"18万円の甘い嘘" 第1話
桂節子は、目覚まし計が鳴る30分の朝5に目を覚ました。布団ので体を起こした瞬、膝の奥に鈍い痛みがり、節子はさく息を吐いて膝を押さえた。
変形性膝関節症だと診断されてから、もう何も経っていた。医師には定期な治療を勧められていたが、診察代も薬代も惜しく、節子は販の湿布を貼って痛みをごまかしていた。
古いアパートの台所はえ切っていた。蛇をひねると氷のようなが流れ、顔を洗いながら鏡を見ると、目のにはい皺が刻まれ、頬は以よりずっと痩せていた。
髪の混じった髪は、いつものようにい位置で無造作に束ねている。62歳という齢以に老けて見える気がしたが、節子には鏡のでため息をついている余裕さえなかった。
630分にはをなければならない。
朝は夜の残りの噌汁と、スーパーで半額になっていた納豆だった。炊飯器には昨炊いた米がわずかに残っており、節子は茶碗に半分だけよそった。
米粒を粒たりとも残さない。
をしっぱなしにしない。
気はこまめに消す。
は本当に耐えられなくなるまで使わない。
それが節子にとって、についた活の仕方だった。
噌汁をすすりながら、のでは今の計簿をい返していた。
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気代が先より1000円ほどくなっており、エアコンなどほとんど使っていないのに、なぜ増えたのか分からなかった。
「蔵庫かな……」
もう15以使っている古い蔵庫だった。しいものに買い替えれば気代ががるのかもしれないが、そのために何万円も払うくらいなら、気代がい方がましだと考えてしまう。
620分、節子はのセーターを着た。10以に買ったもので袖が擦り切れていたが、穴がいているわけではない。
からのジャンパーを羽織り、玄関で靴を履く。ちがった、また膝が痛んだ。
部は3階にあり、この古いアパートにはエレベーターがなかった。節子はすりにつかまり、段ずつゆっくり階段をりていった。
12の京郊はまだ暗かった。吐く息がくなり、節子は首をすくめながら駅へ向かった。
沿いの宅には次々とかりが灯っている。どこかのから子供の声が聞こえ、別のからは朝のニュース番組らしいテレビの音が漏れてきた。
節子の部には、そんな音はなかった。
夫の正雄がくなってから3。
節子はずっとだった。
正雄はの喫煙が原因で肺を患い、入退院を繰り返した末にくなった。治療費に貯の半を使い、葬儀もできるだけ質素にしたが、それでも支払いは残った。
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夫婦に子供はいなかった。
節子には頼れる息子も娘もいない。
だけで暮らしていくこともできなかった。
国民はに5万円ほど。だから60歳を過ぎても仕事を辞めるという選択肢は、最初から節子にはしなかった。
駅のホームには、同じように疲れた顔をしたたちが並んでいた。に乗り込んだが座席はすべて埋まっており、節子は吊り革につかまった。
膝は痛んだ。
けれど、若いに席を譲られるのは嫌だった。
自分はまだ働いている。
まだ老扱いされたくない。
そうう方で、っているだけでの震えをじる自分がけなかった。
弁当は駅から徒歩15分ほどの所にあった。きな倉庫のような建物で、節子はそこでパートとして16、週5働いていた。
は1000円。
の収入はおよそ12万円だった。
そこへをしても、贅沢などできるはずがない。
7になると製造ラインがき始めた。節子の担当は、ベルトコンベアで流れてくる弁当容器へ定量のご飯を盛りつける作業だった。
同じきを何百回、何千回と繰り返す。
しでも遅れると、ろの作業が詰まる。
若い作業員は軽々と速度についていくが、節子の腕は以ほどかなかった。
「桂さん、もっとく!」
班の田が苛った声をげた。
「そんなに遅いとライン全体が止まるだろ」
「すみません」
節子はをげ、慌ててをかした。
焦るとご飯が容器の縁にこぼれた。
「ほら、また!」
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