"桜袴の女組長" 第1話
「その物の袴で、娘さんの入学式に来るつもり? 恥ずかしいわよ」
たい声が、の空気を裂くように私のに突き刺さった。
私はわずを止めた。のには、満の桜が淡く揺れていた。しいランドセルを背負った子どもたちが、保護者にを引かれながら、し緊張した顔で舎へ向かっていく。学の入学式らしい、るく、れやかな朝だった。
そのはずだった。
私、島美咲は38歳。7歳の娘、結のを握りながら、そのにっていた。
声の主は、礼子だった。
元の産会社、建設の社夫で、この学の保護者会を牛っている、いわゆるボスママだった。いつも級ブランドのにを包み、周囲には取り巻きの母親たちを従えている。誰かが逆らえば、保護者会で孤させられる。学事でも役員決めでも、彼女の言がきな響を持っていた。
礼子は、私のから元までをゆっくりと眺め回した。
そして、で笑った。
「レンタルにしても、もうしまともなものがあったでしょう」
わざと周囲に聞こえるようなきな声だった。
くにいた取り巻きの母親たち3が、斉に元を押さえた。けれど、その目は楽しそうに細められている。
「シングルマザーって変なのね」
「子どもがかわいそう」
ひそひそと囁く声が、桜のざわめきに混じって届いた。
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私の隣で、結がそうに私のを握りしめた。さなが、わずかに震えている。真しい制の袖から見える細い指が、私ののひらに必にすがりついていた。
私は結をさせるように、しだけ握り返した。
「丈夫よ」
さく囁いたが、その声は自分でも驚くほど静かだった。
礼子は、そんな私たちの様子を見ると、ますます得げな顔をした。彼女は歩づき、私の袴の袖を掴んだ。指先でをつまみ、汚れたものでも確認するかのように顔をしかめる。
「これ、古臭いわね。昭?」
そう言いながら、礼子は乱暴に袖を引っ張った。
私は反射に肩を引いた。
「やめてください」
声を荒げることはしなかった。ただ、娘の入学式の朝に、これ以騒ぎをきくしたくなかった。結のれのを、こんな女のために台無しにしたくなかった。
しかし礼子は、聞くを持たなかった。
「うちの夫がこの学にどれだけ寄付してるとってるの?」
礼子の声が、さらにきくなる。
「500万円よ。あなたみたいな寄虫親子が通えるのも、私たちのおかげなのよ」
周囲の保護者たちが、斉にこちらを見た。
けれど、誰も止めようとはしなかった。
目を逸らす者。元を引き結ぶ者。子どもの肩を抱いて、そっと距を取る者。みんな、礼子の権力を恐れているのだ。
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礼子は私の肩にを置いた。
そのに、力が入る。
「貧乏は、隅っこでさくなってなさい」
そう言いながら、礼子は私の肩をく押した。
「この学はね、選ばれた庭の子どもが通う所なの。あなたたちみたいな底辺のが来る所じゃないのよ」
私はバランスを崩した。
結のをさないように、必に踏ん張る。
その瞬、背側で、びりっという嫌な音が響いた。
の空気ので、その音だけがやけに鋭く聞こえた。
袴の袖が、見るも無惨に引き裂かれていた。
淡い桜のが裂け、たいが肌に触れる。私は瞬、呼吸を忘れた。
礼子は級ブランドのバッグを軽く振り回しながら、笑いをげた。
「あら、ごめんなさい。が滑っちゃったわ」
まったく悪びれる様子はなかった。
取り巻きたちが、またくすくすと笑う。
私は破れた袖を握りしめた。指先が震えていた。けれど、その震えがりなのか、しみなのか、自分でも分からなかった。
元には、桜のびらが落ちていた。
いびらが、に押されて、破れた袴の裾に触れる。
この袴は、き母が私の成式のために仕ててくれた切なものだった。
母は私が20歳の、病気で界した。病にありながら、針針、を込めてこの袴を縫ってくれた。先の器用なだった。数はなかったが、針を運ぶ背には、いつも静かなさがあった。
「美咲、どんなを歩んでも、としての筋だけは通しなさい」
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