みかん小説
本棚

"床下の学級日誌" 第3話

「同じところに指の形みたいな痣があったんです」

「先」

母親は声をくした。

「うちのことですから」

その言葉で会話は終わった。

理子はで抱え込まないよう、駐所のにも相談することにした。しかし1995当、児童虐待という言葉は今ほど常に共されておらず、庭内の問題へ部が踏み込むことに抵抗をじるもかった。

「痣だけじゃ、何とも言えんね」

は困った顔をした。

「先が配するとるとは分かる。ばってん、あのに警察がいきなりったら、かえってあの子が困ることになるかもしれん」

「でも、本当にで何かされていたら?」

「もうし様子を見よう」

理子は納得できなかった。

「様子を見ているに、何かあったらどうするんですか?」

は答えられなかった。

島ではすべてがすぎた。

警察官が軒のへ入れば、にはほかのまで話が伝わる。浩が美を傷つけているという疑いが公になれば、美もその母親も島ので好奇の目にさらされるかもしれない。がためらったのは、無関だったからではない。

それでも。

そのためらいを。

はに10悔やむことになる。

理子は独自に記録を取り始めた。

学級誌とは別に、美の痣を見つけた、本が話した言葉、庭訪問での母親の反応をノートへ残した。

広告

写真を撮ることまではしなかったが、痣の位置を簡単な絵にして記録した。

6旬。

美が続けて学を休んだ。

目。

登してきた美の頬には、髪で隠したさな腫れがあった。

「また転んだの?」

理子が尋ねた。

美は俯いた。

そのの放課。

とうとう美は泣いた。

「昨、お父さんがお母さんを叩いた」

理子は黙って隣に座った。

「美ちゃんは?」

「止めたらられた」

「叩かれたの?」

美は頷いた。

「先」

「うん」

「誰にも言わんで」

「どうして?」

「お父さん、るから」

その言で。

理子は決めた。

島のだけで解決しようとしてはいけない。

本の児童相談所へ直接く。

正式な記録を残し、専に相談する。

美を守るためには、誰かの顔をうかがっているではない。

その夜。

理子は学級誌の最にく記した。

《美ちゃんのことで決した。このまま見過ごすことはできない。、さんにもう度話したあと、本へ渡る》

そして、その次のに。

《子どもは、自分で逃げる所を選べない。だからが逃げを作らなければならない》

それが。

藤野理子が分でいた。

最の文章になった。

1995621、曜。

昼までっていたは夕方になって止み、のの切れから赤みを帯びたがへ差し込んでいた。子どもたちは授業が終わると、湿った庭を避けるようにずつ帰っていった。

広告

「またるかもしれんけん、寄りしすぎんようにね」

理子は教の入で声をかけた。

「先が番寄りするやん」

健太が笑う。

「先はだからいいの」

「ずるい」

そんなやり取りをした。

誰も。

それが理子と交わす最の普通の会話になるとはわなかった。

美だけはし遅くまで残った。

理子は美に、翌学へ来られなくても配しなくていいことを伝えた。

「先、ちょっと本へくから」

「何しに?」

「事な話をしに」

「私のこと?」

理子は瞬迷った。

そして嘘をつかなかった。

「そう。でも美ちゃんが悪い話じゃないよ」

美の顔が曇った。

「お父さんに言わん?」

「美ちゃんを困らせる言い方はしない」

理子はさなを握った。

「先がのとちゃんと話すから」

美はそうだった。

それでも最には頷いた。

午5半。

理子は駐所へ向かった。

はだった。

「さん、私、本へきます」

「今?」

「はい。児童相談所にはの朝番できます。今はりいのところに泊まります」

「そこまで急がんでも」

「急ぎます」

いつもの柔らかな理子とは違った。

顔は青ざめているのに。

目だけはかった。

「美ちゃん、顔にも痕がありました。お母さんも叩かれているみたいです」

は言葉を失った。

「先、でくとは危なか」

「じゃあ、緒に来てください」

その言葉を。

は涯忘れなかった。

「今のはもう遅か。、わしから本署にも相談して――」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: