"閉店写真館の11通" 第7話
族の写真を撮らないとっていた父が。
誰にも気づかれないように、のの族を撮っていた。
写真に写っているのは、特別なではなかった。
誕でも、旅でも、祭りでもない。718という付を見ても、佐子には何の記憶もなかった。のにの差しが落ち、扇が回り、父が聞を読み、真理がで宿題をし、修が蔵庫から麦茶をしている。
36枚のうち、誰もカメラ目線ではなかった。
だからこそ、見覚えのある景ばかりだった。
佐子が客の写真を袋へ入れている。
修が脚に乗って蛍灯を替えている。
父が真理へ何か言い、真理が嫌そうな顔をしている。
真理がアイスをべながら漫画を読んでいる。
族が同じ部にいる。
それだけだった。
佐子は写真を何度も見た。
昔の父に聞きたかった。
なぜ撮ったのか。
なぜ現像したまま引きしへ入れ、誰にも見せなかったのか。
答えはない。
父は11にくなっている。
修もいない。
佐子は写真を机に並べた。
36枚でが戻るわけではない。
それでも、忘れていた音まで聞こえるような気がした。
父が聞をめくる音。
修が氷をグラスへ入れる音。
真理が「暑い」と何度も言っていた声。
の奥の古いエアコンが、々きな音をてて止まったこと。
記憶は議だった。
広告
写真を見なければ、度といさなかったかもしれない。
枚だけ、佐子のが止まった。
真理がカウンターの子に座り、を見ている写真だった。
13歳。
元をし尖らせ、退屈そうな顔をしている。
それを見て、佐子はあるのことをいした。
「友達とプールっていい?」
真理が聞いた。
「伝ってから」
佐子は答えた。
「みんな朝からくんだけど」
「うちはうちでしょう」
「何で私ばっかり」
「族だから」
その言葉。
族だから。
子も息子に似た言葉を言ったのだろう。
族だから伝って当然。
族だから分かって当然。
族だから許して当然。
佐子は写真を伏せた。
その週末、真理が閉作業へ来た。
佐子は36枚の写真を封筒ごと渡した。
「何これ」
「おじいちゃんが撮ってたみたい」
真理はの隅に座って見始めた。
最初は笑った。
「お父さん若い」
「40歳くらいだからね」
「おじいちゃん、こんな着てたっけ」
「はいつもそれだった」
写真がむにつれ、真理は静かになった。
自分が宿題をしている写真を見る。
アイスをべている写真を見る。
の奥で寝てしまっている写真もある。
「全然覚えてない」
「私も」
で写真を見た。
佐子は、ここで言うべきではないと分かっていた。
それでもからた。
「お母さんも、ちゃんと緒にいたでしょう」
真理の指が止まった。
広告
しまったとった。
「何それ」
「いや、別に」
「写真にいるから?」
「そういうじゃなくて」
真理は佐子を見た。
「お母さん、このの運会のこと、まだ気にしてる?」
「あなたが言ったからでしょう」
「私が責めたから?」
「責めたなんて言ってない」
会話がずれていく。
昔からそうだった。
とも相の言葉より、その裏にある非難を先に探してしまう。
真理は写真を封筒へ戻した。
「お母さん、これで証したいの?」
「何を」
「ちゃんと母親だったって」
その言葉に、佐子は腹がった。
「ちゃんと育てたでしょう」
「分かってるよ」
「仕事しながら、で全部できたわけじゃないけど、あなたが困らないように——」
「分かってるって!」
真理の声がきくなった。
のガラスがし震えた気がした。
とも黙った。
「私、お母さんにされてなかったなんてってないよ」
真理はゆっくり言った。
「じゃあ何なの」
「されてたことと、寂しかったことは両方あるの」
佐子は答えられなかった。
「お母さんが頑張ったことを否定したいんじゃない。が変だったのも、お父さんとおじいちゃんだけじゃ回らなかったのも、になれば分かるよ。でも子どもの私が、それを全部理解してしなきゃいけなかったわけじゃないでしょう」
真理の目は赤くなっていた。
泣いてはいなかった。
「写真見て、お母さんがいたまで『いなかった』って言うつもりないよ。
でも写真があるから、いなかったまでなくなるわけでもない」
子の写真と同じだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
凍える孫と消えた家
年末、麻子が息子夫婦の家を訪ねると、十四歳の孫・音実が靴も履かず、凍える庭に置き去りにされていた。父親たちは義姉を連れて海外旅行へ出たという。ところが空港から逃げ帰った義姉・杏奈の告白により、二人の少女が受けていた仕打ちと、音実に掛けられた一億五千万円の生命保険が明らかになる。 これは単なる育児放棄ではなかった。実の娘の命まで金に換えようとした息子に対し、土地も家も握る麻子は静かに反撃を開始する。三週間後、旅行から戻った夫婦を待っていたのは、豪邸が跡形もなく消えた更地と、彼らの人生を根底から崩すさらに大きな罠だった――。祖父母と孫|絶縁|親子関係|修羅場2.5万字5 804 -
完結第14話
1000万円のハワイ旅行を贈ったら、私だけ家族から外されました
亡き夫との夢を叶えるため、息子一家と両家の親が参加するハワイ旅行に一千百二十万円を支払った静江。ところが出発直前、息子の健太から「行くのは妻の両親だけ。もう連絡しないでほしい」と告げられる。六年間続けてきた住宅ローン援助や孫の送迎まで当然のように扱われていた静江は、息子の希望どおり、すべての支援を打ち切った。 息子夫婦がハワイを満喫している間、静江のもとに旅行代理店から精算書が届く。そこには、健太が二か月前から母を旅行者名簿から外し、「重度の認知症と末期癌の疑いがある」と虚偽の申告をしていた記録が残されていた。 さらに義弟からの電話で、健太が静江を判断能力のない高齢者に仕立て、成年後見人として財産管理権を握ろうとしていることが判明する。狙われていたのは、資産価値八千万円の自宅と三千万円の老後資金。しかも計画には、嫁とその父親、虚偽の診断書を作った医療関係者まで関与している疑いがあった。 静江は弁護士と任意後見契約を結び、正常な認知機能を証明する診断書と旅行代理店の通話記録を確保する。そして帰国した息子夫婦を待っていたのは、止められた送金、返送された孫の荷物、そしてホテルのテーブルに並べられた逃げ場のない証拠だった。家族旅行から排除した母が、自分たちの計画をどこまで知っているのか――二人がそれを理解した時、作り上げた“幸せな家族”の姿が崩れ始める。嫁姑|親不孝|親子関係2.2万字5 787 -
完結第16話
退職金を狙った息子夫婦と、亡夫の最後の記録
三十八年勤めた病院を退職した夜、久美子は息子夫婦から一枚の振込用紙を差し出された。 金額は、退職金の全額にあたる千八百万円。 「孫の将来のため」と迫られた久美子は署名を拒み、亡夫が残した通帳を調べ始める。すると、死後も三年間続いていた謎の送金と、《健太には知らせるな》という赤い文字が見つかった。 さらに孫本人は、息子夫婦が語る私立高校も医学部も望んでいなかった。 家族のために用意されたはずのお金は、いったい誰の借金を埋めていたのか。亡夫の署名が入った二通の承諾書、銀行へ持ち込まれた偽の委任状、そして貸金庫に隠された最後の手紙。 久美子が送金を止めた瞬間、息子夫婦が長年隠してきた金の流れが、静かに崩れ始める。親不孝|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.1万字5 817 -
完結第17話
娘の席を愛人に譲った夫の末路
夫・敬吾が愛人を優先し、6歳の娘・陽菜を飛行機の後方席へ一人で追いやろうとした瞬間、さゆりは離婚を決意する。実は彼女こそ、敬吾の出世を陰で支えてきた一流の法務コンサルタントだった。 さゆりは娘とプライベートジェットで北海道へ向かいながら、夫の不正経費と愛人関係を会社へ告発。敬吾は部長職を失い、北陸の倉庫へ左遷され、慰謝料と養育費の支払いも背負う。 その後、さゆりは自分の名で事務所を開き、娘との生活を再建する。一年後、母娘はあえて普通席の35列目に並んで座り、誰にも奪われない二人だけの旅へ出発した。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 2972 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 475 -
完結第24話
息子が私を認知症にした日
七十歳の誕生日、息子は親戚十二人の前で私を「認知症」だと決めつけた。 「来月から施設へ入れよう。財産の管理は俺がする」 差し出されたのは施設の申込書と、実印を押すだけの財産管理委任状。けれど私は二週間前、すでに病院で検査を受けていた。 《認知機能に年齢相応以上の低下を認めない》 息子が欲しかったのは私の安全ではない。私名義の駅前の家と、その財産を自分で動かす権利だった。 翌朝、私は司法書士へ連絡し、息子一家に無償で貸していた家の調査を始める。すると、工事をしていないはずの家に《改修費一千二百万円》の完了書類が作られ、会社の借金返済に使う計画が判明した。 さらに見つかった三百万円の借入申込書には、孫の進学費用ではなく、私の家を担保にするための記載があった。 そして、その書類の立会人欄には、最も信じたくなかった家族の名前が書かれていた。親子関係|修羅場1.6万字5 557 -
完結第12話
兄の結婚式に、実の妹の席だけありませんでした
理沙は、兄・幸介の結婚式に呼ばれなかった。 母から告げられた理由は「本当に親しい人だけの小さな式」。しかし式当日、偶然届いた親戚からの連絡で、実際には七十人規模の披露宴が開かれ、自分だけが意図的に外されていたことを知る。 家族のために青春を捧げ、兄を支えてきた過去。だが、母と兄は理沙の離婚歴や仕事を理由に「相手の家に見せられない存在」として扱っていた。 傷つきながらも北海道で一人過ごした理沙は、帰宅後、兄から真実を聞かされる。しかし兄の説明は、母の言葉を繰り返すだけの言い訳だった。 なぜ自分だけが家族から消されたのか。 そんな中、兄の妻となったゆかから突然連絡が届く。 「どうしても直接お話ししたいことがあります」 そこで明かされるのは、母と兄が隠していた、結婚式欠席の裏にあるもう一つの真実だった。兄弟姉妹|親子関係|修羅場1.8万字5 944 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 970 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 735 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 2263