みかん小説
本棚

"十六歳の毒薬花嫁" 第4話

そのの午、凛は郡の薬種軒ずつ回った。ところがきなへ入るたび、主は困ったような顔をして「売れない」と断り、理由を尋ねても曖昧にげるばかりだった。軒目でようやく、の老主が声を潜めて事を教えてくれた。

「昨からが来たんですよ。しい嫁に薬を売るとは、今取引をしないとな」

凛は驚かなかった。蔵ならそうするだろうとっていたからだが、という期限を与えながら薬をに入れるを塞ぐとは、像以にこちらのきを恐れているらしい。むしろそれで、薬に何かあるという疑いがさらに濃くなった。

を抜け、川沿いをさらにったところで、凛は傾きかけたさな薬種を見つけた。板の墨はでほとんど消え、格子戸も枚歪んでいるようなだったが、へ入ると乾いた根や葉の匂いがを満たした。主の青は最初、の娘が薬を求めてきたことを笑ったものの、凛が棚を見る目つきを変えた瞬だけ黙った。

「これは混ぜ物があります。こちらは乾かし過ぎています。この根は名札と違うものです」

凛は棚からつの包みを抜きし、匂い、触り、切りつずつ説した。青は途から笑わなくなり、最にはへ座り込んで腕を組んだ。

広告

「娘、おはどこでそんな目を覚えた」

「ここにあるものを全部見分けます。その代わり、必な薬し分けていただけませんか」

はしばらく凛を睨むように見たが、やがて「やってみろ」と棚を指した。その夕方には、凛が本当にほとんどの薬を見分けたため、青は代を半分にして必なものを包んでくれた。

る直、青がもう度尋ねた。「その目は誰に習った」と言われ、凛は瞬だけを止めた。幼い頃、父の背に負われながら町から町へき、薬を指先で折ってりを確かめる姿を見て覚えたと答えることもできたが、結局何も言わずだけをげた。

帰り、役所の塀を通りかかっただった。古い札がに揺れ、半分剥がれたに見覚えのある名が残っていた。のもので、そこには藩へ納める薬へ偽物を混ぜた罪として、「吉」という男の名が記されていた。

凛は、そのけなかった。歳だったあの、捕らえられた父は「俺は混ぜていない」と繰り返し、最まで自分の無実を訴えた。けれど御用商であるの証言と帳簿のでは、貧しい薬見分役の言葉など誰にも信じてもらえなかった。

父は獄で病み、翌には帰らぬになった。母もそのを追うようにり、凛はになるになった。

広告

それでも父がぬ直に言った「野の薬を見ろ。あそこには、まだ終わっていないものがある」という言葉だけは忘れなかった。

へ嫁いだ目は、財産でも居所でもなかった。

父の名を取り戻すこと。

そして、父が命をかけて見つけた「まだ終わっていないもの」が何なのかを確かめることだった。

凛が札を見つめていると、背音がした。つ曲がってもついてきたため、凛は汁物台のへ滑り込み、噌と濡れた板の匂いので息を殺した。

音の主はしばらく辺りを探してから、やがて諦めて歩きった。凛がそっと顔をすと、の先へ消えていく細い肩が見えた。

茂だった。

その夜、蔵は息子を自へ呼んだ。「どこへっていた」と尋ねると、茂は「町へ参りました。針仕事の品を売った、そのまま帰ったようです」とだけ報告した。蔵は息子の顔をく見たが、それ以は何も問わなかった。

茂は、凛が役所の札ので父の名を見つめていたことをっていた。けれど父には話さなかった。あのさな背には、に覗かせれば壊れてしまいそうなものが乗っているように見えたからだった。

翌朝から、湊の薬が変わった。凛は青から譲られた薬を自分で確かめ、量を計り、キヌに頼んで同じ鍋で煎じた。

玄庵が処方した薬の代わりにすることへ澄は最まで難しい顔をしていたが、という約束をした以、止めなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: