"梅の下に眠る不動産王" 第11話
「私は、ご主があの、このへ帰ったのだとっています」
静の指が、湯呑みの縁へ触れた。
その指が、わずかに震えた。
8ぶりに、志垣はこのの震えを見た。
「はい」
静は細い声で言った。
「あのは、あの夜帰ってきました」
静がを庫へ入れ、から玄関へ回ると、宇井はコートも着ずにっていた。
3の夜である。
体は刻みに震えていた。
「どうしたんですかと聞きました」
宇井は墓で弟の名を呼べなかったと話した。
「50ぶりにあいつのへった。だが、俺にはあいつに詫びる資格もない」
静はへ入るよう声をかけた。
その、宇井が妻へを伸ばし、玄関のたたきへ倒れた。
「私は抱き起こしました。目はいていました。でも片方のががっていました」
「脳の血管が切れたのですね」
静は頷いた。
「救急を呼ぼうとしました。すぐにです」
話を取り、受話器を持った。
だが番号を回すに、宇井が最の力で静の袖をつかんだ。
「源郎としてにたくない」
言葉はうまく回らず、聞き取りづらかった。それでも静には分かった。
「清としてなせてくれ」
志垣は、その言葉を聞いたままけなかった。
「私は受話器を置きました」
静は目を閉じた。
宇井のを両で握り、初めて本当の名を呼んだ。
「清さん」
片方のががったまま、男は笑った。
静には、それが確かに笑顔だと分かった。
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そして、目を閉じた。
い沈黙の、志垣はかすれた声で尋ねた。
「ご遺体は」
静は障子の方へ顔を向けた。
閉ざされた向こうに、何があるのか2ともっていた。
「このの庭に埋めました。梅ののに」
「その夜のうちに?」
「はい。私1で」
穴を掘るのに3かかった。
にはいくつも豆ができ、潰れて血がた。それでも何も痛くなかったという。
「墓も名もありません。ただ梅があるだけです」
「なぜです」
志垣は声を絞りした。
「なぜ、そこまでしたのですか?」
「それが、あのの望みだとったからです」
静は落ち着いた声で答えた。
葬儀をせば、宇井源郎の葬儀になる。位牌にも、墓にも、弟の名が刻まれる。
んだまで、弟の名で眠ることになる。
警察へ届ければ戸籍を調べられ、いつか誰かが真実へ気づいたかもしれない。しかし、そのには本はもういない。
「50待ったのです」
静の声が震え始めた。
「自分の名で呼ばれるのを、50待ったのです。それがたった晩でも叶うのなら、私はその晩を、あのにあげたかった」
失踪ではなかった。
誘拐でもなかった。
殺でもなかった。
警察が8、みを持つの名簿を作り、追い続けた所には何もなかった。
あったのは、50の名できた男が、自分の名へ戻るために選んだ、たった1つの願いだった。
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「刑事さん」
静はまっすぐ志垣を見た。
「私は罪に問われるのでしょうね」
「体遺棄です」
志垣は答えた。
「3以の懲役です」
「はい」
静は頷き、両を畳についてくをげた。
「い、ご苦労をおかけしました」
志垣は、い髪のへ何も言えなかった。
やがて静は顔をげた。
「刑事さん。8、毎朝梅にをやりながら、清さんと呼んでおりました」
静の目から、初めて涙がこぼれた。
1粒だけだった。
頬を伝い、顎から膝のへ落ちた。
「誰にも聞こえない声で、毎朝、毎朝」
静は涙を拭かなかった。
「あのは、まれて初めて自分の名で呼ばれたのです」
志垣は、8の言葉をいした。
「あのは、帰ってこないかもしれません」
あれは嘘ではなかった。
1つも嘘ではなかった。
あのは帰ってこない。
もう庭にいるのだから。
200447、宇井静は自ら警察署へした。
の夕方、志垣が世田のをる、静は「の朝、参ります。今夜、のを片づけさせてください」と言った。
志垣は頷いた。
逃げるではないと分かっていた。
8、逃げなかったである。
翌朝、静がをた、のはきれいに片づけられていた。庭の梅には、いつもと同じようにがやられていた。
48、梅ののから骨が見つかった。
発掘には半くかかった。の根が、遺骨を包み込むように何本も伸びていた。
作業をしていた若い鑑識員が、途でを止めた。
「どうした?」
同僚に聞かれ、若い鑑識員はしばらく答えなかった。
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