されたはずの母娘の人生。 そして、高子自身が知らなかった本当の立場。 回転寿司の小さなテーブルで、15年越しの因果が静かに動き出す。因果応報|人生逆転1.8万字5 2788 -
完結第12話
7階に戻るな
70歳の高橋恵子は、夫を亡くしてから6年、都心のマンションで静かに暮らしていた。 ある夕方、いつものように買い物帰りのエレベーターに乗った彼女は、隣人の老人・木村から一枚の紙切れを渡される。 「病気のふりをして、次の階で降りろ。絶対に7階へ戻るな」 意味も分からないまま指示に従った直後、エレベーターの中で木村は命を落とす。さらに残された紙には、「このマンションでは、誰も信じるな」と書かれていた。 なぜ木村は恵子を逃がしたのか。なぜ7階へ戻ってはいけなかったのか。 やがて事件は、6年前に事故死したはずの夫・優一郎の死、息子夫婦の秘密、そしてマンションから消された5分間へとつながっていく。 たった一枚の紙切れが、穏やかな老後に隠されていた真実を暴き出す――。因果応報|人生逆転1.8万字5 1581 -
完結第12話
捨てられた夏の肖像
次女・夏が生まれた日、夫は赤ん坊の顔を見るなり言い放った。 「この子は俺の子じゃない」 長女は夫にそっくりなのに、次女はまったく似ていない。たったそれだけの理由で、私は浮気を疑われ、DNA鑑定で親子関係が証明されても、夫と義母は夏を認めようとしなかった。 そして私は、生まれたばかりの次女だけを連れて家を追い出される。 残された長女には会えないまま、10年が過ぎた。 ところがある日、成長した夏とショッピングモールを歩いていた私は、夫と義母、そして長女と偶然再会する。 そこで彼らは、夏の姿を見て言葉を失った。 10年前、「他所の子」と罵られた次女には、彼らが知らない大きな秘密があった――。因果応報|人生逆転1.8万字5 1083 -
完結第12話
近道看板の逆襲
海の近い小さな村で、家族と農業を営む大平浩。 数年かけて育ててきたトウモロコシ畑が、ある日突然、何者かの車に踏み荒らされていた。畑の入口には、勝手に置かれた「国道への近道」の看板。何度撤去しても、立入禁止の表示を立てても、被害は止まらない。 やがて犯人は、入院中の村長の息子・光だと判明する。 「この村のものは俺のもの」 そう言い放つ光は、畑を道路のように使い続け、ついには浩の娘まで危険な目に遭わせる。警察に訴えても、相手が村長の息子というだけで話は曖昧に流されてしまう。 証拠がなければ、誰も動かない。 そう悟った浩は、畑に防犯カメラを設置し、光が自ら罠にはまる“ある看板”を立てることにした。 家族の畑を踏み荒らした男に待っていた、静かな因果応報とは――。因果応報|修羅場1.8万字5 1128 -
連載中第13話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫2.0万字5 5192