"夕焼けの後継者" 第10話
満は若い技術者たちへ、健から教わった通り、指先で配線を確かめながら1つずつ説した。
「配線図だけを見るな。気がどこへきたがっているのか、流れをじるんだ」
父が何度も言っていた言葉だった。
差し押さえ寸だった修理も残された。
満はの借と滞納していた税を自分の報酬で支払い、週末になると以と変わらず町のたちの壊れたを修理した。
総郎が、もっと派なを用すると申したこともあった。
「必ありません。父が使っていたですから」
満がそう答えると、総郎はそれ以何も言わなかった。
ただ、老朽化して漏りしていた根だけが、誰にも気づかれないうちに修理されていた。満は誰が配したのか分かっていたが、あえて尋ねなかった。
拓也がってきた正も、捜査によってらかになった。
健への虚偽の告発、照事故の作、記録の偽造、会社資の横領。斎藤の証言と残されていた類によって、30隠されてきた事実が次々と表へた。
斎藤も罪を問われた。
脅されていたとはいえ、自分ので偽の証拠を作り、健を追い詰めた責任から逃げることはできなかった。それでも全てを証言したことで、事件の全貌がらかになった。
総郎は、健の墓を訪れた。
広告
初めて墓へった、夫と2で何もそのをれなかった。の、何度も息子の名を呼び、謝り続けたという。
満はしれた所から、その姿を見ていた。
許すかどうかを決めるのは、本来なら父だった。
父の代わりに全てを許したと言うことも、全てを憎み続けることも、満にはできなかった。
ただ、父が残したを引き継ぐことならできる。
毎の仕事を終えると、満は鎌倉の敷にある劇へち寄った。
扉をけると、決まって台へ夕焼けのが灯っている。満が照制御装置を修復し、毎18になると自に点灯するよう設定していた。
客席の最列には、総郎と夫が並んで座っていた。
2は満が入ってくる音を聞くと、振り返って笑った。
30ぶりに取り戻した笑顔だった。
満は2のへ腰をろした。
台からり注ぐ夕焼けのが、3の肩を温かく包む。
父が作った。
父が涯忘れなかった。
そして今は、満が守り、次の世代へ受け継いでいくだった。
「満」
総郎が台を見つめたまま呼んだ。
「何ですか」
「健は、このを何と呼んでいた」
満はし考え、父の声をいしながら答えた。
「帰る所のだと言っていました」
総郎の肩が僅かに揺れた。
夫は静かに涙を拭ったが、以のようにしみだけで泣いているのではなかった。
広告
「そう」
夫はへを伸ばした。
「ようやく、帰ってきてくれたのね」
父本が戻ることはない。
失われた30も、満が貧しさのできた26も、度と取り戻すことはできない。
それでも、残されたを共にきることはできる。
満は父の古いノートを膝のへ置いた。擦り切れた表へ夕焼けのが落ち、黒ずんだ垢の跡が柔らかく浮かびがる。
総郎がノートへ触れようとしたが、途でを止めた。
「触ってもいいですよ」
満が言うと、総郎はゆっくりとをねた。
そのへ夫のも置かれる。
3ののには、健が命を削って残した技術と、言葉にできなかったいが詰まっていた。
窓のでは、がりのが庭を揺らしていた。
濡れた葉が夕を受け、斉に輝き始める。さなびらが1枚、に乗って窓ガラスへ貼りつき、やがて静かに落ちていった。
まるでい所から、健が3の姿を見つめているようだった。
満は台のへ目を向けた。
父が最まで語れなかった秘密は、しみだけを残したのではない。その技術とが満を敷へ導き、れれだった族を再び結びつけた。
総郎夫妻の顔には、もうたいだけが残っているわけではなかった。
満もまた、自分には帰る所がないとい続けてきた。
しかし今、隣には祖父と祖母がいる。
完全に失われたものを取り戻すことはできなくても、しい記憶をねていくことはできる。
夕焼けのが、劇の隅々まで満ちていった。
温かく、るく、誰かの帰りを待ち続けるだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
結婚初夜、義母を助けた私を殴った夫の誤算
結婚初夜、夫の実家で義父が義母の首を絞める現場を目撃した公認会計士の直美。助けようとした彼女を、信じていた夫・翔太は平手打ちし、「見て見ぬふりを覚えろ」と命じた。直美は義母を病院へ運ぶが、夫一家は弁護士と金の力を使い、彼女の口を封じようと動き始める。そんな中、義母が密かに託していた記憶装置が見つかった。嫁姑|絶縁|親子関係|介護2.6万字5 44 -
完結第25話
母との同居後、妻が倒れた――医師が私だけ呼んだ理由
父を亡くした春樹は、一人暮らしの母・節子を心配し、妻の夏美と三人で暮らし始める。家事も母の通院もこなす妻を見て、同居はうまくいっていると思っていた。ところがある朝、夏美が突然倒れ、救急搬送される。医師に一人だけ呼ばれた春樹は、妻の体に起きていた異変を知らされる。変更された婦人科の予約、開かれなかった白い封筒、妻に任せきりだった家の用事。自分は家族を守っているつもりだったのに、何を見落としていたのか。人生逆転|嫁姑|夫婦|親子関係3.1万字5 90 -
完結第16話
75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密
十四年間、洋服直しの仕事を続けてきた石田牧は、自分の店を開くため、不足する75万円を借りに銀行を訪れた。ところが支店長から告げられたのは、自分に約65億円の信託財産があるという信じがたい事実だった。亡き母は大手物流会社の創業家の娘だったという。なぜ母は貧しい暮らしを選び、巨額の財産を隠し続けたのか。戸惑う牧の前に、初対面の叔父が現れ、21億円で株式を買い取ると申し出る。突然手にした財産の裏には、家族が長年隠してきた秘密と思惑があった。真実|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 462 -
完結第15話
50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿
昭和63年、教師になることを夢見ていた19歳の藤崎千春は、父が受け取った50万円の結納金と引き換えに、東北の山村へ嫁がされる。進学を諦め、過酷な農作業に追われる毎日。ところが、段ボールの底に隠していた受験参考書を義母に見つけられた日、千春の運命は思いがけない方向へ動き始める。夫と義父母の支えで夢を取り戻した千春は、6年後、教師となって実家へ帰る。しかし庭先で目にしたのは、かつて自分の進学を許さなかった父の、信じられない姿だった。第二の人生|親子関係|金銭問題2.4万字5 152 -
完結第20話
父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密
五年間、父の介護を一人で担ってきた三十三歳の美咲。ところが父の死後、二人の姉は遺産の独占を企て、美咲に実家から出ていくよう迫った。失意の中、美咲は交際相手の米農家・宮田大輔との結婚を決意する。しかし嫁ぎ先には七千二百万円もの借金があり、姉たちからも貧乏農家の嫁だと嘲笑される。それでも夫と田んぼを守ろうと決めた美咲に、大輔は「明日、俺の仕事場を見てほしい」と告げる。翌朝、連れていかれた巨大な倉庫で、美咲は思いもよらない光景を目にする――。夫婦|相続|絶縁|親子関係2.6万字5 196 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 630 -
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 1581 -
完結第12話
昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録
昭和46年、十五歳の正男は集団就職で東京へ向かった。しかし三日後、傷だらけで村に戻り、母に「家族を捨てるのか」と責められて家を追われる。それから26年。妹の美枝は、駅の記念展示を準備する中で、兄と一緒に旅立った少年三人の就職先が書き換えられた写真を発見する。約束された工場に入っていなかった少年たち、燃やされた契約書、口を閉ざす大人たち。なぜ兄は、次の就職列車を止めようとしたのか。長く「逃げ帰り」と呼ばれた帰郷の理由を、妹が追い始める。時代|歴史|昭和|絶縁|親子関係2.7万字5 223 -
完結第15話
義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句
義母や義妹の身勝手な要求に耐えてきた由美。ある日、亡き父の形見であるベンツの鍵を義母に取り上げられ、義妹の美穂に渡されてしまう。車の位置情報を調べると、向かった先はレストランではなく港の倉庫街。無断で売却しようとしていることを知った由美は、弁護士とともに証拠を集め始める。ところが夫まで関与していたうえ、生命保険の受取人を変更しようとした疑いも浮上。そんな中、ベンツが事故を起こしたという電話が入る。義母が電話口で放った信じられない一言をきっかけに、家族が隠していた本当の思惑が明らかになっていく。兄弟姉妹|嫁姑|修羅場2.1万字5 735 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 1929