みかん小説
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"福嫁の逆転茶屋" 第10話

「これくらい分からないわよ」

「姉様」

「何」

「持って帰る方は、ご自分でべるとは限りません」

福はを度いた。

「切なへ渡すのかもしれません」

そして丁寧に折り直す。

「でしたら、包みまで美しい方が嬉しいでしょう」

おは何も言わなかった。

そのの午。

の配の女性がやってきた。

おは客へ笑顔を向ける。

「いらっしゃいませ」

美しい笑顔だった。

だが福は、しれたところから見ていた。

客が席につくと、おがすぐに話しかける。

「今はかいですわね」

「はい」

「お着物がとても素敵です」

「ありがとう」

「どちらでお求めになったのですか」

客の顔が僅かに曇った。

それでもおは気づかず続ける。

「ご族からの贈り物ですか」

福が静かにづいた。

「姉様」

「あら」

「こちらをお願いいたします」

回しに奥へがらせる。

おは満そうだった。

客が帰ったで尋ねる。

「私、何か悪いことを言った?」

福は責めなかった。

「お客様は、着物を褒められたにししそうなお顔をなさいました」

「そんなの分からないわ」

「分からなくてもよいのです」

福は答えた。

「分からないは、く聞かないことです」

おは黙った。

で常連客から聞けば、その着物は先くなった夫が最に買ってくれたものだった。

おはしばらく言葉を失った。

「私、ずっと……」

福を見る。

「と話すのは得だとっていた」

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福は何も言わない。

「でも、自分が話したいことを話していただけだったのね」

そのから、おはしずつ変わり始めた。

以のように客へ次々と話しかけない。

度声をかけた、相が話したそうなら続ける。

黙っていたい客には、黙って茶を置く。

初めは自然だった。

だが数かもすると、おの笑顔そのものが変わった。

に見られるための笑い方ではない。

目ののをさせるための、柔らかな笑顔になっていた。

ある、さな娘を連れた母親が来した。

娘はおを見て目を輝かせる。

「きれい」

以のおなら、その言だけで嫌がよかったかもしれない。

だが今のおは、娘のにしゃがみこんだ。

「ありがとう」

そして髪飾りではなく、娘のに握られていたさな折りを見た。

「これは、あなたが折ったの?」

娘が嬉しそうに頷く。

「お」

「まあ。とてもね」

娘の顔がるくなった。

しれたところにいた福は、その様子を見て微笑んだ。

夜。

を閉めた、おは福に言った。

「今、初めて分かった気がする」

「何がですか」

「褒められるより、がぶ顔を見る方が気持ちいいこともあるのね」

福は笑った。

「姉様は、昔からそういう方でした」

「嘘」

「本当です」

幼い頃。

転んで泣いた福に、自分の菓子を半分分けてくれたのはおだった。

だらけになった妹の着物を母に見つからぬよう隠してくれたこともある。

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おはいし、照れたように顔を背けた。

「随分昔の話ね」

「でもなくなったわけではありません」

その頃には、宗介もおを「美しい姉」として見ることはなくなっていた。

の仲のだった。

そして以、自分がなぜあれほど彼女を妻にしたいとったのか、議にじるようになっていた。

の目を引く美しさ。

たしかにそれはつの力である。

けれど、を守ること。

客を迎えること。

誰かの苦しみに気づくこと。

それとは別の力だった。

宗介はそれを、福と暮らして初めてった。

泡の評判は、季節をねるごとに確かなものになっていった。

かつてのように「華やかな茶」として名をられたのではない。

「あそこへくと、し息ができる」

そんな言葉で語られるになった。

仕事に疲れた武士。

い旅から戻った商。

嫁いだ娘を配する母。

故郷をれて奉公する若者。

誰もが泡へ来ての茶をみ、つの菓子をわった。

そしてし黙ってから帰る。

ある、方のから使いが来た。

「母待ちを、毎100個お願いしたい」

宗介は目を見いた。

これまでに作る母待ちは、くても30個ほどだった。

100個。

毎。

かなりの売になる。

泡の名もさらに広がる。

昔の宗介なら、そのでびついただろう。

だが今はすぐ返事をしなかった。

「福」

厨へ呼ぶ。

話を聞いた福はし考え、首を横に振った。

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