"最後の上映会" 第5話
終戦直の混乱で両親とれ、期、親戚のへ預けられていたが、昭25に突然いなくなった。当13歳で、族は警察へ届けたものの、方は分からないままだった。
正は弟が町へ戻ってくる能性を信じ、祭り、駅、学、商など、の集まる所でカメラを回していた。映像のどこかに、成した弟が偶然映り込むのではないかと考えていたという。
「だからあのは、特別な来事よりの顔を撮ったのか」
清治が尋ねると、松井は頷いた。
「京へったのも、弟らしいの報があったからだと聞いた。それから町へ戻らなかった」
その夜、清治は届いたフィルムを最初から見直した。笑う族、働く主、る子供たちのを、撮者は絶えず誰かを探すようにカメラをかしていた。
懐かしい町の記録だとっていた映像は、の兄が消えた弟を探し続けたでもあった。
清治は正の現の所を探すことを決めた。ただし、誰かに任せるのではなく、自分ので確かめたいとった。
毎週届くフィルムは、座を懐かしむだけの贈り物ではない。その奥には、まだ語られていない別の物語が隠されていた。
正の所を調べるため、清治は古い民票、商会の名簿、当の器の記録をたどった。京へ転居したの所は判したが、数のものであり、を送っても「宛所に尋ねあたらず」
広告
と戻ってきた。
郵便局の岡部は規則、個の転居先を教えられないと断った。ただ、清治が事を説すると、を預かり、現の担当局へ照会できるか試してくれることになった。
がけ、昭50110にもフィルムは届いた。が積もった段のに、濡れないよう聞と油で包まれていた。置かれた刻をるため、清治は夜から事務へ泊まり込み、午4頃から窓のを見張った。
午540分、商の暗がりからの女性が現れた。のコートにいマフラーを巻き、両でフィルムケースを抱えていた。
女性は座ので周囲を見回し、段へケースを置いた。清治が扉をけると、驚いてずさった。
「待ってください。さんのご族ですか」
女性は逃げず、しばらく清治を見つめた。齢は30歳で、疲れた顔をしていたが、眉と目元が清治の記憶にある正によく似ていた。
「娘の恵子です」
清治は女性を事務へ招き、油ストーブにを入れた。恵子は袋をし、えた指先を温めながら、毎週フィルムを置いていた理由を話し始めた。
正は京の映像器会社で働いた、結婚して娘をもうけた。仕事を退いてからは自宅で古いフィルムの理をしていたが、のに病気が見つかり、くはないと告げられていた。
広告
座が閉館するという記事を方でった正は、押し入れに保管していたフィルムを町へ返すことを決めた。しかし自分の名をせば、懐かしい映像ではなく、正個のいとして見られてしまうと考えた。
「父は、度に送ってはいけないと言いました。曜ごとに本ずつ、映が終わる頃をいしながら届けてほしいと」
恵子は京から毎週、始発にい列で町まで来ていた。フィルムを置くと清治に見つからないうちに駅へ戻り、そのまま父の入院する病院へ向かっていた。
「なぜ、映画館が閉まってからだったんですか」
「父は閉館に送りたかったそうです。でも、迷っているうちににわなかった。それで、最になるに、もう度だけを当ててほしいと頼んだんです」
清治は毎週映会をいていることを伝えた。映像に映った々が集まり、くなった族や若い頃の自分たちを見ていると話すと、恵子は驚いた、両で顔を覆った。
「父には、まだ映しているとは言っていません。もう誰も見てくれなくても、さんが本だけ映してくれれば分だと言っていました」
「さんは、弟さんを探すために撮していたそうですね」
清治が尋ねると、恵子はゆっくり頷いた。正は娘にも正雄のことを話していた。
京へてから各の所を訪ね、聞へ尋ねの広告もしたが、弟は見つからなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
忘れられなかった一つの名前
昭和32年、父・佐藤隆一は、古びた軍服のボタンを何十年も大切にしまっていた。 家族が「もう捨ててもいいのでは」と言っても、父は決して手放そうとしなかった。 しかし、父の死後、そのボタンの裏に刻まれた見知らぬ男の名前が、息子・健一の知らなかった過去を呼び起こす。 なぜ父は、一つの古いボタンを守り続けたのか。 そこには戦争の記憶ではなく、時代を越えて守られた、一人の青年との約束が隠されていた――。昭和1.5萬字5 70 -
完結第10話
焼け跡の花束
昭和22年、焼け跡が残る東京の街角で、毎朝誰にも知られず置かれる小さな花束があった。 野に咲く数本の花を、まだ幼い少年が古いレンガ壁の前にそっと置いていたのだ。 戦争で両親を失った少年を救ったのは、すべてを失いながらも一切れのパンを分けてくれた一人の女性だった。 それから何十年もの間、少年が守り続けた約束。 なぜ彼は、誰もいない焼け跡へ毎朝花を届け続けたのか。 戦後の混乱の中で生まれた、小さな優しさと忘れられない「ありがとう」の物語――。昭和1.5萬字5 773 -
完結第11話
手書きの時刻表
昭和45年、山あいの小さな駅で、1人の駅員が30年以上大切に続けていた習慣があった。 田村修一が毎月作る手書きの時刻表には、列車の時間だけではなく、利用者一人ひとりの暮らしや小さな約束が記されていた。 若い駅員には古い習慣に見えたそのノート。しかし、雪の日に病院へ向かう老人を救った時、彼は初めて気づく。 それは単なる時刻表ではなく、町の人々の人生をつなぐ大切な記録だった。 やがて田村の定年の日、古いノートの中から見つかった一つの名前が、若い駅員の心を揺さぶる――。昭和1.6萬字5 138 -
完結第10話
母が着続けた一枚の着物
昭和45年,母は20年以上もの間、同じ古い着物を着続けていた。 娘の美紀は、そんな母の姿をずっと「貧しいから我慢しているだけ」だと思っていた。正月も、結婚式の日も、新しい着物を選ばず、何度も直した一枚を大切にしていた母。 しかし、母が亡くなった後、古い着物の内側から見つかった小さな刺繍が、美紀の知らなかった過去を呼び起こす。 なぜ母は、その着物を何十年も手放さなかったのか。 そこには、戦後の苦しい時代を生きた女性たちの、忘れられない約束が隠されていた――。昭和1.5萬字5 703 -
完結第10話
白いハンカチの約束
昭和47年、東京郊外の団地。 3号棟の4階に住む老夫婦は、毎朝7時になると、ベランダに真っ白なハンカチを一枚だけ出していた。 洗濯物を干さない日も、雨が降りそうな日も、そのハンカチだけは必ず揺れている。近所の子どもたちは不思議がり、「誰かへの合図ではないか」と噂した。 けれど、その白い布を毎朝じっと見つめていたのは、向かいの棟で一人暮らしをする老女だった。 ある冬の朝、いつもの時間になっても白いハンカチが出なかった。 ただそれだけの異変に、老女は胸騒ぎを覚え、急いで部屋を飛び出す。 電話もない時代、近すぎず、遠すぎず、互いの暮らしをそっと見守っていた人たち。 一枚の白いハンカチに込められていた、昭和の団地の小さな約束の物語。昭和1.4萬字5 666 -
完結第10話
赤いバイクと最後の新聞
昭和50年、岐阜県の山あいに、全校児童がわずか3人だけの小さな分校があった。 給食もなく、冬は石油ストーブを囲んで授業を受けるような古い木造校舎。そんな子どもたちが毎朝楽しみにしていたのは、山の外の世界を伝えてくれる一部の新聞だった。 ところが、その分校は翌年3月で閉校することが決まる。教材も雑誌も次々と止まり、子ども新聞の購読も打ち切られた。 それでも、59歳の郵便配達員・田所信一は、雪の山道を越えて毎朝新聞を届け続けた。 誰も頼んでいない。もう学校も終わる。たった3人の子どものために、なぜそこまでするのか。 分校最後の日、子どもたちは初めて知ることになる。 田所が守ろうとしていたのは、新聞そのものではなかった――。昭和1.5萬字5 246 -
完結第11話
余ったパンの嘘
昭和43年、東京近郊の古い木造小学校。 5年生の担任・村上昭一には、子どもたちが気になって仕方ない習慣があった。給食の時間になると、牛乳とおかずは食べるのに、コッペパンだけは毎日ほとんど口にしない。そしてそれを紙に包み、古びた革鞄の中へそっとしまうのだ。 「先生、今日も持って帰るの?」 子どもたちが尋ねても、村上はただ「腹いっぱいなんだよ」と笑うだけだった。 けれど、毎日続くその行動には、誰にも言えない理由があった。 ある放課後、どうしても気になった3人の男子は、先生の後をつけることにする。黒い自転車で工場町を抜け、川沿いの砂利道を進んだ先にあったのは、河川敷に建つ小さな家だった。 そこで子どもたちは、先生がなぜ「余った」と言い続けていたのかを知る。 1本のコッペパンに込められていたのは、ただの親切ではなかった。相手の誇りまで守ろうとした、静かな優しさだった。昭和1.6萬字5 1108 -
完結第11話
母に届かなかった10円
昭和55年、駅前の公衆電話の横に、毎月25日だけ10円玉が一枚置かれるようになった。 落とし物にしては場所が不自然で、誰が置いているのかも分からない。新聞売りの森田は、毎月同じ日に現れるその小さな硬貨を不思議に思い、やがて駅前の子どもたちもそれを「10円の日」と呼ぶようになる。 そんなある冬の朝、森田はついに10円玉を置く女性の姿を見つける。 なぜ彼女は、誰にも知られないように毎月10円玉を置き続けていたのか。 その理由は、何十年も前、たった一枚の10円玉がなかったためにかけられなかった「あの日の電話」に隠されていた――。昭和|親子関係1.6萬字5 395 -
完結第10話
売らなかった紙
昭和48年、オイルショックの不安が日本中を包み、商店街から次々と日用品が消えていった。 大阪の小さな乾物屋「丸福商店」にも、ある日、待ち望まれていたトイレットペーパーが入荷する。店先にはたちまち人が集まり、誰もが一つでも多く手に入れようとした。 ところが店主・福田源蔵は、奥に在庫があるにもかかわらず、こう貼り出す。 「本日、トイレットペーパーは販売いたしません」 客たちは怒り、源蔵を責めた。値上げするつもりなのか、隠しているのか、商売人としてひどいのではないか――。長年の常連までもが、冷たい言葉を残して店を去っていく。 それでも源蔵は、最後まで売らなかった。 その夜、店のシャッターが下りた後、彼は誰にも言わず、自転車の荷台に白い包みを積み始める。 売らなかったのは、儲けるためではなかった。 あの夜、源蔵が本当に守ろうとしていたものは、棚の商品ではなく、この町に残る小さな信用だった。昭和1.5萬字5 2041