"消えた背番号1" 第4話
川沿いの桜は、まだ蕾だった。
武志は1で学へ戻った。
午7を過ぎていたが、グラウンドには照がついていた。
マウンドでは藤原が投げていた。
「健、まだやっているのか」
藤原が振り返った。
「から、おが投げられなかったのためにな」
「すまない」
「謝るな。おは悪くない」
2のに沈黙が流れた。
藤原が真剣な顔で尋ねた。
「武志。、来るのか」
「分からない」
「来なければ、俺が投げる」
「ああ」
「それでもいい。でも、おがいた方がチームはい。それも事実だ」
武志は返事をしなかった。
午9、武志は部で征用の荷物をに座っていた。
ユニフォーム、グローブ、スパイク。
どれもに取ることができなかった。
そこへ藤原が入ってきた。
「武志、話がある」
藤原は武志のにった。
「俺の親父に頼む。治療費をしてもらう。だから、おは選抜へけ」
「できない」
「なぜだ」
「これは俺の問題だ。俺が決める」
藤原の顔がわずかに歪んだ。
「分かった」
そして、絞りすように言った。
「でも、おが来なければ、俺がエースになる。その覚悟はできている」
武志は藤原の目を見た。
その奥に、消し切れない炎が揺れていた。
藤原が部をた、武志は1で机に向かった。
もし自分が消えれば、藤原が投げる。
チームは戦える。
自分は野球を諦め、働けばいい。
やがて武志はノートのを1枚破り、い言葉をいた。
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「ごめんなさい」
宛名も、理由もかなかった。
午11、武志は学をた。
どこへくのか、自分でも分からなかった。
ただ、この所から消えたいとっていた。
「武志」
背から声がした。
振り返ると、暗いの向こうに藤原がっていた。
学の裏には、灯がなかった。
のだけが、向きう2の制をぼんやりと照らしていた。
「どこへくつもりだ」
藤原が尋ねた。
「分からない」
「逃げるのか。選抜から」
「逃げるんじゃない。諦めるんだ」
藤原の声が荒くなった。
「同じことだ。おは臆病だ」
武志の表が変わった。
「おに何が分かる」
「分かるさ。おには才能がある。それなのに捨てようとしている」
「才能があって何になる」
武志は吐き捨てるように言った。
「今、にならなければがない。母さんの薬代も、妹の学費も、弟の費も、全部俺が何とかしなきゃいけないんだ」
「だからって、野球を捨てるのか」
「おのとは違うんだ」
その言葉に、藤原の顔が張った。
「何も困ったことのないおに、俺の気持ちが分かるはずがない」
藤原ので、抑えてきたものが切れた。
「だったら、俺に譲れ」
「何をだ」
「おの才能を。おのを。背番号1を」
武志は言葉を失った。
藤原は震える声で続けた。
「俺はずっとおのろにいた。学でも、学でも、でも、いつも2番だった」
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「健……」
「、おが来なければ俺がエースだ。俺が投げる。プロのスカウトも、やっと俺を見る」
藤原は涙を流していた。
「だから、来るな」
「お、自分が何を言っているか分かっているのか」
「ああ。分かっている」
藤原は笑った。
「おが消えれば、俺が1番になれる。ずっとそうっていた」
武志は首を横に振った。
「おはおかしくなっている」
「おかしいさ。おのできてきた俺は、ずっとおかしかった」
「俺だって苦しいんだ」
「違う」
藤原は叫んだ。
「おには才能がある。その才能を持ちながら、捨てようとしている。それが許せないんだ」
藤原は武志の胸ぐらを掴んだ。
「本当にかないのか。本当に野球を捨てるのか」
「放せ」
武志がを振り払った。
藤原は再び掴みかかった。
武志がく押すと、藤原はをもつれさせ、面に倒れた。
「もうやめろ」
武志は背を向けた。
その、藤原のが面に落ちていたきなに触れた。
藤原はを握り締め、ゆっくりとちがった。
「武志」
武志が振り返った。
藤原のにあるものを見て、顔が変わった。
「健、やめろ」
「ごめん」
藤原は泣いていた。
「でも俺は、1番になりたい」
武志がずさった。
「やめろ!」
藤原はりした。
が振りげられた。
武志は腕をげたが、にわなかった。
鈍い音が、の夜に響いた。
武志の体が崩れ落ちた。
藤原は荒い息を吐きながら、そのにち尽くした。
からが落ちた。
「武志……」
返事はなかった。
藤原は膝をつき、武志の肩を揺すった。
「おい、起きろ。
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