"8年目の松林" 第4話
話もなかった。
鈴は玄関の戸をけ、暗いの方を何度も見た。の夜がたく、くで犬の鳴く声が聞こえた。
「松本先……」
呟いても、返事はなかった。
翌朝、鈴はを抑えきれず、美子の部の戸をけた。
ベッドはえられていた。タンスもそのままだった。机のには本と記帳が置かれていた。普段持ち歩いていたさな鞄も部にあった。
ただ、学に持っていっていた鞄だけが見当たらなかった。
鈴はすぐに学へ話をかけた。
曜だったが、当番の教師がいた。
「松本先が、昨の放課から戻ってこないんです」
その言葉で、学はざわつき始めた。
曜の午、警察がした。美作警察署所属の刑事2が学に来た。
当、成の失踪届はそれほどに扱われないこともかった。若い女性が1、2連絡を取らないことはあり得る。刑事たちは最初、の能性がいと考えた。
田舎の活に馴染めず、都会へ戻ったのかもしれない。
そう判断しかけた。
しかし、宿を調べた刑事たちの考えはし変わった。
美子の荷物はほとんど残っていた。も、本も、記帳も、そのままだった。にしては自然だった。
刑事の1は机のの記帳に目を向けた。許を得て最のページをくと、そこには夜の文字が残っていた。
広告
辛いけれど耐えられる。子どもたちがいて幸せだ。も笑顔で学にく。
刑事はその文字をしばらく見つめた。
美子は自分から消えたのか。
それとも、消えざるを得なかったのか。
学関係者への聞き取りが始まった。
最初に事を聞かれたのは、佐藤教だった。
佐藤教は職員の応接子に座り、落ち着いた様子で刑事の質問に答えた。縁の鏡を押しげ、背筋を伸ばしていた。
「失踪当の午1頃、で松本先と話をしました」
「何の話を?」
刑事が帳をいた。
「学事の準備についてです。児童の役割分担や掲示物のことをし」
「は?」
「10分ほどです」
「松本先の様子は?」
「普段と変わりありませんでした」
佐藤教はそう答えた。
しかし、同僚教師たちの証言は違っていた。
「松本先はからてきた、顔が青かったです」
「何かあったように見えました」
「声をかけても首を振るだけで、何も言いませんでした」
刑事たちは佐藤教を再び呼んだ。
「本当に業務の話だけでしたか」
「もちろんです」
佐藤教は表を変えなかった。
「何もありませんでした。ただ学事の話をしただけです」
の々は、すぐに噂を始めた。
佐藤教が普段から松本美子にあまりにも親切だったこと。放課、2きりになることがかったこと。50歳を過ぎた男性教師が、若い女性教師にい関を示していたこと。
広告
「佐藤先が何か言ったんじゃないか」
「松本先が断ったから、問題になったんじゃないか」
「で何を話したんだろう」
根拠のない声が広がっていった。
だが証拠はなかった。
田教諭も調査を受けた。
田教諭は疲れた顔で刑事のに座った。美子との関係について聞かれると、線を落としながら答えた。
「最、あまり仲が良くなかったことは認めます」
「理由は?」
「松本先が子どもたちに気がて、私はし……疎されたようにじていました」
田教諭は言いにくそうに唇を噛んだ。
「でも、だからといって何かしたわけではありません」
田教諭は、失踪当の朝、美子が話を受ける姿を見たと証言した。通話、美子の表が固まっていたことも話した。
「誰と話していたかは分かりません」
刑事たちは学の話記録を調べようとした。しかし昭57当、通話記録は今ほど詳細に残っていなかった。誰がかけた話なのか、すぐに特定することはできなかった。
田教諭は、失踪当の午はずっと学にいたと話した。の教師たちもそれを確認しており、アリバイはあった。
それでもでは、田教諭を疑う声があった。
「嫉妬していたんだろう」
「若い先が目つのが面くなかったんじゃないか」
噂はからへ広がった。
保護者の田にも注目が集まった。
田は、失踪当の午4頃、学裏の松林で美子を見たと証言していた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 0 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 31 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 10 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 12 -
完結第11話
8年目の生マイク
8年前、宇都宮で1人の女性が明け方に姿を消した。 本田さゆり、54歳。夫は地元テレビ局で長年ニュースを担当してきた有名キャスター・本田正弘だった。彼はカメラの前で涙を浮かべ、「妻の帰りを待ち続けている」と語り、世間から“悲劇の夫”として同情を集めていた。 しかし、未解決事件を扱う生放送番組の休憩中、正弘の胸元についたピンマイクが切り忘れられていた。 誰もいない廊下で、彼が小さくつぶやいた一言。 「さゆり、お前があの時、口さえ閉じていれば……」 その音声を聞いてしまった若手ディレクターの通報により、8年間止まっていた事件が再び動き出す。 明け方の電話、隣家が聞いた重い音、失踪直前に消えた1000万円。そして、夫が隠し続けた古い土地。 完璧な悲劇を演じてきた男の仮面は、たった1つの切り忘れたマイクによって、静かに崩れ始める。ミステリー|行方不明1.7萬字5 37 -
完結第9話
317号室の隠し壁
1996年9月15日、熱海のホテル・スカーレットローズから、3人の客室乗務員が忽然と姿を消した。 チェックイン後、彼女たちは3階へ向かうエレベーターに乗った。防犯カメラには、笑い合う3人の姿が残っていた。だが、その直後、3階の廊下カメラだけが不自然に停止する。 翌朝、部屋のベッドは整えられたまま。スーツケースも制服も手つかずで、彼女たちが部屋に入った形跡すらなかった。 それから28年後。 解体予定のホテルで、作業員が317号室の壁を壊した時、存在しないはずの“隠し空間”が見つかる。そこに並べられていたのは、3足の靴、3つのバッグ、そして消えた客室乗務員たちの社員証だった。 なぜ所持品だけが壁の奥に封じられていたのか。 彼女たちは、あの夜どこへ消えたのか。 そして、28年間沈黙していたホテルの壁は、まだ語っていない何かを隠していた――。ミステリー|行方不明1.4萬字5 40 -
完結第11話
20年目のマネキン
2002年、モデルを夢見て新潟から東京へ出てきた22歳の加藤リナは、ある日、中堅モデル事務所「神聖モデルズ」からキャスティングの連絡を受ける。 小さな仕事を重ねながら、ようやく掴めそうになった大きなチャンス。リナは期待を胸に新宿の事務所へ向かうが、面接の途中で案内された小道具室に、言いようのない違和感を覚える。 午後5時、リナは友人に電話をかけた。 「変な部屋にいるの。薬品みたいな匂いがする」 それが、彼女からの最後の連絡となった。 警察の捜査でも、リナがビルを出た記録は見つからなかった。事務所のオーナーは「彼女は帰った」と証言し、事件は証拠のないまま時間だけが過ぎていく。 そして20年後。 古い事務所の移転作業中、清掃員が小道具室の奥に置かれた“1体のマネキン”に異変を見つける。 剥がれたラテックスの下から現れたものは、誰も想像していなかった真実だった。 夢を追って東京へ来た若い女性は、あの日、本当に事務所を出ていたのか。 そして20年間、部屋の隅で沈黙していた“マネキン”の正体とは――。ミステリー|真相|行方不明1.6萬字5 294 -
完結第12話
消された登山日誌
昭和53年秋、長野県の青峰山で、登山を愛する主婦・田中恵子が姿を消した。 一緒に山へ入ったのは、地元で厚い信頼を集めるベテラン登山ガイド・山本浩司。山本は「霧の中で見失った」と証言し、警察と救助隊は1週間にわたって山中を捜索したが、恵子の姿はどこにもなかった。 滑落事故。 そう結論づけられ、夫と娘は答えのない13年を生きることになる。 しかし平成元年、山本が登山ガイドを引退した時、後輩に託された1冊の日誌から、消されたはずの文字が浮かび上がる。 「午後3時 岩場にて 田中さん 拒絶 私は……」 信頼されたガイドは、あの日、本当は何を隠したのか。 そして青峰山の谷底に、13年間眠り続けていたものとは――。ミステリー|行方不明1.8萬字5 322 -
完結第10話
楽譜鞄の13年
1991年、東京芸術大学音楽学部から、1人の天才ピアニストが姿を消した。 松本さやか、22歳。ポーランドの国際コンクールを目前に控え、「10年に1人の逸材」と呼ばれていた彼女は、練習室を出た直後から足取りが途絶える。 部屋に残されていたのは、開かれたショパンの楽譜と、鉛筆で書かれた一言。 「もう弾けない」 家出なのか、事故なのか、それとも誰かが彼女を消したのか。通帳もパスポートも、大切にしていた指輪も残されたまま、事件は未解決となっていく。 それから13年後。 警察にかかってきた一本の電話をきっかけに、止まっていた時間が再び動き出す。大学裏の山で発見された古い楽譜鞄。そこに隠されていたのは、天才少女が最後に見た光景と、家族の中に沈められた真実だった――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 162