"実印を押さない母" 第5話
直との同居の経緯。
名義変更を求められていること。
弁護士は最まで黙って聞いた。
「まずつ」
資料を閉じて言った。
「名義変更は、しないでください」
佳代子は顔をげた。
「やっぱり?」
「なくとも、今お話しされた状態で急いでする理由は全くありません。所権を移したら、元に戻すのは簡単ではありません」
「将来息子が相続するなら、同じじゃないんですか?」
弁護士は首を振った。
「全然違います」
佳代子がきている、このは佳代子の財産だ。
売るのも、貸すのも、み続けるのも、自分で決められる。
しかし息子へ所権を渡せば、息子側の事に響される。宅ローンだけでなく、借、婚、相続、によっては差し押さえなど、現は無関係な問題までに入ってくる能性がある。
「族でも?」
佳代子が聞くと、弁護士は静かに答えた。
「族だからこそ、財産は曖昧にしない方がいいんです」
佳代子は、その言葉をノートへいた。
相談の最に、弁護士が聞いた。
「佐伯さん自は、このをどうしたいんですか?」
佳代子は答えられなかった。
今まで考えていなかった。
夫がくなってもみ続けた。
息子たちが来たから緒にんだ。
いつか自分がねば直へ渡る。
それだけだった。
「どうしたいか、ですか」
「はい。息子さんがどうしたいかではなく」
帰りのバスので、佳代子は窓のを見ていた。
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自分はこのにみ続けたいのだろうか。
になっても。
80歳になっても。
階段をれなくなっても。
初めて自分へ問いかけた。
答えはまだなかった。
ただつだけ、はっきりしたことがあった。
直と美が決めた未来を、そのまま自分の未来にするつもりはなかった。
それから佳代子は、名義の話を拒否しなかった。
直から「役所の印鑑証取った?」と聞かれると、「まだ」と答えた。美から「司法士さんとの、来12でどうですか」と言われると、「空けておく」と返した。
は、佳代子が最には応じるとっていた。
その方が都がよかった。
佳代子も、しばらくそうわせておくことにした。
そのに、の価格を調べた。
産会社を社呼んだ。
もちろん直たちが仕事と学でている平の昼だった。
社目は建物わせて約3300万円。
社目は3500万円。
社目は「この学区なら条件次第で3700万円も狙えます」と言った。
佳代子は驚いた。
夫とを買ったは、と建物で約4200万円だった。ローンを返し終えた頃には古くなり、価値などほとんどないとっていた。ところが価格ががり、駅から徒歩圏内で学区も気があるため、ったより値段がつくらしい。
「売却をお考えですか?」
営業担当に聞かれ、佳代子は答えた。
「まだ分かりません」
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今度は自分で決めた「分からない」だった。
同じ週、へもった。
預。
。
保険。
今の活費。
ファイナンシャルプランナーにまかな試算を頼んだ。
を売却し、もうしさな古マンションへ移れば、管理費などを考えても分暮らせる能性がかった。直たちから活費をもらわなくても、もともと佳代子は困っていなかった。
むしろ今の方が支はかった。
その事実がし笑しかった。
自分は息子に「置いてもらっている老」のような気分になり始めていた。
実際には、自分ので、自分のおを使って、の活のかなりの部分を支えている。
曜。
美の両親がへ来た。
佳代子はにらされた。
「リフォームの参考に見てもらいたいんです」
美が言った。
なぜ美の両親に見てもらう必があるのか分からなかったが、佳代子は何も言わなかった。
父親の康夫は元建設会社勤務で、へ入るなり井や壁を見始めた。
「ここ抜ければLDK広くなるな」
「そうでしょ?」
美が嬉しそうに答えた。
母親の典子はキッチンへ入り、
「美、対面にしたいって言ってたもんね」
と話している。
佳代子はお茶を淹れた。
自分のにいるはずなのに、モデルハウスへ招かれた客のような気分だった。
康夫がへ入った。
「ここがお母さんの部?」
美が答える。
「そうする予定」
佳代子はそこでをいた。
「畳半になるらしいですよ」
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