"新郎が消えた結婚式" 第2話
期待しなければ、いなくなったにも傷つかずに済む。
それが当の私がにつけていた、自分を守る方法だった。
ところが航太は、そんな私の予とは違った。
最初こそお互いに慮があったが、航太は無理に距を縮めようとはしなかった。私が話したくなさそうにしていれば放っておき、し元気がないだけ「何かあった?」と自然に声をかけてくれた。
ある、学へけなくなった理由をぽつぽつと話したことがある。
母の交際相のことでからかわれたこと。
友達から距を置かれたこと。
教に入るのが怖くなったこと。
航太は途で遮らず、最まで聞いてくれた。
そして言だけ言った。
「ずっと変だったんだな」
その瞬、胸の奥がくなった。
「付きいがなのよ」と笑った母とは違った。
責めない。
笑わない。
ただ、つらかったことをつらかったのだと認めてくれた。
私は、その言葉をずっと忘れなかった。
航太は勉もよくできた。
登が続いて授業についていけなくなっていた私を見て、があるは机の隣に座って教えてくれた。
「ここは公式を丸暗記するより、こう考えた方が分かりやすいよ」
「分かんない」
「じゃあ、もっと簡単なところからやろう」
何度違えてもらなかった。
私はしずつ勉を取り戻し、どうにかへ格することができた。
広告
格通を見た、母より先にんだのは航太だった。
「やったじゃん、智」
「お兄ちゃんのおかげだよ」
「違うよ。最にやったのは智だろ」
その頃には、私は自然に航太を「お兄ちゃん」と呼ぶようになっていた。
血のつながりなど、ほとんど識しなくなっていた。
ようやく族らしいものをに入れた。
そんな気さえしていた。
けれど、その穏やかなは1ほどしか続かなかった。
ある朝。
目を覚ますと、のが妙に静かだった。
母の姿がない。
義父もいない。
旅の予定など聞いていなかった。
になって居へくと、テーブルのに1枚のが置かれていた。
そこには、たった2だけかれていた。
「ごめんね。元気でね」
私はしばらく、その文字のを理解できなかった。
そして隣でを読んでいた航太の顔から、ゆっくりと表が消えていった。
私たちの両親は、そのを境に姿を消した。
「え……どういうこと?」
私は何度も置きを読み返した。
ごめんね。
元気でね。
それだけだった。
どこへくのかも、いつ戻るのかもかれていない。
「お兄ちゃん……お母さんたち、帰ってくるよね?」
自分でもけないほど震えた声だった。
航太はすぐには答えなかった。
をテーブルへ置き、く息を吐いた。
「分からない」
「でも、こんなの変だよ。何か事があるだけで……」
「そうかもしれない」
広告
航太は私をにさせないよう言葉を選んでいるようだった。それでも、表は険しかった。
「ただ、帰ってくるって期待しすぎない方がいいとう」
「なんで?」
その答えは、数に分かった。
両親へを貸していたというから連絡が来たのだ。
話を聞くと、母が義父のをかなり使い込んでいたらしい。それを補うため、義父はから額のを借りたが、返済の見通しがたなくなった。
そして2揃って逃げた。
私たちに何も説せず。
「借りたお……どうするの?」
との話を終えた航太に、私は恐る恐る尋ねた。
「俺たちに返済義務はないって言ってくれた」
「本当に?」
「ああ。借りたのは父さんたちだから、子どもに払わせるつもりはないって」
私はしだけ胸を撫でろした。
借まで背負わされるわけではない。
それだけは、幸の幸いだった。
同に、両親への失望はさらにくなった。
そんな理解のあるからを借りて、返さず逃げたのだ。
「最……」
わずから漏れた。
航太は何も言わなかった。
自分の実の父親まで緒に逃げたのだから、私以に複雑ないだったはずだ。
「これから、どうしよう」
私は呆然としたまま呟いた。
へ学したばかりだった。
活費がどれくらいかかるのかさえ、まともに分かっていない。
頼れる親戚もいなかった。
そんな私に、航太は静かに言った。
「智、丈夫だ」
「……え?」
「俺が何とかするから」
「でも、お兄ちゃんだって学あるじゃん」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 570 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 727 -
完結第12話
23回拒まれた元部長
定年退職した元部長・加藤正雄は、会社を離れてもなお、“上司”でいることをやめられなかった。 ゴルフ練習場で出会った佐藤雅人に、頼まれてもいない指導を始める加藤。何度断られても「遠慮しているだけ」「上達のため」と勝手に解釈し、他人の時間や距離感を踏み越えていく。 やがてその迷惑な善意は、ゴルフ場だけでなく、パソコンサークルや写真講座でも同じように繰り返されていたことが明らかになる。 「結構です」と言われた回数は、記録に残っているだけで23回。 それでも加藤は、自分が嫌がられている理由を理解できない。 肩書きを失っても、人を動かす側でいたかった男。 しかし、会社の外では誰も彼の部下ではなかった。 善意のつもりで他人の領域に踏み込み続けた男が、最後に失ったものとは――。第二の人生|金銭問題1.8萬字5 266 -
完結第14話
35万円の空冷蔵庫
大晦日、妻の弓が35万円かけて用意した正月料理が、冷蔵庫から一つ残らず消えていた。 持ち去ったのは、夫・健一の母と弟。松阪牛、タラバガニ、有名料亭のおせちまで奪いながら、彼らは笑ってこう言い残す。 「明日はカップ麺でも食べてなさい」 20年間、“長男の嫁”として姑に尽くし続けてきた弓。いつか本当の家族として認めてもらえると信じ、理不尽な仕打ちにも耐えてきた。 しかし、その夜、健一は知ってしまう。食材を奪っただけでは終わらない、母と弟が5年前から隠し続けていた金の秘密を。 元日の新年会。食卓に並んだのは、豪華な料理ではなく一箱のうどんだけ。 だが、襖の向こうには親戚たちが集まり、20年間隠されてきた佐藤家の本性を静かに聞いていた――。兄弟姉妹|夫婦2.1萬字5 2508 -
完結第11話
片胸の息継ぎ
54歳の大庭律子は、市民プールの清掃スタッフとして働いている。 3年前に乳癌の手術を受け、左胸を失ってから、彼女は自分の身体をどこか他人のもののように感じていた。温泉にも行けず、水着を着ることもなく、鏡の前では息を止める癖がついていた。 そんなある夜、初心者レーンで泳ぎを習う70代の老人・須賀と出会う。 何度も水を飲み、息継ぎに失敗しながらも、須賀は諦めずに25メートルを目指していた。 「吸うんじゃなくて、先に吐くんです」 インストラクターのその言葉が、律子の心に小さな波紋を残す。 傷を隠し、欲しいものを我慢し、次の検査日だけを数えて生きてきた律子。けれど水の中で不器用に息を探す老人の姿を見つめるうちに、彼女の中で忘れていた感覚が少しずつ動き出す。 生き残った身体を、もう一度、自分のものとして受け入れられるのか。 水の中で吐き出した先に、律子が初めて吸い込んだ“次の息”とは――。孤獨|第二の人生1.6萬字5 270 -
完結第10話
消された妻の逆転乾杯
夫の昇進祝いの宴席で、佐木美和は信じられない光景を目にする。 35年間連れ添ってきた夫・孝志が、120人の招待客の前で、若い愛人を「妻です」と紹介したのだ。 本当の妻である美和は、会場の端の席に座らされ、まるで無関係な招待客の一人のように扱われていた。夫からは事前に「今日だけは黙っていろ」と言われていた。 けれど、美和は怒鳴らなかった。 ただ静かにグラスを持ち上げ、夫と愛人に向かって乾杯した。 なぜなら彼女は、17年間にわたって夫が奪い続けてきた功績、不正に使われた経費、そして自分の名前を消された証拠を、すでに会長へ渡していたからだ。 祝福の拍手が響く中、会長がゆっくりと立ち上がる。 「佐木君。今の紹介で、最後の確認が取れた」 その一言で、夫の栄光の夜は、崩壊の始まりへと変わっていく――。夫婦|第二の人生|不倫1.4萬字5 2096 -
完結第12話
欠陥品と呼ばれた歌姫
13年前、妹・恵は一枚の置き手紙を残し、夫と幼い娘を捨てて姿を消した。 「愛良はいらない。子どもを産めないお姉ちゃんにでもあげれば?」 傷ついた姪を放っておけず、桃江は妹の元夫・高也とともに、愛良を育てる道を選ぶ。血のつながりではなく、毎日の朝食と小さな約束を積み重ねながら、三人は本当の家族になっていった。 それから13年後。 美容室で桃江は、突然失踪したはずの妹と再会する。昔と変わらず、桃江を見下し、愛良を侮辱する恵。 だが直後、桃江を迎えに来た夫と、制服姿の少女を見た瞬間、妹の顔色が変わる。 彼女が捨てたものは、もう二度と取り戻せない場所にあった――。兄弟姉妹|修羅場1.8萬字5 936 -
完結第10話
真っ暗な部屋の退学届
姉を突然亡くした39歳の孝太郎は、残された高校生の姪・美緒を引き取ることを決めた。 母を失ったばかりなのに、泣き言ひとつ言わず、家事も勉強もこなす美緒。孝太郎は「しっかりした子」だと思い、少しずつ二人の生活は形になっていく。 だがある夜、仕事から帰ると部屋は真っ暗だった。 美緒の部屋を開けた孝太郎が見たのは、床に並べられた荷物、通帳、求人誌、そして一枚の退学届。 母を亡くした少女は、本当は何を抱えていたのか。 その夜、亡き姉が残した一通の手紙が、二人の止まっていた時間を静かに動かし始める――。第二の人生|親子関係1.4萬字5 594 -
完結第11話
断髪新郎の逆転婚礼
抗がん剤治療で髪を失った彩佳は、唯一の家族である兄・健太の結婚式に出席することになった。 両親を亡くしてから、兄妹2人で支え合って生きてきた彩佳。兄の幸せを心から願い、母の形見のスカーフを巻いて式場へ向かう。 しかし、兄嫁の母・礼子は、そんな彩佳を見た瞬間、冷たい言葉を投げつけた。 「その頭で親戚席に座る気なの?」 病気の妹は縁起が悪い。式に出るな。兄との縁も切れ――。 追い詰められた彩佳の前に現れた健太は、笑顔のまま静かに言い放つ。 「では、新郎ごと帰りますか?」 その一言で礼子の顔色は変わった。 だが本当の反撃は、披露宴で用意されていた“新郎新婦、最初の共同作業”から始まる。兄弟姉妹|修羅場1.7萬字5 7086 -
完結第13話
消えた御曹司と500万の罠
高卒で、施設育ちで、ただの運転手。 橋本悠人は、恋人からそう見下され、父親になる資格さえ否定された。自分の過去も家族も分からない彼に残っていたのは、ただ真面目に働くことだけだった。 そんなある日、財閥会長・田中健造の専属運転手を任された悠人は、車内でかかってきた海外からの緊急電話に、とっさにスペイン語で応対してしまう。 習った覚えのない言葉。 なぜか知っていた金庫の暗証番号。 初対面のはずなのに、彼を見て泣き崩れた会長夫人。 20年前に失われた会長の息子と、記憶を失った運転手。 偶然にしては重なりすぎる謎の先で、悠人は自分が本当は誰なのかを知っていく。 しかし、その真実を誰よりも恐れる人物が、彼を静かに消そうとしていた――。人生逆転|第二の人生1.9萬字5 1034