"ガジュマルの根が暴いた夜" 第9話
慈善。
成功者。
名経営者。
くのに尊敬される老。
その仮面が、今1枚ずつ剥がれていた。
恵美は何も急がなかった。
ただ証拠を並べ続けた。
吉田は目のの資料をい見つめた。
やがて背もたれへ体を預けた。
顔から力が抜けていく。
「……15か」
さな声だった。
恵美は黙って待った。
「15も経ったのに」
吉田は目を閉じた。
「なぜ今さらてくる」
「彼らが消えなかったからです」
恵美は答えた。
吉田はゆっくり首を振った。
そして、ついに事件への関与を認めた。
健が会社の裏帳簿へ気づいたこと。
警察へ報を渡そうとしているとったこと。
龍と虎へ健を止めるよう命じたこと。
族まで巻き込まれた、全てを隠すよう指示したこと。
「私は直接をしていない」
吉田は何度もそう言った。
しかしそれで責任が消えることはなかった。
事件は解決したかに見えた。
ところが、そのすぐにたな問題が起きた。
吉田の健康状態が急激に悪化したのである。
く患っていた肺の病気が末期までしていることが分かった。
正式な裁判が始まる、吉田は入院した。
医師によれば、残されたはくない。
数週。
吉田本から、田恵美へ面会したいという連絡が入った。
病院の警備された個へ入ると、初めて会で会ったとは別のような老が横たわっていた。
広告
頬はこけ、肌はくすみ、呼吸も浅い。
「田刑事」
吉田は掠れた声で呼んだ。
「録音しても構いません」
恵美は録音を置いた。
「話したいことがあるんですね」
吉田は頷いた。
「健のについて、私の責任が消えないことは分かっています」
「それなら、なぜ今になって?」
吉田は苦く笑った。
「私はもうすぐぬからです」
しばらく呼吸をえた。
「ただ、あなた方はまだ勘違いしている」
「何をですか」
「私がを消したのは、単に会社の裏やリベートを隠すためだとっているでしょう」
恵美は答えなかった。
吉田の目に、それまでとは違う恐怖が浮かんだ。
「それだけなら……私は1を殺す必まではなかった」
病の空気が変わった。
「が見つけたものは、私の会社の犯罪だけではない」
「何を見つけたんです」
吉田は井を見た。
「私より、はるかにきいたちのです」
の事件は、まだ終わっていなかった。
吉田の告は、朝建設の裏側をさらにく掘りげるものだった。
会社には表向きの事業とは別に、にわたり正なを処理する仕組みがあった。
それは吉田個のためだけではなかった。
「私は窓の1つにすぎない」
吉田は苦しそうに呼吸しながら話した。
複数の企業。
響力を持つ物。
座。
表にせない資。
朝建設の事費や注費は、その部を法なに見せかけるため利用されていた。
広告
健は最初、会社内部の正を発見しただけだった。
しかし正直で、数字にすぎた。
の流れを追い続けた。
関連会社から別会社へ。
国内座から座へ。
そして最終に、吉田自でさえ直接名をにするのを恐れる物たちへつながった。
「君は、あまりにも真面目だった」
吉田は呟いた。
「途でやめればよかった」
「やめなかったから殺したんですか」
「私はへ報告した」
吉田は目を閉じた。
「どうすればいいか聞いた」
「返事は?」
「始末しろ。切残すな」
病に械音だけが響いた。
恵美は録音を見た。
「あなたは命令されたから従った?」
「そう言えば、しはましに聞こえるかもしれない」
吉田は自嘲するように笑った。
「だが違う。私はその世界に自分から入った」
若い頃。
事業をきくしたかった。
が必だった。
脈が欲しかった。
最初はさな正だった。
架空経費。
便宜供与。
裏。
それを繰り返すうちに、戻れなくなった。
代わりに富と位を得た。
聞に載る会社。
広い会。
政治との会。
慈善活。
社会からの尊敬。
「全部、そののに建てた」
吉田は言った。
「だが私はにかけている。あの連は見いにも来ない」
声に初めていみが混じった。
「もう次のを用しているんだろう。私は使い終わった具だ」
吉田が全てを話す理由は、正義だけではなかった。
自分1が罪を抱えてぬことへの恐怖。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 200 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 697 -
完結第15話
「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨
2024年、東京・品川の古い屋敷で、樹齢70年の柿の木が引き抜かれた。その根元から見つかったのは、大人一人と子ども三人の遺骨。20年前、この屋敷では住み込みの家政婦と三人の娘が姿を消し、家主である元校長は「金を盗んで夜逃げした」と説明していた。なぜ彼は、柿の木だけは絶対に切るなと家族に言い残していたのか。捜査を進める刑事・渡辺は、町の人々から尊敬されてきた元校長の過去と、20年間隠されてきた母娘の失踪の真相を追い始める。ミステリー|真実|真相1.7万字5 218 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 337 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 334 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 262 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 255 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1221 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 429