"白木蓮の偽証" 第8話
度きり。
沢子はを握ったままかなくなった。
公平が優のそばへった。
呼吸がない。
「救急を呼ぼうとしました」
「沢子さんは?」
「話を取らせなかった」
公平のから受話器を奪った。
そして。
こう言った。
「あなたがやったことにしなさい」
公平は拒否した。
正当防かもしれない。
事故かもしれない。
警察へ話せばいい。
そう言った。
すると沢子は。
公平を見て。
「おは、私がおを捨てたとってきただろう」
と言った。
公平は黙った。
「度でいいから、母親らしいことをさせて」
その言葉で。
公平は何も言えなくなった。
沢子は優のコートをした。
鞄を渡した。
携帯話を持たせた。
駅へけ。
京までけ。
捨ててこい。
そして最に。
「あののは、私がやるから」
と言った。
公平が母と交わした最の会話だった。
「その、本当に度も会っていません」
公平は言った。
「連絡もしなかった。俺が戻れば、母が作った嘘が壊れるとった」
事件から3。
度だけをいた。
だがさなかった。
〈お母さん、俺は元気です〉
〈あのを切らないでください〉
それだけだった。
「なぜ切らないでほしかったんです」
黒瀬が聞いた。
公平は静かに答えた。
「切ったら、母が忘れようとしてることになるから」
守った。
確かに。
沢子は公平を守った。
だが公平もまた。
17。
母を守った。
問題は。
広告
優だった。
そのの夕方、沢田が17の保管資料のから冊の帳を見つけた。優が2003に使っていたい革表の帳で、当の捜査員も確認している。
だが。
誰もだとわなかったページがあった。
1111。
失踪3。
黒瀬がく。
そこには5。
〈母に借の件を打ちける〉
〈弟のことも、本当はっている〉
〈10からっていた〉
〈言わなかったのは、母が言わないからだ〉
そして最。
〈全部、俺が引き受ける〉
黒瀬はったまま、いそのページを見ていた。
弟。
優は公平のをっていた。
しかも10から。
母が密かに会っていたことも。
を渡していたことも。
おそらくっていた。
そして。
失踪4。
優はから150万円を引きしている。
「公平さんの借を返すため」
沢田が言った。
黒瀬は頷いた。
優が実へ戻った理由も分かった。
母が公平の借を肩代わりし続けていることをり。
自分が残りを払う。
そのために帰った。
ではなぜ。
当、公平を「何の関係もない」と呼んだのか。
黒瀬は目を閉じた。
そして。
17誰にも見えなかった。
の嘘の形を理解した。
1111。
優は沢子へ、自分がすべてっていることを話した。
の夫とのに息子がいること。
その息子と密かに会っていること。
を貸していること。
公平がきな借を抱えていること。
広告
沢子は驚いた。
だが優は責めなかった。
「もう母さんが払わなくていい」
そう言った能性がい。
帳には、
〈全部、俺が引き受ける〉
とある。
優は150万円を現で用した。
分も、自分が弁護士として働けばなんとかできると考えていただろう。
沢子が優へ公平のを隠していた理由。
公平へ優のを識させたくなかった理由。
どちらも同じだった。
「妻の自分が、の庭の息子を優先しているとわれたくない」
「実の息子が、先妻の子に世話になっているとわせたくない」
の息子のに。
自分が原因の負い目を作りたくなかった。
14。
そこへ偶然、公平が来た。
沢子が青ざめた理由。
優へがられるからではない。
もうられていた。
彼女が恐れたのは。
が直接会うことだった。
優は公平の性格を、母から聞いていたはずだ。
借。
失職。
婚。
そして。
い劣等。
そこへ「血のつながらない兄が借を払ってやる」と言えば。
公平は絶対に受け取らない。
だから。
優は悪役を演じた。
「何の関係もないが、このに来て母からを取るな」
それは本ではない。
公平を追い返すための言葉。
で沢子から。
「自分が用しただ」と言って渡せばいい。
そうすれば公平の自尊を傷つけずに済む。
母が継子へをげたこともられない。
沢子を守る。
公平を守る。
そのためのたい言葉。
公平はらなかった。
だからった。
「俺が息子だ。あんたこそだ」
優も。
公平がそこまで傷ついていることをらなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 148 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 129 -
完結第16話
廃線駅に殘された最後の切符
昭和43年、廃線となった白沢駅で、老駅長・源吉は毎年3月12日になると、昭和25年の日付が入った東京行きの切符を机に置いていた。若い駅員の修一が調べると、その日は14歳の少年・健一が故郷を離れた日だった。 健一は別の少年を助けるために名前を貸し、故郷では東京へ就職したことになっていた。しかし本人は別の土地で働き、母へ送った手紙も届かないまま、帰る場所を失っていた。源吉は、東京へ行きたくない健一を時代の流れに任せて送り出したことを、長年悔やんでいた。 源吉の死後、白沢駅へ戻った健一に、修一は最後の切符を渡す。それは旅立ちを促すためではなく、「いつでも帰ってきてよい」と伝えるために残された一枚だった。健一は草に覆われた廃線跡を歩き、置き去りにした故郷との時間に向き合う。歴史|昭和|ミステリー2.4万字5 112 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 184 -
完結第12話
昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員
「一人で静かに帰りたいので、大丈夫です」 昭和51年、25歳のみち子は飲み会のあと、一人でタクシーへ乗った。 運転手は、彼女を自宅からわずか50メートルの場所で降ろした。 「夜遅くにありがとうございました」 それが、みち子を見た最後の証言だった。 布団は朝まで誰にも使われず、通帳も着替えも部屋に残っていた。 上司と同僚には不自然な空白時間があったが、何も見つからなかった。 そして9年後。 亡くなった上司の娘が、遺品のアルバムを開いた。 失踪当夜の宴会写真の次に、見知らぬ和室を写した一枚が貼られていた。 机の上には、黒い女性用のハンドバッグ。 写真の裏には、みち子が消えた数日後の日付が押されていた。昭和|ミステリー|真相1.7万字5 6965 -
完結第19話
廃線の駅で待ち続けた父
昭和37年、源吉は毎週金曜日、15年前に列車が来なくなった青谷駅のベンチで誰かを待っていた。駅員の中村が古い記録を調べると、源吉の息子・修一は終戦後の列車事故で消息を絶っていた。 しかし修一は、事故の直前に戦災孤児の健一を助けるため列車を降りていた。源吉が本当に待っていたのは息子ではなく、「修一さんに助けられた。いつか会いに行く」と手紙を送った健一だった。 中村は30歳になった健一を探し出す。修一の家族を苦しめることを恐れ、15年間会いに行けなかった健一は、最後の金曜日に青谷駅を訪れる。源吉はその顔へ震える手を伸ばし、「修一に似ている」と静かに告げた。歴史|昭和|ミステリー2.9万字5 172 -
完結第12話
消えた姉と18年後の手紙
昭和39年、19歳の佐和子は東京の洋裁店へ働きに出るため、柳行李を上野駅へ送った。しかし本人は店に現れず、上野に届いた荷物からは財布、印鑑、戸籍関係の書類だけが消えていた。家族は、佐和子の帰りを待ち続ける。 18年後、弟の浩二は父の遺品から、姉が乗るはずだった夜行列車とは別方向の列車に印を付けた時刻表と、失踪から2か月後に届いた姉の手紙を見つける。父は、佐和子が生きていることも、自ら家を離れたことも知りながら、家族へ隠していた。 横浜で姉を見つけた浩二は、佐和子が家族のために決められた人生から逃れ、自分の道を選んだと知る。やがて佐和子は弟と列車に乗り、母の墓がある故郷へ向かう。今度は誰かに決められた旅ではなく、自分の意思で選んだ帰郷だった。時代|歴史|昭和|ミステリー1.7万字5 170 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 478 -
完結第18話
消えた交換手と鳴らなかった電話
昭和49年の雪の夜、電話交換手の澄子が姿を消した。十三歳の娘・和枝は、母が家族を捨てたという噂を聞きながら育つ。十九年後、取り壊された交換局から届いた勤務簿には、失踪の夜、澄子が自宅へかけようとして《接続不能》になった通話が記されていた。 和枝が調べ始めると、家の電話線が刃物で切られていたこと、澄子が高齢者宅への灯油配達をめぐる不正を追っていたことが分かる。母は家族を守ろうと町を離れたが、その後も帰れなかった理由には、父の沈黙と、澄子自身のためらいが重なっていた。 ようやく母と再会した和枝は、生きていてくれた喜びと、置き去りにされた寂しさの両方を抱える。十九年を一度の会話で埋めることはできない。それでも二人は、次に話す日を自分たちで決める。雪の日につながらなかった電話が、今度は確かに母へ届く。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 1369