"50年目の沈黙の部屋" 第7話
治療もされていなかった。
彼はコンクリートの部に閉じ込められ、ぬまで放置された。
その、部ごと封印された。
それは事故ではなかった。
の命を守るはずの医師の命令によってわれた、たい犯罪だった。
元護師の証言を得た捜査官たちは、再び阪へ向かった。
今度は、田賢治に「覚えているか」と尋ねるためではなかった。
彼らは、すでに分かったことを伝えるために向かった。
老ホームの庭は、回と同じように静かだった。池の面には空が映り、鯉がゆっくり泳いでいた。田は同じように子に座っていた。
捜査官たちは彼のにった。
「田先。沈黙の部について、元職員から証言を得ました」
田は表を変えなかった。
捜査官は続けた。
「疲労による鎮静法。非公式な懲罰。事制限、拘束、隔。そして吉川さんが19737にその部へ入れられたこと」
田は黙っていた。
「あなたは職員に、彼を京の専病院へ転院させたと説した。しかし実際には、吉川さんは転院していなかった。部のでし、その入はレンガで塞がれました」
老の顔は、まだかなかった。
だが、捜査官が話し終えた、田の目の奥で何かが変わった。
ぼんやりしていた老の目ではなかった。
そこには、かつて院としてを支配していた男の、たいが瞬だけ宿った。
広告
田はゆっくり捜査官を見げた。
そして、認症の老とはえないほど瞭な声で、ひとこと言った。
「あなた方は、何も証できない」
その文で、空気が変わった。
それは自ではなかった。
しかし、何もらないの言葉ではなかった。
捜査官たちは、違ったを歩んでいないと確信した。
田はそれ以話さなかった。
すぐに弁護士を求め、再び老性の無関のような沈黙に戻った。
だが、壁はしずつ崩れ始めていた。
残る問題は、元護師の証言と状況証拠を、法に証できる確かな証拠へ変えることだった。
それは簡単ではなかった。
まず効の問題があった。
くの容疑はすでに期限を過ぎている能性がかった。
田は92歳であり、弁護士たちは健康の理由を盾に、捜査や裁判への参加が困難だと主張することが予された。
さらに、な証である元護師は、匿名を条件に話していた。彼女を公ので証言させることは難しかった。
世論も分かれた。
「どんなに昔でも、命を奪った責任は問われるべきだ」
そう言う々がいた。
方で、別の声もあった。
「50のことを、92歳の老に問うがあるのか」
「当の精神医療は今とは違う」
「過を掘り返しても、誰も救われない」
しかし、捜査官たちは引きがらなかった。
必なのは、田を犯罪隠蔽に直接結びつける具体な証拠だった。
広告
そこで彼らは、県に保管されている病院のの記録を、最初から調べ直すことにした。
医療記録だけではない。
管理文。
財務類。
修理の発注。
請求。
支払い伝票。
病院の運営に関わる、あらゆるを確認する必があった。
その作業は途方もないものだった。
保管庫には、黄ばんだ類が段ボール箱に詰められていた。埃をかぶったファイルを1冊ずつき、、担当者、額、事内容を確認していく。
1973の類は特に脆く、ページをめくるだけで端が崩れそうだった。
捜査員たちは何も、何週も、同じ作業を続けた。
そして約1か。
「管理費」とかれた埃まみれのフォルダので、若い捜査官が1枚の目たない文を見つけた。
それは元のさな建設会社に発された請求だった。
付は1973725。
吉川の観察記録の最の付、1973712からわずか13だった。
請求には、本館3階の緊急修理事への支払いが記されていた。
捜査官はを机に置き、作業内容の欄に目を凝らした。
そこには、はっきりとこうかれていた。
「ドア枠解体、部閉鎖、漆喰塗り」
部を塞ぐ事だった。
額はそれほどきくなかった。
しかし、なのはページのだった。
支払いを承認する署名。
きちんとした、自信に満ちた跡。
「院 田賢治」
その署名を見た瞬、捜査の空気が変わった。
それは直接証拠だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
10年目のハザード
1999年10月、夜明け前の阪和自動車道に、1台のタクシーがハザードランプを点けたまま残されていた。 運転席は無人。車内に争った跡はなく、鍵も残されたまま。所有者は、大阪・堺で個人タクシーを営む藤村達夫だった。 警察が自宅を訪ねると、妻・安子と娘・真奈美の姿も消えていた。台所には冷めた味噌汁、まな板には切りかけのネギ。家族3人は、夕食の途中で突然この世から切り取られたように姿を消していた。 達夫が最後に乗せた客は誰だったのか。 そして、なぜ一家は財布も通帳も残したまま消えたのか。 10年後、取り壊しが決まった団地の室外機の裏から、1本の古いカセットテープが見つかる。 そこに残されていたのは、達夫が命がけで吹き込んだ、震える声だった――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 7 -
完結第15話
土俵下の12年
昭和47年、東京・両国の相撲部屋から、期待の若手力士・林岳司が突然姿を消した。 能登の小さな漁村から上京し、家族の期待を背負って土俵に立っていた21歳の青年。部屋には荷物も手紙も残されたままで、まるで少し外へ出ただけのように、彼の生活だけがそこに残っていた。 両親は息子がどこかで生きていると信じ、12年間待ち続けた。 しかし昭和59年、故郷の古い土俵を解体した時、土の下から思いがけないものが見つかる。 東京で消えたはずの岳司は、なぜ故郷の土俵の下にいたのか。 稽古場で何が起き、誰が12年間も真実を隠し続けたのか。 若き力士の失踪は、故郷の土の中から静かに動き出す――。ミステリー|行方不明2.2萬字5 0 -
完結第13話
消えた娘の38分
2023年、幼稚園から帰る途中だった少女・美緒が、父親の車に乗ったまま姿を消した。 山道で事故が起き、父は記憶を失ったと証言。警察は周辺を捜索したが、美緒の姿も、当日持っていたバッグも見つからなかった。 それから1年後。 母・雪が、かつて家族で暮らしていた古いマンションを訪れた時、突然スマートフォンに通知が届く。 それは、美緒のバッグに入れていた位置追跡チップからの信号だった。 示された場所は、誰も想像していなかった寝室の床下。 そこから見つかったバッグ、消えていた上着、空になった金庫。そして、父親の車が事故前に立ち寄っていた“38分間”の空白。 事故だと思われていた少女の失踪は、家族の秘密と金の流れに隠された、まったく別の事件へと変わっていく。ミステリー|行方不明1.9萬字5 55 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 6 -
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 86 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 155