"桜袴の女組長" 第2話
それが母の最の言葉だった。
その母の形見を、こんな形で引き裂かれるなんて。
その瞬、私ので何かが静かに、たく凍りついた。
周囲の空気が、瞬だけくなる。
くの桜のに止まっていた鳥が、何かをじ取ったように斉にびった。ばたばたと羽ばたく音が、の静寂を破る。
礼子は、瞬だけ本能な恐怖でをすくめた。
けれど、すぐに気を取り直したように、私を見ろした。
「それにしても、シングルマザーって変よね」
礼子はまだ続ける。
「旦さん、交通事故でくなったんでしょ?」
私の臓が、どくんとねた。
結の父、健太のことを、そんなふうに軽々しくにされた。
「保険もしたことなかったんじゃない? だから、こんなボロ袴しか着られないのよね」
周囲からまた笑い声が聞こえた。
私は拳を握りしめた。
爪がのひらにい込む。痛みがあった。けれど、その痛みが、今の私をかろうじてこのに留めていた。
何も言わなかった。
ただ静かにっていた。
娘のを、優しく握り返す。
「結、丈夫よ」
私はさく囁いた。
結はそうに私を見げた。目には涙がにじんでいたが、声をして泣くことはしなかった。私に迷惑をかけないようにしているのだと分かった。
礼子は満そうに笑った。
「さあ、きましょう。こんなたちと関わっているがもったいないわ」
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そう言うと、取り巻きたちと緒に舎へ向かって歩きした。級ブランドのバッグが、彼女の腕でわざとらしく揺れている。
私はその背を、ただ見つめていた。
周囲の保護者たちも、次々に舎へ入っていく。誰も私に声をかけようとはしない。
まるで、私たち親子が透になったかのようだった。
私は破れた袴の袖をもう度見つめた。
淡い桜のが、無惨に裂けている。
母の顔が脳裏に浮かんだ。
私はく息を吸い込んだ。
そして、ゆっくりと吐きす。
を落ち着かせる。
結がさな声で尋ねた。
「お母さん、丈夫?」
私は笑顔を作った。
「丈夫よ、結。さあ、入学式にきましょう」
娘のを引いて、舎へ向かう。
けれど、私ののでは、たい何かが静かに燃え始めていた。
裏のにきる私だが、堅気の母が残したものまで踏みにじられる筋いはない。
そして、私の切な娘を傷つけた者を、このまま許すわけにはいかない。
私はポケットののスマートフォンに、そっとを伸ばした。
まだ話はしなかった。
入学式だけは、娘のために最まで見届ける。
そう決めて、私は体育館へ入った。
体育館のは、入とその保護者で賑わっていた。
真しい制の子どもたちが、さな子に並んで座っている。壇には旗が飾られ、壁には「入学おめでとうございます」
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という文字が貼られていた。先たちは慌ただしくき、保護者たちはが子の姿をスマートフォンで撮ろうとしている。
私と結は、方の隅の席に座った。
破れた袴の袖をできるだけ目たないように、腕で押さえる。だが、裂けたはどうしても隠しきれなかった。隣に座る結は、何度も私の袖を見ては、しそうに目を伏せた。
「お母さん、ごめんね」
さな声が聞こえた。
私はすぐに首を横に振った。
「結が謝ることじゃないわ」
私は娘の肩を優しく抱いた。
方を見ると、礼子たちは最列の央を陣取っていた。まるで、この学の主であるかのようだった。礼子は背筋を伸ばし、取り巻きたちと並んで座っている。価そうなスーツ、えられた髪、指先でる宝。
式がむ、礼子は何度もろを振り返った。
そして私を見つけるたびに、元を歪めて笑った。隣の取り巻きに何かを囁き、2で肩を震わせる。
きっと私のことを笑っているのだろう。
私は何も言わず、ただ静かに座っていた。
先の挨拶が始まる。
「入の皆さん、ご入学おめでとうございます」
穏やかな声が体育館に響く。
私はその声を聞きながら、結の横顔を見つめた。結は必にを向いていた。涙をこらえ、さな背をまっすぐ伸ばしている。
娘にとって、今はに度の入学式だった。
母親として、せめてこの瞬だけは守りたかった。
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