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"捨てられた妻の逆転人生" 第8話

「美智子、頼む、帰ってきてくれ! 婚届は破棄する! ファイルを見たんだ! おがどれだけ会社のために尽くしてくれていたか、全部った! 俺が悪かった、俺が愚かだった! 頼むから、亮介のためにも、会社のためにも戻ってきてくれ!」

輔はプライドをかなぐり捨て、を擦りつけるようにして懇願した。

しかし、美智子の返答には微の揺らぎもなかった。

輔さん。お断りいたします』

「な、なんでだ!? おだって、この会社をしていただろう!? 俺を支えてくれていたんじゃないのか!?」

『私が支えていたのは、に「族のために誠実に汗を流す」と誓ってくれた、若きのあなたです。そして、私を母として純粋に頼ってくれていた幼い亮介です』

美智子の声には、りも怨嗟もなかった。ただ、すべてをやり尽くした者だけが持つ、絶対な静寂が漂っていた。

『あなたは会社がきくなるにつれ、と肩でしか測れなくなり、私を政婦と呼びました。亮介もまた、者への敬を失ったに育ってしまった。私の役目は、もう完全に終わったのです』

「美智子! 頼む、度会って話そう! どこにいるんだ!? 今すぐそこへくから!」

『もう探さないでください。婚届は先ほど、代理弁護士を通じて役所に提されました。私には、私のしいがありますから』

プツリと通話が切れた。

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輔が狂ったようにリダイヤルを繰り返したが、受話器からは「おかけになった話番号は、お客様の都によりお繋ぎできません」という無質なアナウンスが流れるだけだった。

それからが流れた。

美智子という最の信用担保を失ったカトウ・プレシジョンは、およびスイス・オートモーティブとの契約打ち切り、そしてメインバンクからの融資引き揚げにより資繰りが完全に破綻し、民事再法の適用を申請した。事実の倒産だった。

に構えていた豪邸は債権者によって差し押さえられ、輔と亮介の元には、莫な個保証債務だけがくのしかかった。

亮介は社の座を追われ、かつて自分が顎で使っていた零細請けの期契約社員として、朝から晩まで油にまみれて械のち続ける々を送っていた。

オーダーメイドのスーツを着こなし、傲に胸を張っていた面はどこにもない。アパートので、作業着のまま酒をあおり、虚空を見つめて呟くのが課だった。

「母さんさえいれば……母さんが戻ってきてくれさえすれば……」

しかし、美智子の消息は弁護士によって完全に遮断されており、亮介がどれだけ泣き叫ぼうと、度と届くことはなかった。

方、輔は郊造アパートで、きりの荒涼とした余を過ごしていた。

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や旅に使うはずだった退職は会社の負債処理にすべて消え、元に残ったのは最限のだけだった。

朝、目を覚ましても、ばしい噌汁のりも、炊きたてのご飯の匂いもしない。

散らかった暗い部の片隅で、半額シールの貼られたたいコンビニ弁当をで喉に流し込む。

洗濯物の干し方も、ゴミの分別ルールも、何つ満に分からない。

輔は、あの朝に美智子が残していった青いファイルのコピーを、毎のように震えるいていた。

美智子の几帳面な跡。

夫のプライドを守るために自らの功績を切隠し、から会社と族を守り続けてくれた、にわたる無償のの証

「俺は……なんという宝を捨ててしまったんだ……」

輔の枯れた目から粒の涙が零れ落ち、文字の並ぶ面を濡らした。

自分が捨てたのは「無価値な政婦」などではなかった。

自分のの基盤であり、自分を成功者たらしめていた唯そのものだったのだ。

失って初めてったその真実は、残された輔の孤独な魂を、終わりのない悔で焼き苛み続けていた。

よい潮が、緑豊かな港町に佇むオープンカフェのテラス席を静かに吹き抜けていた。

くに見える平線は青く澄み渡り、陽を受けて宝のように眩しく煌めいている。

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