"福嫁の逆転茶屋" 第6話
ところが最、泡へ客が戻っている。
しかも派な宣伝をしている様子もない。
「何をした」
造は奉公へ尋ねた。
「若旦が嫁を取りまして」
「嫁?」
「泉の娘だそうで」
造はし構えた。
「姉の方か」
「いえ、妹です」
「妹?」
奉公は言いにくそうに笑った。
「かなり、ふくよかな方で」
造はで笑った。
「何だ。あの太った女が客を呼んでいるというのか」
だが笑っていられたのは、そこまでだった。
吹へ通っていた古い客までが、
「今は泡へ」
と言い始めたからである。
造の目に、苛ちが宿った。
造は正面から泡とを競うことをしなかった。
代わりに、町の役へ噂を流した。
「泡は表向きこそ質素にしておりますが、奥では価な茶と菓子で客を集めているそうです」
「倹約のお触れを逃れるために、わざとに見せているだけだとか」
「泉から量の砂糖を回してもらっているという話もあります」
噂はしずつ形を変えながら広まり、やがて役所のへ届いた。
数の昼。
泡の簾を、数の男がくぐった。
先にっていたのは榊原弥郎という町方の役だった。
50歳を過ぎた厳格な男で、贅沢を取り締まることに容赦がないとられている。
宗介は目でただならぬ気配を察した。
「これは榊原様」
「宗介だな」
「はい」
「を見せてもらう」
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断ることなどできなかった。
弥郎は座敷から台所、菓子の保管所まで順番に見て回った。
器。
茶葉。
砂糖。
菓子型。
どれも派ではない。
むしろ以の泡をる者なら、質素になったとじるほどだった。
それでも弥郎は目を細めた。
「なるほど。表向きはよくえてある」
宗介の胸がざわつく。
「当では、お触れに背くような品は扱っておりません」
弥郎はたく笑った。
「では何とでも言える」
「仕入れ帳もご覧ください」
「帳面などからいくらでもえられる」
座敷の空気がくなった。
奉公たちは台所で息を潜めている。
もし役から「贅沢を隠している」と判断されれば、営業を続けることさえ危うくなる。
宗介はので何度も説を組みてた。
仕入れ額。
砂糖の量。
器の値。
どれを見せれば疑いがれるのか。
そのだった。
「榊原様」
静かな声がした。
福である。
宗介は振り返った。
福は普段と変わらない姿で座敷へ入り、膝をついた。
「お茶を、お召しがりいただけませんでしょうか」
宗介は驚いた。
この状況で茶をすのか。
弥郎も同じことをったのだろう。
「茶で役の目を曇らせるつもりか」
「いいえ」
福はゆっくり首を振った。
「ただ、当が普段お客様へおししている茶と菓子を、そのまま見ていただきたいのでございます」
弥郎は福をじっと見た。
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福は目を逸らさない。
やがて弥郎は座敷へ腰をろした。
「よかろう」
宗介は止めることができなかった。
福は台所へ戻ると、いつも通り茶を入れ始めた。
価な器は使わない。
く泡で使ってきた黒い茶碗。
茶葉も普段のもの。
添えた菓子は、さない「母待ち」だった。
弥郎は菓子を見て眉をひそめた。
「随分と貧相な菓子だな」
福はをげた。
「はい。見た目はただいだけでございます」
「これで客を集めているというのか」
弥郎はで笑い、母待ちをかじった。
その瞬。
表が止まった。
宗介は見逃さなかった。
弥郎の指先が、ほんのわずかに震えた。
もう。
そして茶をむ。
誰も声をせない。
い沈黙の、弥郎がい声で尋ねた。
「柚子か」
福は答えた。
「はい。ほんのしだけ」
「餡は」
「豆にございます。甘みを抑えるため、塩をし」
弥郎は菓子の断面を見つめた。
先ほどまで目にあった険しさが、しずつ消えていた。
「子供の頃……」
弥郎の声がかすれた。
宗介は黙って聞いた。
「私のは貧しかった」
弥郎は独り言のように話し始めた。
「母は菓子など買えなかった。正になっても、所ののような餅も砂糖菓子もなかった」
茶碗を握るに力が入る。
「それでも正だけは、どこからかい豆をしに入れ、柚子の皮を刻み、粗末な菓子を作ってくれた」
弥郎は唇を噛んだ。
「私は、それが嫌だった」
宗介はにった。
「でされるのが恥ずかしかった。
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