"車椅子妻の断罪" 第1話
真のい差しが、肌を焼くようにり注いでいた。
蝉の声がの奥まで突き刺さるほど響き渡るいの。舗装されていない曲がりくねった坂に、1台の黒いSUVが乱暴にした。
タイヤが乾いた面を引っかき、い煙を巻きげる。煙が収まるに運転席のドアがき、50歳の田健がりてきた。
健は額に浮いた汗をの甲で拭うと、トランクから折り畳み式の子を取りした。続いて部座席のドアをけ、力の抜けた女性の体を抱きげる。
女性の名は、鈴加奈。健の妻だった。
加奈は座に複数の商業ビルを所し、自らちげた建築事務所の代表を務めていた。しかし3か、建築現で転落事故に遭い、半随と診断されていた。
首は力なく傾き、まぶたは半分閉じられている。い鎮痛剤と眠薬の響で、識がぼんやりしているように見えた。
健は加奈を子に座らせると、脇のへ押していった。
そこは坂の始まりだった。面にはきさの違う砂利が敷き詰められ、輪がしでも滑れば、そのまま斜面を転がり落ちかねない所だった。
健は加奈のにしゃがみ、優しい声で語りかけた。
「加奈。ここのの空気は気持ちいいだろう。差しもいから、でゆっくり休んでいなよ」
広告
誰が聞いても、病気の妻を気遣う献な夫の言葉に聞こえただろう。
しかしその、健のは子の輪へ伸びていた。
彼はブレーキを完全には固定せず、れないように見せかけて軽く引っかけただけだった。ほんのしが吹いたり、子が揺れたりすれば、簡単にれてしまう状態だった。
坂の傾斜と加奈の体が加われば、子はへ向かって転がり落ちる。
健はその仕掛けを確認すると、ゆっくりちがった。
力なくうなだれている妻を見ろし、元をわずかに緩める。振り返った顔からは、先ほどまでの優しさが消えていた。
残っていたのは、面倒な仕事を終えた者の無表だけだった。
健は度も振り返らず、SUVへ戻った。ドアが閉まり、エンジンがかかる。
タイヤが砂利を蹴り、はをっていった。
エンジン音は々のを反響しながらしずつざかり、やがて蝉の声のに完全に消えた。
の気配がない奥に、子に座った加奈だけが残された。
い差し。もない。携帯話の波さえ届きにくい所だった。
をかせない女性が、ブレーキのれかけた子に乗せられたまま置きりにされた。誰が見ても、その先に待っているのはだけだとっただろう。
だが、の音が完全に聞こえなくなった瞬、加奈の首がゆっくりと持ちがった。
広告
半分閉じられていた目が、はっきりとく。
その線は、健のが消えていったへ向けられていた。
加奈は膝に掛けられたブランケットのへを入れ、隠していたスマートフォンを取りした。画面をき、登録済みの番号を押す。
呼びし音が2回鳴ったところで、相が話にた。
「伊藤先。私です。鈴加奈です」
声はかすれていたが、迷いはなかった。
「夫が計画どおり、私をのに置きりにしました。玲奈との通話も、すべて録音できています」
話の向こうで、58歳の弁護士、伊藤浩がく息を吐いた。
「鈴さん、よく耐えました。これから計画を実します」
通話を終えると、加奈はスマートフォンをブランケットの奥へ戻した。
そして灼けるような空を見げた。
子はいを受け、かすかに揺れている。それでも加奈の目は、これまでになくく澄んでいた。
この瞬を迎えるまで、彼女は3かもの、夫ので何も分からない患者を演じ続けてきたのである。
事故が起きたのは、3かだった。
加奈は建設の商業ビルを察していた。2階へ続く仮設階段をっていた、元の板がずれ、体勢を崩した。
すりを掴もうとしたが、指先は空を切った。
加奈の体は階段から投げされ、そのままコンクリートのへ叩きつけられた。
救急で病院へ運ばれ、の検査を受けた。医師から告げられた診断は、脊髄損傷による半麻痺だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 60 -
完結第15話
9,000億円の離婚届
父を見送る火葬場で、ゆみは夫・浩司から離婚届を突きつけられた。 「お前の役目は、もう終わったんだよ」 父の遺骨すら拾っていないその場で、夫と義母は冷たく言い放つ。3年間の介護も、夜の清掃パートも、家を支えてきた28年の結婚生活も、彼らにとってはただの重荷でしかなかった。 しかも浩司には、すでに新しい女性がいた。 父の遺産を奪い、妻を捨て、愛人と新しい人生を始める――。浩司はそう信じて疑わなかった。 だが、亡き父はすべてを見抜いていた。 ゆみに託された黒いカード。古い木箱に隠された証拠。そして、東京駅前にそびえる“あるビル”の存在。 数日後、浩司は初めて知ることになる。 自分が捨てた妻こそ、9,000億円の資産を受け継ぐただ一人の相続人だったことを――。因果応報|人生逆転|夫婦2.3萬字5 24 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 819 -
完結第8話
愛人旅行の代償
定年の日、美和は36年間支えてきた夫・秀治のために、好物の夕食を用意して待っていた。 しかし帰宅した秀治が連れてきたのは、見知らぬ若い女性だった。 「退職金で香織と海外旅行へ行く。帰ってきたら離婚届に判を押せ」 夫はそう言い放ち、さらに美和に家を出て行くよう命じる。長年守ってきた家庭も、妻としての時間も、すべてなかったもののように扱われた美和。 だが、彼女は泣かなかった。 旅行へ向かう夫と愛人を静かに見送り、ただ一つだけ確認する。 「この家のことは、私が決めていいのね」 数日後、海外旅行から戻った秀治を待っていたのは、見慣れた玄関ではなく、ロープで囲まれた更地と「売却済み」の看板だった。 夫が知らなかった、この家の本当の持ち主。 そして美和が36年の結婚生活の最後に下した、静かな決断とは。夫婦|金銭問題1.2萬字5 6481 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 970 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 1317 -
完結第9話
止められた12枚
離婚届に判を押した瞬間、夫と姑は私を追い出し、新しい嫁を笑顔で迎え入れた。 私はただの“稼ぐ妻”だった。夫の遊び代、姑の美容代、義実家の贅沢――すべて私のカードで支払われていたのに、彼らは最後までそれを当然だと思っていた。 だから私は、何も言わずに12枚のカードを止めた。 数日後、元夫は新しい婚約者との豪華なパーティーで、300万円の支払いを求められる。だが差し出したカードは、すでに利用停止済み。 招待客の前で崩れていく見栄。逃げ出す新しい嫁。そして、義実家がようやく気づいた時には、すべてが遅すぎた。 彼らが迎え入れたのは、幸運の女神ではない。 欲望に姿を変えた、破滅そのものだった。因果応報|夫婦|金銭問題1.3萬字5 1056 -
完結第14話
追放嫁と姑の鍵
8年間、夫の連れ子を育て、病気の姑を支え、家族のためだけに生きてきた美咲。 しかし、夫・健二は突然、8年前に子どもを捨てて出ていった前妻リナを家に呼び戻す。実の母親が帰ってきたという理由で、美咲は離婚届に判を押し、何も持たず家を出ることになった。 ベランダの花も、子どもたちの絵も、彼女が守ってきた居場所も、すべてリナの手で消されていく。 そんな美咲に、姑の芳江がそっと差し出したのは、古びた1本の鍵だった。 「神戸の元町の裏通りに、空き店舗が1つある。行って、開けてご覧」 8年間、足を引きずり、弱々しく見えていた姑が、なぜその鍵を持っていたのか。 そして、家を追い出された美咲を待っていた“本当の居場所”とは――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 1620