みかん小説
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"母が着続けた一枚の着物" 第1話

45

方のさな町では、正になると着物姿で神社へ向かう女性たちの姿が、まだ当たりのように見られた。商の奥にある古いにも、元旦の朝になると決まって同じ景が広がっていた。佐藤の母・子は、静かに押し入れをけ、奥にしまってある桐の箱を取りすのである。

箱のに入っているのは、枚の紺の着物だった。鮮やかなではなく、ねたことであせている。袖には何度も縫い直した跡があり、くで見れば見るほど、この着物が切に扱われてきたが伝わってきた。

子がその着物を着るようになって、すでに20が過ぎていた。流が変わり、しい柄の着物が先に並ぶようになっても、母は毎同じ枚を選んだ。

娘の美紀は、その姿を見るたびに複雑な気持ちになっていた。

同じ町にむ同級の母親たちは、正になるとしい着物を着ていた。写真を撮れば、赤やるい柄の着物が並び、華やかな雰囲気になる。それに比べて、自分の母親だけは、いつも古びた紺の着物だった。

になった頃、美紀は何度も母に言った。

「お母さん、もうその着物やめたら?」

「今はい着物だってあるじゃない」

しかし子はることもなく、たださく笑った。

「まだ着られるからね」

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それ以、母は何も説しなかった。

美紀には、その理由が分からなかった。母はただ節約しているだけなのだとっていた。古い物を捨てられない性格で、必なおまでしているのだと。

父親は町で働いていた。裕福な庭ではなかったが、活に困るほどではなかった。毎しずつ貯をしており、には最限のも揃っていた。

45頃になると、所ではしいテレビを買うも増えていた。蔵庫や洗濯がある庭も珍しくなくなり、々の暮らしはしずつ豊かになっていた。

だから美紀はっていた。

母はただ「もったいない」という理由だけで、しているのだと。

その考えが変わる来事が起きたのは、昭45だった。

美紀は結婚することになった。

度きりの切な族や親戚が集まり、娘のれ姿を祝うだった。

結婚式当の朝、子はいつものように桐箱をけた。そして、あの紺の着物を取りした。

その姿を見た瞬、美紀の胸にさな違が広がった。

そして、わずにしてしまった。

「お願いだから、その着物だけはやめて」

子のが止まった。

「どうして?」

母は議そうに娘を見た。

美紀はすぐに理由を言えなかった。

本当は分かっていた。

の親戚や参列者に、古い着物を着た母親を見られるのが恥ずかしかったのだ。

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母が貧しいだとわれることが嫌だった。

「だって……今は私の結婚式なのに」

美紀は、それ以言葉にできなかった。

子はしばらく黙っていた。

やがて、し寂しそうに笑った。

「分かったよ」

その子はその着物を着なかった。

娘の切なだから。

母は何も責めることなく、控えめなを選び、静かに式へ向かった。

美紀はその、母の表の奥にあるものに気づかなかった。

それから数が流れた。

美紀自も結婚し、2の子どもの母になった。

そして昭60

母・子は静かにこの世をった。

葬儀が終わった、美紀はで実の片付けをしていた。幼い頃から見慣れた具、古い器、母が切にしていた物。

つひとつに取るたび、族と過ごしたが蘇ってきた。

押し入れの奥には、あの桐箱が残されていた。

美紀は箱をけた。

には、あの紺の着物が入っていた。

「もう、処分してもいいよね……」

そう呟きながら、着物を畳もうとしただった。

内側の布に、見慣れない刺繍があることに気づいた。

さな文字だった。

本節子」

美紀は眉をひそめた。

母の名ではない。

祖母の名でもない。

体、誰の名なのか分からなかった。

その夜、美紀は所にむ母の古い友を訪ねた。

「節子さんって、誰ですか?」

その名を聞いた瞬、女性の表が変わった。

しばらく沈黙した、彼女は静かに答えた。

「あなたのお母さん……最まで言わなかったのね」

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