"形見を捨てた嫁の代償" 第10話
切なものをゴミと呼んだが、突然それを「宝物」と呼んでも、失った信頼まで元には戻らない。
けれどは、自分の違いに気づいたから変わることはできる。
拓哉には、そうあってほしい。
彩にも、いつか分かるが来ればいいとっている。
そして向には、物の値段ではなく、その向こう側にいるの気持ちを見られるになってほしい。
それが、妻と私が孫へ残せる番きな財産なのかもしれない。
仏壇の写真ので、妻は今も笑っている。
私はそのに座り、静かにをわせた。
「もうし、こっちで頑張るよ」
線の煙が、ゆっくり井へ昇っていった。
妻が残した柄のエプロンは、その傍らで静かに置かれていた。
それから数か、向が1で遊びに来た。
玄関をけると、以よりし背が伸びた孫が、さな袋を事そうに抱えてっていた。には学の庭科で作ったという、し歪んだ布の物入れが入っていた。
「おじいちゃん、これあげる」
「私にか?」
「うん。あんまりじゃないけど」
私は受け取って、しばらく眺めた。縫い目は揃っておらず、端から糸もしていた。それでも、向が自分ので作ったものだとうと、議なくらい温かく見えた。
「事に使うよ」
そう言うと、向は照れくさそうに笑った。
そのの夕方、私は仏壇のから妻の柄のエプロンを取りした。
広告
向は以と同じように、褪せた柄へそっとを触れた。
「まだ取ってあったんだね」
「ああ。約束したからな」
「僕がになるまで?」
「そうだ」
向はしばらく黙ってから、さく頷いた。
「じゃあ、それまでおじいちゃんも元気でいてね」
いがけない言に、私は笑ってしまった。
「それは約束できるか分からんな」
「だめ。約束して」
「分かった。できるだけ頑張るよ」
私はエプロンを畳みながら、妻がこのにいたらきっと笑っているだろうとった。
がくなれば、そのが使っていた物はいつか古くなる。は褪せ、形も崩れ、使いさえなくなるかもしれない。
けれど、そこに残されたいまで古くなるわけではない。
切にされた記憶は、誰かが覚えている限りき続ける。
あの、ゴミ袋へ投げ込まれた柄のエプロンは、私に族の本当の姿を見せてくれた。そして同に、向というさな孫が、何を切にできる子なのかも教えてくれた。
私はもう、財産を誰にいくら残すかだけを考えてはいない。
形見も、も、おも、それ自体がを幸せにするわけではない。
そこに込められたいを受け取れるがいて、初めてを持つ。
向が帰った、私は彼が作った物入れを仏壇の横へ置いた。
妻の写真と並べると、格好な布の作品が妙に似って見えた。
「今度は、向から形見をもらっちまったよ」
そう話しかけると、写真のの妻がし嬉しそうに笑った気がした。
私はその夜、久しぶりに穏やかな気持ちで眠った。
妻を失った寂しさは、これからも消えないだろう。
けれど、その寂しさごと次の世代へ渡していく必はない。
渡したいのは、妻が族をした記憶だけでいい。
いつか向がになり、あのエプロンをにした、値段ではなく、その布に残った40のをじてくれたなら、それで分だ。
それこそが、私たち夫婦が最に残せる、本当の形見なのだから。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
義母ATM、ハワイへ消ゆ
67歳のみち子は、息子夫婦と孫たちを迎えるため、今年も静かに正月の準備を始めていた。 ところがクリスマスの朝、嫁の歩美から突然告げられる。 「今年は15人で行きますから」 食事、寝具、お年玉、観光費まで、すべて義母であるみち子が用意する前提。さらに歩美は、SNSでみち子を「ATMみたい」と笑い、長年の援助まで馬鹿にしていた。 37年間働き、息子夫婦に2500万円以上を援助してきたみち子は、その日ようやく気づく。 自分は家族に大切にされていたのではない。都合よく使われていただけだったのだ。 そして12月29日。 15人が玄関前に集まった時、家の鍵は開かなかった。 その頃みち子夫婦は、すでに日本にはいなかった――。ATM扱い|親子関係1.8萬字5 81 -
完結第12話
タダ宿の代償
64歳の佐々木敦子のもとに、久しぶりに長男・大輔から電話がかかってきた。 連休に家族で帰ってくるという話に、最初は孫に会える喜びを感じた敦子。だが大輔は、当然のようにこう言った。 「母さんの家に泊まるから。ホテル代もかからないし」 しかも泊まりに来るのは、息子一家だけではなかった。嫁の両親、妹夫婦、友人夫婦まで含めた総勢10人。食事、布団、タオル、駐車場、留守番まで、敦子の家はいつの間にか“無料の宿”として扱われていた。 それでも家族のためならと我慢しかけた敦子だったが、旅行の三日前、切れていなかった電話の向こうから、息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「母さんの家使えばタダじゃん」 「お母さんってちょろいよね」 その瞬間、敦子の中で何かが静かに切れた。 この家は、3500万円を出して自分が買った家。誰かが当然のように使っていい場所ではない。 翌日、敦子は弁護士へ相談し、玄関の鍵を替える。 そして連休当日。何も知らずに10人で家の前へやって来た息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関だった――。親不孝|親子関係1.9萬字5 36 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 280 -
完結第10話
真っ暗な部屋の退学届
姉を突然亡くした39歳の孝太郎は、残された高校生の姪・美緒を引き取ることを決めた。 母を失ったばかりなのに、泣き言ひとつ言わず、家事も勉強もこなす美緒。孝太郎は「しっかりした子」だと思い、少しずつ二人の生活は形になっていく。 だがある夜、仕事から帰ると部屋は真っ暗だった。 美緒の部屋を開けた孝太郎が見たのは、床に並べられた荷物、通帳、求人誌、そして一枚の退学届。 母を亡くした少女は、本当は何を抱えていたのか。 その夜、亡き姉が残した一通の手紙が、二人の止まっていた時間を静かに動かし始める――。第二の人生|親子関係1.4萬字5 318 -
完結第13話
止まったカードと空の家
夫の正文が「会社の旅行」と言って家を出た朝、私はすべてを知っていた。 行き先で待っているのは会社の同僚ではなく、高校時代からの親友・美津。しかも夫は、私名義のクレジットカードを勝手に使い、親友との食事や買い物にまで手を出していた。 泣いて問い詰めることはしなかった。証拠はすでにそろっている。娘も、父親の異変に気づいていた。 「引っ越すよ」 夫が浮気旅行を楽しんでいる間に、私は娘と新しい家へ向かった。そして夫のカードを止め、彼の荷物を“ある場所”へ送りつける。 旅行先で支払いができなくなった夫。荷物を受け取った親友の家。そして、空っぽの部屋へ戻ることになる裏切り者。 夫と親友を同時に失った私が、娘と本当の人生を取り戻すまでの物語。夫婦|親子関係|不倫1.9萬字5 11887 -
完結第9話
ブサ婿の正体
毒親に支配され、家の借金を返すための道具として生きてきた長嶋咲。 父は恐怖で縛り、母は涙で罪悪感を植えつける。進学も、仕事も、お金も、すべて親の都合で奪われてきた咲は、ついに資産家の息子・御堂剛との結婚まで勝手に決められてしまう。 相手は地味で冴えない男性。愛情などない、ただの取引結婚――咲はそう割り切るしかなかった。 しかし結婚初夜、2人きりになった途端、剛は静かに口を開く。 「実は俺、7年前からあなたのことを知っていました」 差し出されたのは、両親の借金に関する書類。そして、咲自身も忘れかけていた冬の夜の記憶だった。 利用するつもりだった結婚相手は、本当に咲を縛る人間なのか。 それとも、初めて彼女を自由にしてくれる人なのか。 これは、誰にも見てもらえなかった2人が、遠回りの果てに互いを選び直す物語。夫婦|親子関係1.4萬字5 1990 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 3522 -
完結第10話
夕焼けの後継者
差し押さえ寸前の修理店を守るため、26歳の佐々木満は、財閥会長の豪邸にある小劇場の照明修理を引き受ける。 母を知らず、亡き父が残した工具と古いノートだけを頼りに生きてきた満。だが、屋敷の照明設備は、なぜか父のノートに記された特殊な配線と完全に一致していた。 さらに修理を終えた満は、廊下に飾られた古い写真の中に、若き日の父の姿を見つける。 「あれ……これ、僕のお父さんの写真だ」 その一言で、財閥会長夫妻の表情は一変する。30年前に消えた息子、隠された事故、偽られた死、そして満の出生に関わる秘密。 やがて一通の鑑定書が開かれた時、豪邸に閉じ込められていた長い嘘が崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.5萬字5 981