"特大おにぎりの恩返し" 第2話
と言っても、に浮かんでいたのは昼の弁当だけだった。
祖母はそんな俺のために、朝から特の梅干しおにぎりを4個握ってくれた。炊きたての米に塩を利かせ、真んには自製の梅干しを丸ごとつ入れる。今えば子供にはきすぎるサイズだったが、当の俺にはそれが普通だった。
「雅、お、登りしに来たんだよな?」
を歩く友の健太が振り返った。
「違う。頂で弁当うために来た」
「じゃあなくてもいいじゃん」
「があるから腹が減るんだよ。全部計算されてる」
「何がだよ」
そんなくだらない話をしながら頂へ着いた頃には、俺は誰より先に敷物を広げていた。周囲ではとりどりの弁当箱がき、唐揚げや卵焼きの匂いが漂っている。
俺も待ちきれずに蓋をけた。アルミホイルに包まれた特のおにぎりが4つ並んでいるのを見ただけで、疲れが半分ほど消えた気がした。
つ目へを伸ばしかけた、ふと横を見る。
亜美が弁当をしていなかった。
いつもなら誰より先にべ始める女の子が、敷物の端に座って膝を抱えている。先が気づき、配そうにしゃがみ込んだ。
「浅川さん、お弁当は?」
亜美は瞬だけ顔をげた。
「……忘れました」
「に?」
「うん」
先は困った顔をし、自分のサンドイッチを半分渡した。亜美は「ありがとうございます」
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と受け取ったものの、切れしかないサンドイッチをべ終えても、じっとの子の弁当を見ていた。
そのだった。
誰にも聞かせるつもりではなかったのだとう。
亜美がさく呟いた。
「お腹空いたな」
声を聞いた瞬、俺はなぜかおにぎりへ伸ばしかけていたを止めた。
普段なら絶対に譲らない。のプリンつで本気のじゃんけんをする相なのだから、むしろ「今は俺の勝ちだ」とんでいてもおかしくなかった。
ところが、目のの亜美はいつもの亜美とは違って見えた。お腹が空いたと言いながらも、誰かにねだろうとはせず、先にも「もう丈夫」と笑っている。その笑顔が妙にくて、俺は落ち着かなかった。
「雅、お4個あるじゃん」
健太が肘でつついてきた。
「個あげれば?」
「なんで俺が」
反射にそう答えたものの、自分でも声に力がないのが分かった。亜美がこちらを見ていないことを確かめてから、俺はアルミホイルに包まれた番きなおにぎりをつ持ってちがった。
「亜美」
「何?」
「これ」
目のへ差しす。
亜美が目を丸くした。
「でっか」
最初にた言葉がそれだったので、俺はし腹がった。
「いらないなら返せ」
「いる!」
慌てて両で受け取る。
「いいの?」
「4個あるから。俺、3個でりるし」
ろから健太が「絶対りないって言うぞ」
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と笑ったが、無した。
亜美はアルミホイルをき、苔のついたきなおにぎりへ豪にかぶりついた。頬いっぱいにご飯を詰めたまま、しばらくかなくなった。
「どうした?」
「酸っぱい」
「梅干しだからな」
「でも、おいしい」
亜美は笑った。
その笑顔を見た瞬。
当の俺はも分からず、までくなった。
「これ、誰が作ったの?」
「ばあちゃん」
「雅君のおばあちゃん?」
「うん。梅干しもばあちゃんが作ってる」
「いいなあ」
亜美はもうべ、それから何気なく言った。
「こんなおにぎり、毎べられたら幸せだね」
子供だった俺は、その言葉のさを理解できなかった。
「毎は飽きるぞ」
「私は飽きないよ」
「じゃあ、もう個う?」
自分でも驚く言葉がた。
「え?」
「まだ3個ある」
「でも雅君の分なくなるよ」
「平気だよ」
本当は平気ではなかった。結局、亜美にもう個渡したせいで俺の昼飯は特おにぎり2個になり、帰りには盛に腹が鳴った。
健太は笑い続けていた。
「雅、自分であげといて腹減ってんじゃん」
「うるせえ」
「亜美のこと好きなんだろ」
「違う!」
必で否定したが、を歩く亜美が振り返って笑った、また顔がくなった。
へ帰り、祖母に「亜美に2個やった」と話すと、静は声で笑った。
「雅がべ物を分けたのかい。はでもるんじゃないかね」
「腹減ってたんだよ」
「亜美ちゃんが?」
「うん。弁当忘れたって」
祖母はそこで瞬だけ笑うのをやめた。
「そうかい」
それ以は何も聞かなかった。
その夜は、俺の茶碗にいつもよりくご飯をよそってくれた。
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