みかん小説
本棚

"10年目のハザード" 第10話

10隠され続けていた真実は、ようやくるみにた。

の葬儀は、かつて3が暮らしていた堺の町で執りわれた。

きな式ではなかったが、昔から々が集まり、静かにわせた。

の魚の主も、くなったげた。

に写る子の顔を見つめ、震える声で話しかけた。

「奥さん、あののサンマ、うまかったやろか」

主は掛けの端で目元を押さえた。

「あんた、『達夫さんも真奈美ちゃんも好きやから』って、うれしそうに言うてはったな。やっと帰ってきはったんやね」

しばらく唇を震わせた主はもうげた。

「お帰りなさい」

の元自治会や、隣んでいた主婦も参列した。

々は涙を流しながら、藤とのさなを語りった。団事を笑顔で伝っていた子、挨拶をすると恥ずかしそうにげた真奈美、夜遅く帰ってきても民に静かに会釈をしていた達夫。

10が過ぎても、町の々は3を完全に忘れてはいなかった。

古い団はすでに取り壊され、更になっていた。

葬儀が終わったある、宮本は1でその所を訪れた。かつて藤の棟がっていた辺りには平らなが広がり、しい建物の事を待っていた。

建物も窓も、ベランダも残っていない。

広告

それでも宮本の目には、3階のるい部が見えるような気がした。

台所で噌汁を作る子。

机に向かい、参考く真奈美。

夜遅く仕事から戻り、静かに玄関をける達夫。

豪華ではなかった。

つような暮らしでもなかった。

けれど、そこには族3が互いをい、次のを信じながら続けていた常があった。そのごく普通の幸せが、ある夜、理尽に奪われた。

宮本は、藤があった所へ向かって静かにいた。

「藤さん。あんたが命がけで残してくれたテープがなかったら、わしは真相にたどり着けへんかった」

が更を通り抜け、宮本の着をわずかに揺らした。

「あんたは最まで族を守ろうとしたんやな。それから、真実も守り抜いた」

事件の達夫は、どれほど恐ろしかっただろう。

仕事も誰かにつけられ、の周囲をらないに怯え、子と真奈美へ何も話せないまま、1で危険を抱えていた。

相談しなかったことが正しかったとは言えない。

しかし達夫が沈黙した理由は、族を守りたいといういだった。テープを残したことも、自分に何か起きたで、せめて真実だけは消さないためだった。

に乗って、づいた葉が1枚、宮本の元へ落ちた。

宮本はその葉を見つめた、ゆっくり空を仰いだ。

199910の夜と同じ、く澄んだ空が広がっていた。

広告

「やっと、に帰れたな」

その言葉が、へ静かに消えていった。

10肩で点滅を続けていたハザードランプ。

誰にも事を伝えられないまま、暗で規則正しくり続けていたさなかり。

あのは、助けを求める達夫の声のようでもあり、途で断ち切られた藤常が残した最の印のようでもあった。

10い迷いの果てに、藤はようやく帰るべき所へ戻った。

宮本はしばらく更っていた。

やがて礼し、ゆっくり背を向けた。の夕が、荷をようやくろした髪の背かく照らしていた。

事件は解決した。

しかし、藤の記憶が消えることはなかった。

めた噌汁。

切りかけのネギ。

内側から閉ざされた玄関。

に残されたタクシー。

そして、の裏に隠された1本のカセットテープ。

それらはしみと恐怖を象徴するものだった。

けれど真実がらかになった今、宮本の胸に残っているのはしみだけではなかった。達夫が最まで放さなかった族へのいと、10を越えて届いた声への静かな敬があった。

になった団跡へ、夕暮れのり注いでいた。

くから子どもたちの笑い声が聞こえた。しい族がしい常をき、今の次にが続いていくことをらせる、穏やかな声だった。

たいに置きりにされていたは、もう迷うことはない。

3を待ち続けた町もまた、々の営みを続けていく。

がもう度吹き、の空への葉をげた。

「お帰りなさい」

誰かの声が聞こえたような気がした。

その言葉は夕暮れの空へ溶け、藤が暮らしていた町を、いつまでも静かに包んでいた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: