"100億の身代わり花嫁" 第2話
父も母も、何も悪くなかった。
をすすってでも族を守ろうとしたたちだった。
言い返したかった。
しかし妹の術費用が正式に支払われるまでは、何も問題を起こせない。
美咲は唇を噛み、黙ってをげた。
披宴の最にも、親族たちのは途切れなかった。
目当て。
貧乏。
老を騙した女。
そんな声を聞きながら、美咲は何度も涙を流した。
参列者にはの涙に見えただろう。
実際は違った。
悔しかった。
惨めだった。
だが、妹を助けるためなら耐えるしかなかった。
そして夜。
披宴を終えた美咲はスイートルームでいドレスを脱ぎ、シルクのナイトガウンへ着替えた。
やがて浴の扉がき、バスローブ姿の蔵が現れた。
美咲はちがった。
「蔵さん。今は本当にありがとうございました」
くをげる。
「親族の方には々と言われましたけど、あなたが私と妹を助けてくださったことは、忘れません。妻として、できる限り――」
「妻?」
蔵の声が変わった。
美咲は顔をげた。
そこにいたのは、結婚式で優しく微笑んでいた老ではなかった。
温かさの消えた目。
元だけに浮かぶたい笑い。
蔵は葉巻にをつけた。
「勘違いするな、美咲」
の煙がゆっくりと井へがった。
「私は君を妻として迎えたわけではない」
美咲の胸に嫌な予が広がる。
広告
蔵は歩ずつづいた。
「から君には、私の代わりとして獄を見てもらう」
美咲は言葉を失った。
その夜、自分が結婚した相がどんなだったのかを、初めてることになった。
「何を……言っているんですか」
美咲の声は、自分でも分かるほど震えていた。
蔵は葉巻を皿へ押しつけると、テーブルに置かれていた分い類の束を指した。
結婚、美咲が何度も署名させられた契約だった。
財産管理。
婚姻に関する。
族企業への関与。
美咲には理解しにくい法律用語が並び、蔵側の弁護士から「形式なものです」と説されていた。
「まさか……」
「君はほとんど読まなかったね」
蔵が笑う。
「あのには、鳥エステートの代表取締役就任承諾が入っていた」
美咲は瞬きを忘れた。
「代表……取締役?」
「そう。そして鳥エステートが裏融から借り入れている100億円の連帯保証契約もだ」
瞬、言葉のが理解できなかった。
5000万円から逃れるために結婚したはずだった。
それが今、美咲はらぬに100億円という途方もない負債の責任者にされていた。
「そんな契約、聞いてません」
「だから?」
蔵は肩をすくめた。
「署名は君のものだ」
「騙したんですね」
「騙された方が悪い」
蔵は吐き捨てるように言った。
「途半端な学歴しかなく、毎アルバイトだけしてきた君に、あの契約の細かいなど分かるはずがないとっていたよ」
広告
その瞬、美咲ので何かがたく沈んだ。
竜たちと同じだ。
この男も最初から自分を見していた。
蔵が続ける。
「今、披宴で騒いでいた竜がいただろう」
「……はい」
「あいつは裏社会の連と組んで私を引きずりろし、鳥グループを奪うつもりだ」
「なら、どうして私を……」
「だからこそだ」
蔵は笑った。
「危険なダミー会社の代表も、100億円の借の保証も、今から君だ。私を狙っていた連の目は、君へ向く」
美咲の指先がたくなった。
つまり蔵は、自分を妻にしたのではない。
盾にしたのだ。
「私が逃げたら?」
美咲は問い返した。
「警察へきます。契約も騙されて署名したと説します」
その瞬、部の扉が静かにいた。
入ってきたのは、蔵の秘・庄慎也だった。
頬にきな傷跡があり、結婚式でも度も笑わなかった柄な男だ。
庄は無言のままタブレット端末をテーブルへ置いた。
蔵が顎で示す。
「見なさい」
美咲は恐る恐る画面を覗いた。
映っていたのは妹の病だった。
集治療。
ベッドので眠っている妹。
そのすぐ横に、黒いスーツ姿の男がっている。
男のは命維持装置の源付に置かれていた。
「……何ですか、これ」
美咲の喉が震えた。
蔵は穏やかに言った。
「君が逃げたり、警察へったり、しでも私に逆らえば、あの男のが滑るかもしれない」
「やめて……」
「医療事故として処理する準備もできている」
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない
欧州出張から帰国したゆりを、夫と義母は成田空港へ置き去りにした。「四時間歩いて来い」と笑いながら、彼女を貧しいラーメン屋の娘だと見下して。 彼女は、夫の不倫や会社資金四千八百万円の横領を示す証拠を、すでに揃えていた。 空港から一本の電話をかけた三時間後、取引停止が相次ぎ、夫の会社は大混乱に陥る。嫁姑|夫婦|修羅場1.8万字5 367 -
完結第20話
結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密
結婚翌朝、朝食が五分遅れただけで、夫から親族全員の前で平手打ちされた管理栄養士の美咲。彼女は謝る代わりに、義父の御膳を床へひっくり返し、「食べさせられません」と告げる。 美咲が遅れたのは、心臓病を患う義父のために味噌汁を作り直していたからだった。義母から渡された“秘伝のタレ”には、義父の薬と組み合わさると命に関わる危険な成分が含まれていた。 しかも瓶の底には、義母自身の筆跡で《服用厳禁/致死性不整脈誘発確認済》と残されていた。単なる嫁いびりではなく、八年前から続く恐ろしい企みが明らかになり、夫と親族の立場は一気に逆転する。怒り|嫁姑|夫婦|裡の顔|修羅場1.9万字5 776 -
完結第25話
義母が倒れた夜、隣人が私を止めた理由
午前一時、夫から「母が脳卒中で倒れた」と連絡を受け、病院へ急ごうとした美緒。だが車に乗る直前、隣人の氷室に止められる。前輪の下にはブレーキ液が漏れた跡があり、義母本人へ電話すると「倒れていない」と告げられた。 防犯映像に映っていたのは、出張中のはずの夫・達也。裡切られた|夫婦|真相|介護3.0万字5 738 -
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 292 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 682 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 406 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 1337 -
完結第12話
私にだけハズレ料理を出す義母の誤算
月に一度の義実家での食事会。真希にだけ、焦げたご飯、肉のない煮物、殻付きのエビ、骨だらけの刺身が出される。しかし夫・隆は「偶然だ」「被害妄想だ」と、母親を庇い続けた。 妊娠を知った真希は、わが子を守るため、記録を残しながら静かに脱出の準備を始める。そんな中、義母は「誰がハズレを引くかしら」と、中身の違うメンチカツを食卓へ並べた。 真希が選んだ一つを切ると、中から現れたのは肉ではなく、形を整えたかまぼこ。長年「偶然」で隠されてきた嫌がらせが、夫と義父の前で初めて暴かれる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場1.3万字5 1409 -
完結第20話
家族投票の三日後
お盆の親族会で、地味な事務員として働く美緒は、姉から「家族の投票で決めた。今すぐ出ていけ」と追放を宣告される。両親も親戚も、姉の婚約者も笑って賛成した。 しかし彼らは知らなかった。倒産寸前だった老舗旅館を救い、土地と建物を買い取った真の所有者が、美緒であることを。彼女が姿を隠して注ぎ続けた資金がなければ、旅館は一か月も維持できなかった。 美緒が援助を止めると、家族の浪費と巨額の不正支出が露見する。さらに姉の婚約者も、旅館の資産を利用して自社の損失を埋めようとしていた。そして三日後、華やかな結納の最中、執行官と弁護士が現れる。怒り|嫁姑|金銭問題|修羅場1.9万字5 976