みかん小説
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"捨てられた妻の逆転人生" 第9話

その望できるテラスの角席に、の女性が穏やかな面持ちで腰掛けていた。

加藤美智子――いや、に旧姓へと戻った条美智子である。

彼女がに纏っているのは、質な亜麻で仕てられた涼やかなリネンのノースリーブワンピースだった。かつて夫の好みにわせて選んでいた無難でいの枚もなく、髪が自然に混じる柔らかな髪は品なショートボブにえられている。その目元には、にわたり夫の嫌を窺い、息子の淡な言葉に耐え忍んでいた頃の痛ましいは微も残っていなかった。齢を美しくねた女性だけが醸しす気品と、自したとしての凛とした性が、全から静かに満ちあふれていた。

美智子はい磁器のティーカップにを伸ばし、淹れたてのカモミールハーブティーをゆっくりとに含んだ。爽やかなりが腔をくすぐり、温かい余韻が喉を潤していく。

条先変お待たせいたしました」

カフェのスタッフが丁寧な会釈とともに、の若い女性をテラス席へと案内してきた。

黒いパンツスーツをきっちりと着こなしたその女性は、々とげた。現、次世代の医療テック分野で急速に角を現している気鋭の女性起業・神崎恵梨歳だった。

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「お忙しいところ、わざわざ港町までを運んでくださってありがとうございます。どうぞ、お座りになって」

美智子は優しく微笑み、向かいの籐の子をで示した。

「とんでもございません! 条先に直接お目にかかれる会をいただけるなら、本全国どこへでも駆けつけます」

恵梨は緊張した面持ちで子に腰掛け、鞄から分い事業計画を取りしてテーブルのに置いた。

「先、先の経営戦略会議でいただいたアドバイスに従い、における調達ルートの再構築と、欧州の認証関へのアプローチ方法を修正してまいりました。先がご紹介くださったスイスの監査法の方々も非常に協力で……本当に、条先のお力添えがなければ、この壁を乗り越えることはできませんでした」

美智子はされた類に丁寧に線を落とし、数枚をめくった、柔らかく目を細めた。

「素らしい修正案ですね。神崎さんの事業には、の命を救いたいという純粋な志とがあります。だからこそ、周りの方々も自然とを差し伸べてくださるのですよ。私がお伝いしたのは、ほんのし扉の所をお教えしただけに過ぎません」

「先……」

恵梨激の面持ちで美智子を見つめた。

美智子は現、政財界や法曹界の旧たちからい懇願を受け、若起業や社会課題の解決に挑むスタートアップ企業を育成する総経営コンサルティングファームの特別顧問に就任していた。

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政婦として閉じ込められ、としてきることをいられていたの檻から完全に解き放たれた彼女の卓越した性、国際覚、そして先代から受け継いだ誠実な脈は、今やしい代の挑戦者たちを導く確かな標となっていた。

自らの稼ぎで得た正当な報酬と、誰からも見されることのない対等な敬。美智子はまれて初めて、自分自を踏みしめてきるびを実していた。

「本の打ちわせはこれくらいにいたしましょう。神崎さん、あまり根を詰めすぎず、たまには呼吸してくださいね。体が資本ですから」

「はい! 本当にありがとうございました!」

恵梨は再び々とげ、れやかな笑顔を浮かべてカフェをにした。

再びテラスに静寂が戻ってきた。

美智子はめかけたハーブティーにをつけ、それから元に置かれたスマートフォンに目を落とした。

画面には、以の弁護士から届いたい業務報告のメールが表示されていた。

『カトウ・プレシジョン社の民事再続きの始決定、および旧自宅産の競売完について』

そこには、輔と亮介の現の状況が簡潔な事務文面で記されていた。かつて美智子を「政婦」

「無収入のまとい」と呼び、嘲笑とともに切り捨てたの男が、いまや額の負債を抱え、狭いアパートと悔に震えながらきているという事実。

美智子の瞳には、復讐を果たしたことへのも、彼らへのれみも浮かばなかった。

りもみも、過ぎったの歳とともに完全に燃え尽きていた。胸のにあるのは、ただ澄み渡るような凪の静寂だけだった。

――さようなら、輔さん。さようなら、亮介。

美智子はで静かに別れを告げ、スマートフォンをバッグの奥くへと仕い込んだ。過の未練も、誰かのための犠牲も、もう彼女のには何つ残っていなかった。

美智子はがり、テラスのすりにをかけた。

が通り抜け、彼女の柔らかな髪を優しく揺らす。青く広がる空の彼方からり注ぐ太陽のは、彼女のむべき未来を遮るものなくるく照らししていた。

「私の本当のは、ここから始まる」

誰のにもならず、条美智子というとして。彼女はをしっかりと見据え、しいへと力く歩みした。

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