"水槽裏の金歯" 第1話
20106、築では規模な代化事がめられていた。
古い舗は次々と取り壊され、複雑に絡みった配管も、しいものへ交換されていた。その事区域の央に、い使われていない鮮居酒があった。
が閉まってから、すでに3が過ぎていた。
あせた簾は取りされ、厨の壁には黒い油汚れがこびりついていた。かつて魚が泳いでいた型槽も空になり、ひび割れたガラスだけが暗い内に残されていた。
午3頃、作業班の伊藤は、槽の裏に埋め込まれた排管を取りそうとしていた。
図面と実際の配管はきく異なっていた。何度も増築と改修を繰り返したため、管は蛇のように入り組み、の腕さえ入らない狭い所まで続いていた。
「この部分、ずいぶんいな」
伊藤が切断した管を持ちげ、に振った。
内部から、カタカタというい音が聞こえた。
「何か詰まっているぞ」
同僚と緒に管を傾けると、黒いヘドロの塊がコンクリートのへ落ちた。そのから、さな属片が乾いた音をてて転がった。
暗い厨ので、それだけが鈍いを放っていた。
伊藤は膝をつき、顔をづけた。
「これ……歯じゃないか」
にまみれていたのは、の歯にかぶせられていた歯だった。
根元には歯の組織らしきものが残り、途から自然に折れていた。
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期、と汚のに沈んでいたことは目で分かった。
伊藤の脳裏に、事に訪ねてきた刑事の言葉がよみがえった。
――8、ここで女性が方になっています。何かてきたら、必ず連絡してください。
伊藤は歯に触れず、ポケットから携帯話を取りした。
1、渡辺健太刑事が現へ駆けつけた。
8、若刑事だった渡辺は、この居酒で起きた失踪事件を担当していた。解決できなかった事件は、昇した今も胸の奥にく残っていた。
に置かれた歯を見た瞬、渡辺の表が変わった。
方になった女性には、特徴な歯があった。
「誰もかさないでください。ここからは事件現として扱います」
渡辺のい声が、廃墟となった厨に響いた。
8止まっていたが、そのさな歯によって再びき始めた。
は、2002618にさかのぼる。
本がワールドカップの気に包まれていた夜だった。築の商たちも仕事をめに切りげ、鮮居酒に集まっていた。
内のテレビには、本代表とトルコ代表の試が映っていた。
青いシャツを着た商たちは、料理の皿を囲みながら声で選を応援していた。酒がむたびに笑い声がきくなり、厨まで歓声が届いていた。
宴会は、商たちが続けてきた積会を兼ねていた。
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毎決まった額をしい、順番にまとまったを受け取る仕組みだった。その、積を受け取ることになっていたのが、魚を営む鈴恵子だった。
恵子の膝のには、400万円の入った黒いバッグが置かれていた。
「恵子さん、今はいいね」
積会の代表である義子が、穏やかな笑顔で声をかけた。
60代半の義子は、築で30以商売を続けてきた女性だった。困っている商にを貸し、若い主の相談にも乗ることから、周囲には「姉御」と呼ばれていた。
恵子は笑った。
歯の歯が、蛍灯のを受けてきらりと輝いた。
「本当ね。試も盛りがっているし、おも無事に受け取れたし」
だが、その笑顔の奥には、どこか張り詰めたものがあった。
恵子は何度も周囲を確認し、バッグの持ちをく握り直していた。400万円というを持っているためだと、誰もがっていた。
試が終盤に差しかかった頃、内の線はテレビに集した。
その、恵子が静かに席をった。
「ちょっとトイレにってくるわ」
「バッグも持っていくの?」
隣に座っていた女性が尋ねた。
「だからね。置いていく方が怖いでしょう」
恵子はそう答え、黒いバッグを抱えて厨の方へ歩いていった。
この居酒のトイレは、ホールから直接くことができなかった。
厨の脇を通り、細くい廊を抜けた先にあった。
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