"十六歳の毒薬花嫁" 第1話
戸期、奥州郡のからしれたところに、野という薬種商のがあった。表には幅の格子戸、裏には荷が台並んでも余ると薬蔵があり、代々、藩へ薬種を納める御用商として名をられていた。番や代、働きまでわせればくが入りするだったが、から敷には奇妙なほど声がなくなっていた。
原因は、跡取りの野湊だった。の、湊は突然に力が入らなくなり、を越す頃には縁側まで歩くだけでも息を切らすようになった。もともとは肩幅の広い健康な若者で、い買付帳を度見ただけで数字を覚え、入りする商の顔と癖まで忘れない男だったのに、歳になった今では首が子供ほど細く、頬は削げ、起きているの半分を井を見つめて過ごしていた。
医者は何も呼ばれた。京帰りを名乗る医師も、で評判の本医も診たが、誰として病名を言い当てられず、最には「まれ持った難病」「命」とをそろえるようになった。でもずっと湊を診続けていた崎玄庵は、「までは難しいでしょう。く見ても」と母の澄に告げた。
澄はで野に嫁ぎ、夫をくにくしてからくを守ってきた女だった。泣き顔もり顔もには見せず、仏でになっただけいを過ごすため、奉公からは「奥様は涙のし方まで忘れた」
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と囁かれていた。その澄がある朝、族を座敷へ集め、誰も予していなかったことをにした。
「湊に嫁を迎えます。昔から、病の者には祝言が薬になるとも申します。このままで逝かせることだけは、母として耐えられません」
当然、族から反対がた。余命と言われた男に娘を差しす親がいるはずもなく、たとえ来ても財産目当てと疑われるのが落ちだった。それでも澄は諦めず、番を郡へらせ、周辺の々まで話を持ってかせたが、返ってくる言葉はどこも同じだった。
「もうくない若旦だそうではありませんか。それで、うちの娘を嫁にとは……」
半もすると、番の袋は破れ、顔には疲労がこびりついた。それでも澄は次のの名をいたを渡すだけで、音を吐かなかった。そうして皆が「もう無理だ」とい始めたの朝、を度、ゆっくり叩く音がした。
番がけると、そこにはの娘がっていた。の袖を着た柄な娘で、同じ頃の女よりつほどく、袖がいため指先まで隠れていた。初めてへ来た者なら広い庭や蔵を見回しそうなものだが、娘はだけを見て、澄のへ通されると静かにをげた。
「凛と申します。でございます。若旦様のお嫁にしていただきたく、参りました」
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澄でさえ、しばらく言葉を返せなかった。誰かに頼まれて来たのか、に困っているのか、それとも野の財産を狙っているのかと考えたが、娘の表には媚びも怯えもなかった。澄が「このの事はっていますか」と尋ねると、凛は「じております」と度だけ頷いた。
「湊は、までもたぬと言われています。それでも来るのですか」
「はい。なら、ならでも構いません。べるものと眠る所をいただければ、若旦様のおそばにおります」
答えに迷いがなかったため、かえって澄は警戒した。の娘が、これほど簡単に自分のを決められるはずがない。何かを隠していることはらかだったが、それと同に澄には、この娘を帰せば次はもう誰もを叩かないという確信もあった。
、祝言がげられた。湊は布団を何枚もねたでようやく体を起こし、障子越しのの差しに半分顔を隠しながら座っていた。凛は親類筋から借りた打掛を着せられたものの、体がさすぎて袖を度折らねば指先がず、綿子も何度直しても額へずり落ちてきた。
その姿を見て、族の老である岩尾がく咳払いした。「の嫁ともなれば形というものがある。どこのの娘とも分からず、装も満に着こなせぬ者を座敷へげるのは、の礼を損なうのではないか」
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