みかん小説
本棚

"福嫁の逆転茶屋" 第7話

友のには美しい菓子があったからな」

福は何も言わない。

世して、度と貧しいいはするまいとった」

郎の目が茶碗へ落ちる。

「そして本当に世することばかり考え……母の顔さえさなかった」

座敷には、弥郎の声しかなかった。

「母がくなって、もう何になるか」

郎は最まで母待ちをべた。

それから静かに茶碗を置いた。

「これは贅沢ではない」

宗介の胸がきく鳴った。

郎は福を見た。

「これは、に戻すだ」

そしてがる。

「泡に、禁じられた贅沢は見当たらぬ」

していた役たちが姿勢を正した。

「今の見回りはこれまでとする」

宗介はげた。

「ありがとうございます」

帰り際。

郎は度だけ振り返った。

「女将」

「はい」

「母待ちをつ、包んでもらえるか」

福がし驚いた。

「もちろんでございます」

つは、仏に置きたい」

福はげた。

たちがったも、宗介はしばらくそのっていた。

自分ならどうしていただろう。

帳簿を広げた。

言葉で潔を訴えた。

に分かってもらおうと必になった。

福は違った。

が何をしているなのかを、茶と菓子だけで伝えた。

そのの夜。

宗介はで菓子を作る福のろ姿をく見つめた。

丸い背

し太い腕。

のついた

広告

初めて会った、自分はそのすべてを「にどう見られるか」という尺度で見ていた。

けれど今は。

そのが、このを救ったのだとった。

役所の見回りが入ったという噂は、町へすぐに広がった。

造は「これで泡も終わりだ」とっていたらしい。

ところが結果は逆だった。

「役べた菓子を包んで帰ったそうだ」

「榊原様が認めたなら、怪しいことはしておらぬだろう」

「母待ちという菓子らしい」

の名は以にも増して静かに広まった。

それでも宗介は浮かれなかった。

むしろ胸のには、別のさが残っていた。

その夜。

客が帰り、戸締まりを終えた、宗介は台所の入を止めた。

福がで翌の菓子を仕込んでいた。

餡を丸める。

柚子を刻む。

つの分量を確かめる。

宗介はしばらく声をかけられなかった。

「福」

ようやく呼ぶと、福が振り向いた。

「はい、宗介様」

宗介は台所へ入り、福の向かいに座った。

し話したい」

福はを拭いた。

「何かございましたか」

宗介は度息をえた。

そして、畳へをついた。

げた。

福の目がきくなる。

「宗介様?」

「すまなかった」

「どうなさったのです」

宗介は顔をげない。

「私は、商いをっているつもりだった」

福は何も言わずに聞いた。

「客には良い茶をす。嘘はつかぬ。仕入れ先を困らせぬ。それで派な商になれるとっていた」

広告

ゆっくり顔をげる。

「だが私は、客の喉の渇きしか見ていなかった」

福の表が揺れた。

「あなたは、客のがどこで飢えているのかを見ていた」

宗介の声はし震えていた。

「私はそれが見えていなかった」

「宗介様……」

「それだけではない」

宗介は続けた。

「私はあなたを妻として迎えながら、あなた自を見ていなかった」

福の目に涙が浮かぶ。

「世がどう見るか。客に笑われぬか。美しい女将の方がの格ががるのではないか。そんなことばかり考えていた」

福は目を伏せた。

「分かっておりました」

その言が、宗介には何より痛かった。

「そうだろうな」

福がさく笑った。

「祝言の、宗介様は度も私の顔をご覧になりませんでしたから」

宗介は苦笑した。

「返す言葉もない」

しばらく沈黙が続いた。

「だが今は違う」

福が顔をげる。

「あなたの作る菓子を、私は誇りにう」

宗介は真っ直ぐに福を見た。

「あなたが客を見る目を、から尊敬している」

福の頬を涙が筋流れた。

「私は……」

声を詰まらせながら、福が言う。

「昔からべることが好きで、それでよく笑われました」

「うん」

「姉は美しかったので、皆が姉と私を比べました」

福はい餡へ線を落とした。

「だからせめて、台所にいれば誰にも見られないとっていたのです」

宗介の胸が痛む。

「でも、台所にいるうちに分かるようになりました」

「何が」

が、何をべると笑うのか」

福は涙のまま微笑んだ。

「どんなに茶碗を両で包むのか。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: